原作どおりの容赦ないグロに「直視できない」

 グロテスクな描写や性的シーンなどの過激な表現を含むマンガ作品の実写化は、ファンにとって「再現できるのか」と心配になることもありますが、体当たりな演技で「想像以上」と好評を得た作品もあります。今回は、映倫から「R15+指定」に分類され、キャストの演技も注目された実写化映画作品を振り返りましょう。

●『ばるぼら』(原作:手塚治虫)

『鉄腕アトム』『ブラック・ジャック』などの数々の名作を生みだした手塚治虫先生が1970年代に発表したマンガ『ばるぼら』は、手塚先生の長男である手塚眞さんが監督をつとめ、2020年に実写映画化されています。

 本作は人気小説家の美倉洋介と、新宿駅で出会った謎の少女ばるぼらの奇妙な共同生活を描いた物語です。不思議な魅力があるばるぼらは、近くにいると創造力が湧いてくる、美倉にとって「ミューズ」のような存在となっていきます。やがて、美倉が自身の異常性欲からくる幻覚に悩まされ、破滅の道をたどっていく姿が描かれました。

 美倉を演じる稲垣吾郎さんと、彼を翻弄するばるぼらを演じる二階堂ふみさんによるキャラの再現性はもちろん、美倉が試着室で下着姿の女性(実はマネキン)と情事に及ぶ場面や、ばるぼらとの水中のキスシーンなども注目されました。

 加えて、ウォン・カーウァイ監督やエドワード・ヤン監督作品などで知られる、「映像美の巨匠」クリストファー・ドイル氏が撮影監督を行ったことで、作品独特の狂気とファンタジーが共存するような世界観まで見事に再現されています。ネット上では「裸体がたくさん出てくるのに下品に感じなかった」「エロにも世界観にも忠実」「すばらしく耽美的」と高く評価される作品となりました。

●『宮本から君へ』(原作:新井英樹)

 熱血営業マンの宮本浩が仕事や恋愛に七転八倒する姿を描いたマンガ『宮本から君へ』は、容赦ない展開も描き、多くのファンを魅了し、動揺させた伝説の作品です。バイオレンスシーンや過激な性暴力が描かれることから実写化を懸念する声もありましたが、2018年にドラマ化され、2019年には実写映画化を果たします。

 映画では、パートナーである中野靖子(演:蒼井優)のために奮闘する宮本を池松壮亮さんが熱演し、「不器用で熱血な宮本は池松さんだから演じられたんだろうな」「実写ならではの気迫を感じた」と評価されました。さらに靖子が性暴力を受ける過激なシーンは、蒼井優さんが、体当たりの演技を見せ、彼女が深く傷つく心理描写までしっかりと再現され、ネット上では「辛くて見ていられない」という声もあがるほど、視聴者に訴えかける作品として注目されます。

「MOVIE WALKER」の池松さんと蒼井さんのインタビューでは、「アスリートみたいだった」「全体的にカロリーの高い現場」などと撮影現場のハードさを振り返っており、原作の熱感を全身全霊で再現した彼らの役者魂が感じられます。また、悪役のラガーマン真淵拓馬を演じるために、2か月で30kg以上増量した一ノ瀬ワタルさんの怪演も高い評価を受けました。

体当たりな演技も、世界観の再現も好評

●『シグナル100』(原作:宮月新、作画:近藤しぐれ)

赤が映える雪景色の世界観もインパクトを残した映画『ミスミソウ』ポスタービジュアル (C)押切蓮介/双葉社 (C)2017「ミスミソウ」製作委員会

『シグナル100』は、担任教師に「自殺催眠」をかけられた高校生36人が、生き残りをかけたデスゲームに挑むスリラーマンガで、2020年に実写版映画が公開されました。当時、原作の読者からは、「こんなグロい作品、実写化していいのか?」と心配されてしまったほど、スプラッターシーンが多い作品です。

「自殺催眠」は遅刻する、電話をかける、涙を流すなど日常生活で起こりうる「特定の行動」が引き金となり、発動させた生徒は自ら命を絶つというものでした。自分以外の全員が死ぬまで終わらないデスゲームのなかで、花瓶を自分の頭に打ち付ける、電動ドリルで自らの頭に穴を開けるなど、生徒たちが次々と凄惨な死を迎えます。

 公開後は数々の残酷な描写に「グロすぎて直視できない」という声や、死への恐怖から生徒の本性が暴かれていく展開に「人間の醜さもよく描かれていると思う」という声もあがりました。また主人公の樫村怜奈を演じた橋本環奈さんに対しては「シリアスな役は新鮮だがすごくハマっていた」「鬼気迫る表情に見入ってしまう」と、絶望的な状況でも持ち前の行動力と正義感を発揮する主人公を見事演じた橋本さんの演技力にも、賞賛の声が挙がっています。また、橋本さんが主演のメジャー系の映画のため、油断して見に行ってトラウマを植え付けられた、という人も一定数いたようです。

●『ミスミソウ』(原作:押切蓮介)

 転校先でひどいいじめに遭った挙句、両親を殺された少女の凄惨な復讐劇を描いた『ミスミソウ』は、過激なスプラッター要素が多く「映像化不可能」とも言われた作品でした。壮絶で救いのない展開から「トラウママンガ」として知られる同作は、2018年に実写映画化を果たします。

 エンタメ情報サイト「SPICE」のインタビューによると、同作を手掛けた内藤瑛亮監督はプロデューサーから「もしR18になっちゃったら、しかたないです。好きにやってください」と心強い言葉をもらったそうで、釘で眼球を貫かれたり除雪車に巻き込まれて肉片が飛び散ったりと、原作どおりの残虐シーンが再現されました。

 ネット上では、「グロ耐性がない人は観ちゃダメ!」「とにかく血がすごい」と注意喚起ともいえる声もあがります。一方、雪景色を背景にした描写が多く、主人公の野咲春花が着用する赤い服や、血しぶきがよく映える情景にもなっており、「コントラストが綺麗。実写だからこそできた表現」「美しくて引き込まれる」と作品の世界観が絶賛されました。

 また、可憐な少女から殺戮者へと豹変する春花を演じる山田杏奈さんや、彼女を支えながらも実は粗暴な本性を持っていたクラスメイトの相場晄を演じる清水尋也さんなど、若手キャストたちの名演技にも注目が集まります。原作者の押切蓮介先生も、俳優たちの演技力や映像美を意識した残虐描写に「原作を超えてしまった」と発言するほど、高いクオリティの実写版です。