月刊誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「健康寿命を延ばす食事術」です。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2024年3月号に掲載の情報です。
佐賀県女性が、健康寿命日本一に
ここ数年、ぼくは佐賀県に足を運び、佐賀県民を健康長寿日本一に導こうと取り組んできました。
毎月開催している「がんばらない健康長寿実践塾」では、最高齢93歳の方を含む約1000人が、運動教室や料理教室で学びながら、健康長寿になるためのノウハウを身につけています。
こうした取り組みの結果、2020年には佐賀県の女性の健康寿命が85.2歳となり、長野県、大分県と並ぶ全国1位になりました。
「運動」と「食事」という2つの柱を実践してきた成果だと思っています。
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佐賀県の「がんばらない健康長寿実践塾」の様子です。
新しい合言葉「朝は来た、にぎやかだ」
佐賀県でも、長年、地域医療に取り組んできた長野県でも、ぼくがずっと強調してきたのは、栄養をしっかりとること。
「おいしいものを食べたものの勝ち」と言っています。
昔から「まごわやさしい」(豆、ごま、わかめ、野菜、魚、しいたけ)という合言葉がありますが、これでは知らず知らずのうちに低栄養になり、フレイル(虚弱)を招くおそれがあります。
高齢になると食欲が低下していくとともに、一人暮らしの人も増え、食事を簡単にすませたり、一度にたくさん作って毎日同じものを食べたりするなど栄養が偏りがちです。
2016年度の厚生労働省の調査では、65歳以上の男性約13%、女性約22%に低栄養傾向がみられたそうです。
そこで、ぼくは低栄養やフレイルにならないための、新しい合言葉を考えました。
「朝は来た、にぎやかだ」です。
「あ」...油。オメガ3系脂肪酸のえごま油やアマニ油、オメガ9系脂肪酸のオリーブ油を積極的にとりましょう。
「さ」...魚。サンマ、イワシ、サバなどの青い魚にはDHAやEPAが含まれています。
「は」...発酵食品。腸内細菌の善玉菌の働きをよくします。納豆やヨーグルト、チーズ、甘酒などもいいですね。
「き」...きのこ。食物繊維が豊富。
「た」...卵。たんぱく質が豊富であるほか、黄身に含まれるコリンは、認知機能の維持によいとされます。好きな方は1日3個まで。
「に」...肉。たんぱく質は筋肉量アップに欠かせません。
「ぎ」...牛乳。たんぱく質やカルシウムが豊富で、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の予防になります。
「や」...野菜。抗酸化力の高い色素は、老化のもととなる慢性炎症を防いでくれます。目標は1日350g。
「か」...海藻。食物繊維やカルシウムなどが豊富です。
「だ」...大豆。たんぱく質が豊富です。
これら10品目から、毎日7品目を食べることをおすすめします。
みそ汁で手軽にフレイル対策
長野県では、野菜不足を解消するために、「具だくさんみそ汁」が食べられてきました。
野菜に含まれるカリウムが、体内のナトリウム(塩分)を排出し、減塩したのと同じ効果があるため、高血圧の人におすすめです。
また、野菜のもつ抗酸化力により、血管の動脈硬化の予防にもつながります。
海藻やきのこなどをたっぷり入れると、食物繊維が腸内環境を整えるのに役立つでしょう。
このように優れものの具だくさんみそ汁ですが、フレイルが心配な高齢者には少し物足りません。
そこで考えたのが、「ごちそうみそ汁」です。
野菜たっぷりのみそ汁に、肉やベーコン、高野豆腐、カニカマなどのたんぱく質を入れることを提案しています。
特にベーコンからはいい出汁(だし)が出て、食べごたえがあります。
卵を割り入れるのもいいでしょう。
卵には、脳の機能をよくするコリンが含まれています。
さらに、牛乳を加えると、たんぱく質だけでなく、骨を強くするカルシウムもとることができます。
牛乳の作用で、みその味がまろやかになります。
みそ汁は比較的簡単にできる料理だと思いますが、もっと手間を省きたいという人は、時間のあるときにみそ玉を作っておき、毎朝、お湯で溶いて食べるのもいい方法です。
みそ玉(2人分)は、みそ16g (大さじ1弱)に顆粒だし2.4g (小さじ1弱)を加え、お好みの野菜(冷凍野菜や乾燥野菜など)、お好みのたんぱく質(加熱した豚こま、サバ缶、ベーコン、大豆、チーズなど)を一緒にまるめ、ラップに包んで冷凍しておくと便利です。
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野菜たっぷりでたんぱく質もとれる「ごちそうみそ汁」。
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サバ缶、チーズ、ほうれんそうの「みそ玉」。
上手なたんぱく質のとり方
何を食べるかということも大事ですが、食べるタイミングも大事です。
たんぱく質は、夜とるよりも、朝とるほうが筋肉になりやすいことが時間栄養学の研究でわかってきました。
その点でも、ごちそうみそ汁は、朝食にぴったりのメニューと言えます。
毎回の食事でも、たんぱく質は最初にとる「たんぱくファースト」を提案します。
血糖値の上昇を抑えるために、最初に野菜を食べる「ベジファースト」はよく知られていますが、フレイルが気になる高齢者は、最初に野菜の食物繊維をとると、たんぱく質の吸収まで抑えてしまうおそれがあります。
たんぱく質にも、食物繊維と同じように、血糖値の上昇を抑える働きがあることがわかってきたので、これからは「たんぱくファースト」をおすすめします。
昨年末刊行された『医師のぼくが50年かけてたどりついた 鎌田式長生き食事術』(アスコム)は、好評で5万部を突破。
低栄養やフレイルを防ぎ、健康寿命を延ばす食べ方をわかりやすくまとめました。
毎日の食事をおいしく味わいながら、90歳になってもピンピン元気に生きられる体と心をつくっていってもらいたいと思っています。

【カマタのこのごろ】
1月1日に能登半島地震が発生し、被災地では厳しい状態が続いています。七尾市にある恵寿総合病院から、諏訪中央病院にSOSが入り、入院患者の食事をすぐに届けました。同時に、輪島の避難所に医師や看護師、メディカルエンジニアらが入り、医療支援に当たっています。
鎌田も状況を見ながら、穴水町への支援に入る準備をしています。想像以上に大きな被害で、今後も、あたたかな支援が必要になっています。
文・写真/鎌田 實



<教えてくれた人>
鎌田 實(かまた・みのる)さん

1948年生まれ。医師、作家、諏訪中央病院名誉院長。チェルノブイリ、イラク、ウクライナへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。『だまされない』(KADOKAWA)など著書多数。