事件に巻き込まれて亡くなった被害者の遺族に支払われる給付金について、警察庁は25日、配偶者らに支給する最低額を現行の320万円から1060万円に引き上げる方針を決めた。一定の支給対象者には増額する枠組みも新たに設けており、6月中の導入を目指す。

 給付金は犯罪被害給付制度に基づいて国が支払う。被害者に収入がない場合は支給額が低い傾向にあり、警察庁の有識者検討会が見直しに向けて議論し、結果をとりまとめた。

 現行では、被害者の年齢や事件前の収入に基づく基礎額に加え、養っている家族の人数に応じて給付金を算定している。2022年度の遺族への平均支給額は743万円だった。

 見直し後は、支給する最低額を年齢に関係なく一律に引き上げる。また、遺族が精神的なショックから働けなくなることなどを考慮して、支給を受けるのが配偶者や子、父母の場合は一定額を増額する仕組みを新設する。近年の支給実績を当てはめると、9割にこの増額が適用される。

 被害者が20歳未満で収入がないときの給付金が最低額で、現行では320万円となっている。今後は最低額の引き上げに加え、支給対象者が祖父母や兄弟姉妹など一部の場合を除いて新設の増額分が反映されるため、1060万円に上がる。

 また、けがをした被害者が休業した場合や、障害が残った際の給付金の最低額も上げる。パブリックコメント(意見公募)を実施し、6月中に導入される見込み。

 一方で増額されても、交通死亡事故などで支払われる自動車損害賠償責任(自賠責)保険より給付額が低い水準にとどまるケースがある。このため有識者検討会は、算定方法のさらなる見直し、遺族と被害者の損害の回復や経済的支援の在り方などの課題が残されていると指摘した。

 また、犯罪被害者の支援は自治体によって内容に差があるとの指摘がある。有識者検討会のとりまとめを踏まえ、警察庁は都道府県などに対し、遺族らの相談に対応する「犯罪被害者等支援コーディネーター」を設けるなど、遺族らにとって利用しやすいワンストップサービスを拡充するよう求める。

 給付金を巡っては、21年に大阪・北新地の心療内科クリニックで起きた放火殺人事件では、休職や離職を余儀なくされていた犠牲者が多く、遺族は十分な給付金を受け取れないため、制度を見直すよう要望が出ていた。遺族らを支援する一般社団法人「犯罪被害補償を求める会」(大阪市)で副理事長を務める奥村昌裕弁護士は「最低額が上がり、一定の増額になることは一歩前進」と評価。一方で、国が被害者に損害賠償金を立て替えて支払い、加害者に求償する制度が必要だと求めた。【山崎征克】