「保護者の助言と指導」は難しい?

 毎年何本も公開されるアニメ映画のなかには、強烈な描写でトラウマ級の衝撃を与えた作品もあります。過激シーンの数々でR指定になった作品や、全年齢向けながら子供に観させるのは戸惑う作品もありました。

 古典的名作のなかでは、1973年制作のフランスとチェコスロヴァキア(当時)が共同制作したルネ・ラルー監督のアニメ映画『ファンタスティック・プラネット』が有名です。日本では1985年に公開され、2021年にもリバイバル上映されました。紙を切って作ったキャラを動かす「切り絵アニメーション」による独特な動き、シュールでかわいいけれど不気味な絵柄、容赦のない展開のストーリーで長年、観客を虜にしています。

 架空の惑星「イガム」を支配する巨体の「ドラーグ族」と、普通の人間サイズでドラーグ族に支配される「オム族」の争いを描いた作品です。ドラーグ族は青い皮膚と、ヒレのような耳と赤い目を持った見た目をしており、彼らが「オム族で遊ぶ」シーンだけでゾッとさせられてしまいます。また後半の「野性の惑星」のシーンも、怖かった方が多いのではないでしょうか。

 どういう原理で動いているのか分からない奇妙なマシンや、独特なファッション、危険ながらもかわいらしい奇怪な生物、淡々と行われるオム族の虐殺描写など、恐ろしいけれどもアート性の高い世界観が病みつきになってしまった方も多いようです。

 最近リバイバル上映された名作アニメ映画では、映倫から15歳未満は観られない「R15+」に指定された『パーフェクトブルー』(1998年)も外せません。若くして亡くなった名匠、今敏氏の監督デビュー作で、本格的なサイコホラー作品としても有名です。2023年9月より期間限定で公開されるなど長年、支持されています。

 アイドルグループ「CHAM」を卒業して女優になった主人公の「霧越未麻」は、自身のキャリアの転換点となるタイミングでさまざまな仕事をしますが、そのなかには強姦シーンの撮影やヘアヌード写真集など過酷なものもあり、悩む日々を送ります。さらに彼女の関係者たちが猟奇的に殺される事件も発生し、未麻は精神的にどんどん追い詰められていきました。

 アニメーションならではの手法で、犯人の異常性以上に「壊れていく被害者の内面」を映像化しており、観ているほうもくらくらするような感覚に襲われる作品です。さらに殺人描写も過激で、「目がくり抜かれた死体がトラウマ」「本格的な殺害描写の前の音楽演出怖すぎる」など、トラウマ級のホラー作品として高い評価を受けています。さらに終盤で「真犯人」が明らかになってからは、アニメだからこそできる現実と虚構がごっちゃになるような恐怖展開も描かれました。

 そのほか、マンガ家の水木しげる先生の生誕100周年を記念した映画で、2023年11月の公開からロングランヒットしている『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』も「グロさ」が話題になっています。TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の第6期をベースにして、原点である「目玉おやじ」の過去と「鬼太郎」が誕生するまでを描いた作品で、血液銀行に勤める太平洋戦争の帰還兵「水木」と「鬼太郎の父(作中ではゲゲ郎と呼ばれる)」のバディムービーとしても高く評価されました。

 そこまで直接的な描写があるわけではなく、PG12指定(12歳未満の方は、保護者の助言、指導が必要)止まりですが、口コミで本作を勧める人のなかにも「グロに耐性がある人は観て!」「年齢制限区分の割にはそれなりに過激なのでグロがダメ! って人はオススメ出来ません」と、注意喚起する意見もありました。

 ただ、どちらかというと『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』で「グロテスク」なのは、舞台となる田舎の「哭倉(なぐら)村」と、日本の政財界を牛耳る「龍賀一族」にまつわる衝撃的事実の方といえます。理不尽な「因習」や利益優先の姿勢による搾取構造とその被害者たちの悲劇、そして村の頂点にいる「黒幕」の行為、精神性の醜悪さはかなりショッキングです。

 観た人のなかには「直接的な描写ないけど、後からじわじわ吐き気してきた」「悪役の外道ぶりが桁外れ」「これマジで子供観られるの?」「保護者の助言と指導が必要って、子供に具体的にどう指導、助言したらいいんや」「自分が保護者だったら助言と指導諦めます(笑)」と、戸惑う意見も多々ありました。

 水木先生の戦争体験に基づいた作品『総員玉砕せよ!』の描写も取り入れられており、痛烈な反戦メッセージも含んだ良作ですが、小学生が観るのはまだ早いかもしれません。