1895(明治28)年創業の金水晶酒造(福島市)と福島大は、2022年3月の福島県沖地震で全壊した酒蔵から救出した日本酒を、移転新築した酒蔵の仕込み水に混ぜて新たな熟成酒を醸造する実証研究を始める。慶応大も加わり、複製や改ざんができないデジタル資産を活用。ビンテージの価値をITで証明し、適正価格で販売する仕組みを目指す。

 ◇「130年の歴史、生かしたい」

 金水晶は現在は福島市で唯一の酒蔵。旧松川町(1966年に福島市と合併)で長年醸造してきたが、22年の地震で甚大な被害を受けた酒蔵を取り壊し、北西に約10キロ離れた同市荒井に設備を順次移転。温度管理により通年で醸造ができるようになり、少量で高品質の酒造りを目指す。その中でも、斎藤湧生(わくお)社長(30)は「松川で築いてきた130年の歴史を荒井につなぎたい。醸した酒はその生き証人で、何としても生かしたかった」と力を込める。

 福島大の発酵醸造研究所で副所長を務める藤井力教授(醸造学)は、前職の酒類総合研究所(東広島市)時代、日本酒が熟成する中で増える劣化臭「老香(ひねか)」の成分を抑える酵母の開発に携わっていた。斎藤さんから相談を受け、この酵母を日本醸造協会(東京)から購入。「吟醸酒を仕込み水として生かすことで、甘みやうまみの濃い金水晶らしい熟成酒が生まれるのでは」と提案した。金水晶が熟成酒を手掛けるのは初という。

 慶大の「FinTEKセンター」(東京)はITと金融を融合させたサービス「フィンテック」を研究しておおり、慶大出身の斎藤さんはここの研究員を兼ねている。ブロックチェーン(分散型台帳)を生かしてデジタル資産の複製や改ざんをできなくする技術「NFT」(非代替性トークン)を導入し、醸造のトレーサビリティー(生産流通履歴)を証明。そのデータを基にオークション形式で適正に価格が形成されるシステムの構築を目指して独自開発する。

 斎藤さんは「新たな挑戦で、どのようなお酒ができるかもまだ分からないが、海外のように、お酒の歴史や背景、熟成酒の価値がきちんと評価されるシステムを日本にも確立したい」と意気込む。【錦織祐一】