宮崎駿監督と『ルパン三世』の関係

 2024年3月11日に劇場公開40周年を迎える『風の谷のナウシカ』は、劇場公開後、何度も「金曜ロードショー」でTV放送されたこともあって、国民的な知名度を誇る名作です。映画に先んじて1982年から連載されていた原作マンガは、映画公開から10年後の1994年に完結しました。2024年は『風の谷のナウシカ』劇場公開40周年であると同時に、原作完結30周年だといえます。

 長年に渡って多くのファンに愛されてきたナウシカですが、実は最初から完成されたキャラクターとして原作マンガに現れたわけではなさそうです。この記事では宮崎アニメの初期の名作『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のイメージの原点を振り返ります。

 宮崎監督による「ルパン」といえば、1979年に公開された映画『ルパン三世 カリオストロの城』(以下、カリ城)が有名です。ウェディングドレス姿のまま逃げる少女を謎の追っ手から救ったことで、ルパン一味はカリオストロ家の財宝を巡る陰謀へと巻き込まれます。繊細な心理描写と圧倒的なアクション、そしてスリルに満ちたストーリー展開は冒険アニメのお手本ともいえる大傑作だといえるでしょう。また島本須美さんが演じるカリオストロ大公の娘「クラリス」の可憐な姿は多くのファンを魅了しました。

『カリ城』公開後も宮崎監督は「照樹務」名義で「ルパン」に関わり続けました。1980年にテレビ放送された『ルパン三世part2』の145話『死の翼アルバトロス』と最終話『さらば愛しきルパンよ』で脚本・演出を担当しています。どちらも宮崎監督の作家性が存分に発揮されており、ファンの間では神作と名高い人気エピソードです。そして、この『ルパン』には、後の宮崎アニメに通じる重要なキャラクターやメカが登場します。

劇場公開から40年以上を過ぎても愛されている名作。画像は「ルパン三世 カリオストロの城 」(ウォルト・ディズニー・ジャパン)

クラリスから小山田真希、そしてナウシカへ

『さらば愛しきルパンよ』では「ラムダ」という装甲ロボット兵が登場し、宝石店を襲ったり、街中で戦車部隊と大立ち回りを演じたりします。ラムダはレーザーを装備した尖った頭部にずんぐりむっくりした胴体、折り目の付いた帯のような手足を持ち、広げた両腕に翼を展開して首のプロペラで飛行します。胴体の操縦席を除けば『天空の城ラピュタ』のロボット兵と極めて似ているといえるでしょう。

 そのラムダのパイロットが「小山田真希」という少女です。彼女は青い飛行服にブラウンの髪が特徴でクラリスとナウシカを演じた島本須美さんが声をあてています。性格こそまったく異なりますが、まるでナウシカがメーヴェの代わりに、ラピュタのロボット兵を操縦しているようです。

 外見的特徴や声、飛行するという点から小山田真希はナウシカの原型なのかもしれません。「クラリス」から「小山田真希」を経て「ナウシカ」が生まれたのでしょう。

●ラピュタのロボット兵の原型が『スーパーマン』に!?

 現在(2024年3月4日時点)横須賀美術館で開催中の「GIANT ROBOTS 日本の巨大ロボット群像」展によれば「ラムダ」には発想の原点と思われるロボットが展示されています。これは、宮崎監督が生まれた1941年にアメリカで公開された短編アニメ映画『スーパーマン』に登場するロボットです。作中で名前を呼ばれることがないため正確な名称は不明ですが、冒頭の作中タイトルから推察するに「MECHANICAL MONSTER」という名前なのかもしれません。

「メカニカルモンスター」は全体的に角ばったブリキのロボットのようなフォルムをしています。両腕が翼になり、首のプロペラで飛行する点、胴体内部が空洞になっている点、頭部に武器(火炎放射器)が装備されている点がラムダと似ています。

 宮崎監督はどこかで本作を目にしてインスピレーションを受け、圧倒的な戦闘力を誇る『天空の城ラピュタ』のロボット兵が生まれたのかもしれません。

 あらゆる創作には重層的な発想のバックグラウンドや、長年に渡る試行錯誤があります。『ナウシカ』やロボット兵に代表される深みのある魅力的なキャラクターには歴史があるのです。