過激なシーン再現ではR指定も必須

 過激なベッドシーンや目を覆いたくなるような暴力シーンがある原作マンガの実写化作品は、原作をそのまま再現しようとすると年齢制限がかかってしまうことも珍しくありません。コンプライアンスの面から描写がマイルドになることもありますが、映画では原作通りの再現をしたところ年齢制限がかかってしまった……という作品もありました。

 たとえば中川学先生による同名マンガを原作とする映画『くも漫。』は、中川先生本人の病気の発症からの闘病生活を描いたノンフィクション作品です。

 長年のニート生活を経て、なんとか職を得た主人公の中川(演:脳みそ夫)は「自分へのご褒美」として念願の風俗店を訪れますが、サービスを受けている最中にくも膜下出血を発症してしまいます。倒れた後の闘病生活をユニークに描いているものの、風俗店でのプレイもしっかり描かれており年齢制限はR15+です。

 くも膜下出血は完治率30%と重大な病ですが、中川が倒れた瞬間に居合わせたNo.1風俗嬢のゆのあ(演:柳英里紗)が看護師資格の勉強中だったことから適切な対処ができ、彼は一命をとりとめます。しかし、中川は搬送された際に靴を履いていたために、家族から「どこで倒れたのか」と不審に思われ、風俗店を訪れたことを隠さなければならないという新たな問題が勃発するのでした。

「くも膜下出血」という重大な病気を描きつつも、中川が風俗店で倒れたことを家族に隠す様子は「コメディとしても面白い」「ギャグパートで爆笑した」と高評価で、芸人の脳みそ夫さんの独特の演技も話題となりました。

 そのほか2020年11月20日に公開された映画『ばるぼら』(原作:手塚治虫)は、刺激の強い性愛描写が多々描かれ、劇場公開時はR15+指定となっています。

 人気小説家でありながら、異常性欲に悩まされている主人公の美倉洋介(演:稲垣吾郎)が、新宿駅の片隅で出会った謎の少女ばるぼら(演:二階堂ふみ)の奇妙な魅力に堕落していく……というストーリーです。手塚治虫先生の作品のなかでも異色な、愛と狂気が渦巻く同作の実写化が発表された際は「あの雰囲気をどこまで描けるのか」「やるからには本気でやってほしいけど大丈夫か」と、懐疑的な意見も少なくありませんでした。

 実際に劇場公開されると、二階堂さんと稲垣さんによる濃厚過ぎるベッドシーンが生々しくも耽美的に再現されており、「芸術的でうっとりした」「ここまで本気で再現されたら文句言えない」「二階堂ふみの魅力がすごい。ばるぼらみたいな女性に惹かれて沼っていく男の気持ちが痛いほど分かる。やはり創造者にはぶっ飛んだミューズが必要なのだろうか」などと、事前のイメージを大きく覆されたという声も出ています。

 また、性愛描写だけでなく衝撃的な題材を扱った作品として、山本直樹先生による同名青年マンガを原作とした映画『ビリーバーズ』も有名です。架空の宗教団体「ニコニコ人生センター」に所属する男女3人を中心とした衝撃のストーリーが繰り広げられる作品です。

 原作があまりにも過激な内容で、実写映画化が発表された際は驚きの声があがっていました。監督を務めた城定秀夫さんは、もともと原作のファンで、2023年の第36回東京国際映画祭で『ビリーバーズ』が上映された際に、監督キャリア20年のうちで唯一の「自分から企画を出した作品」であることを明かし、思い入れを語っています。

 本作は青年の「オペレーター」(演:磯村勇斗)、中年男性の「議長」(演:宇野祥平)、若い女性の「副議長」(演:北村優衣)の3人が、時折届けられるわずかな食料でギリギリの生活を保ちながら教団の「プログラム」のために無人島で共同生活を送るうち、些細な綻びから狂気に発展していくストーリーとなっています。

 俗世の汚れを洗い落として「浄化」されることを願い、外界との接触を絶って孤島で精神修行に励んでいたはずの3人が「飢え」や侵入者によって人間の欲望が炙り出されていく様子は、原作以上の危うさを感じさせます。

 特に「オペレーター」を演じた磯村さんは、役作りのために髪とヒゲを伸ばし、過酷な生活を送る様子を再現しようと食事制限を行っただけでなく、北村さんとの濃厚過ぎる濡れ場シーンも全力で演じました。そんな磯村さんの振り切った演技は、高く評価され2022年度のTAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞しています。