毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「2人の重要人物」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
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女性法律家のさきがけ・三淵嘉子をモデルとした伊藤沙莉主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『虎に翼』の第4週「屈み女に反り男?」が放送された。

寅子(伊藤)たち5人は女子部を卒業、明律大学法学部に進学する。しかし、そこから女と男の対立が描かれるわけでも、フワフワした恋愛ターンに移行するわけでもない。真ん中を貫くのは引き続き社会構造の歪さや不平等のしんどさ、そして「法」だ。

寅子たちは、意外にも花岡悟(岩田剛典)らに「男女平等の道を切り拓いている開拓者」と言われ、リスペクトされる。中には、轟太一(戸塚純貴)のように、男と女がわかりえるはずがないと言う"男尊女卑"丸出しに見える者もいるが、表面上は穏やか、その実、どこか違和感をはらんでいた。

違和感の正体が浮かび上がるのが、弁護士で梅子(平岩紙)の夫・大庭徹男(飯田基祐)が講義に来たことから。嫁入り前の美しい女性が、他家の飼い犬に顔を傷つけられ、高額の慰謝料を支払われた判例が題材となったが、結婚前の婦女にとって容姿は何より大事という徹男の発言に寅子は反論。すると徹男は、寅子たちは特別だから該当しないと言い、花岡も賛同。さらに徹男は妻・梅子をバカにした発言で男子学生たちの笑いをとる。

身内をネタに笑いをとるのは、ホモソ社会では今もよくあること。この場面で全く笑わなかった轟、一瞬口角が上がるが、すぐに真顔になった花岡の真意が注目されたが......。

寅子たちは花岡たち男子学生に誘われ、みんなでハイキングに行くことに。その話し合いをする店に梅子の21歳の長男が現れると、にわかに花岡ら一同はスンッとする。それは梅子の息子が帝大生だったから。令和の現実社会でも、中高年でなお学歴コンプレックスや妬み恨みを抱いている人、逆に学歴ばかりを心の拠り所にしている人はいる。嫉妬は女性の専売特許のように扱われがちだが、学歴や階級のヒエラルキーによる嫉妬はむしろ男性の方が深刻に見えることも多い。ドラマでも現実でもフォーカスされることの少ない「男性のスンッ」のリアルを、まさか朝ドラで見るとは。花岡たちがことさらに寅子たちを「特別」と言っていた意味がここで明示される。

ハイキング当日。集合場所で寅子は花岡が仲間たちに「女ってのは優しくするとすぐつけあがる。立場をわきまえさせないと」と話すのを聞いてしまう。一方で、寅子の靴擦れを手当てしてくれる。根っこに女性蔑視があることを知ってなお、そこをスルーして「私は特別なのね」なんてフワフワしないのが寅子だ。寅子の心の声「なんなんだこの人は」の信頼度の高さときたら。

さらに、男子学生たちが梅子を、女性を下に見る発言に寅子は憤慨。花岡は女子学生を最大限敬い、尊重していると言うが、寅子は特別扱いされたいわけじゃないと反論、花岡をどつく。すると、バランスを崩した花岡が山道から落下、骨折してしまう。

そこから梅子の秘めた思いが語られる。梅子は子を産む役目を担い、育児は義母が担ってきて、いつしか長男は母である自分を蔑むようになっていた。声をあげずにいたらバチがあたった、人を見下す人になってしまったと梅子は語る。

梅子が法を学ぶのは、次男三男を、人を見下すような人にしないため。離婚して親権をとりたいが、現行の法律ではそれが叶わず、それでも法を学ぶことで手掛かりが得られないかと考えているのだった。思えば梅子は、DV男の裁判傍聴の際、女性に対して、着物のことは諦めて、子どもがいないから離婚できてよかったと語っていた。また、日頃から、男たちには言わせておけばいい、男なんてそんなものと口にする場面が多く、諦めているように見えた。しかし、そんな梅子が実は最も現実を冷静に見据えて、現行の法に疑問や不満を抱き、変えようとしている開拓者だったとは。

長男が夫そっくりのモラハラ男に成長したことを、長男へのバチではなく、自分へのバチととらえることにも、梅子の料理が大好きだという幼い三男の愛おしさにも、何度も泣かされる。

もう一人泣かせてくれるのは、轟だ。最も男尊女卑に見えたのに、花岡の不誠実な発言には「撤回しろ!」と連呼。寅子を訴えると言う花岡を一喝、自分はあの人たちを好きになってしまった、漢の美徳と考えていた強さ優しさをあの人たちは持っている、それに比べてお前は日に日に漢っぷりが下がっていくばかりで悲しいと語るのだ。

轟の男尊女卑も、社会構造をシンプルに受け入れていただけで、ハイキングの荷物を持つのも、梅子の三男に手を貸すのも、シンプルに力の弱い者を助ける思いからだった。徹男の身内ネタに笑わないのも、花岡の虚勢をはったカッコつけ発言に撤回を求めるのも、ホモソ社会の同調圧力に飲まれないため。真の漢だ。

そんな轟に諭され、花岡も自分の弱さと向き合い、梅子に謝罪。女性をぞんざいに扱うのは仲間たちから舐められないため、女子学生たちには数少ないイスを奪われる不安や恐れを抱いていたという本音を漏らす。本当の自分じゃないと泣く花岡に梅子は、人はいろんな顔を持っている、全部あなただ、本当の自分と思えるものがあるならそれに近づけるよう頑張りなさいと、温かくも厳しい言葉をかける。人生経験の違いを感じさせる含蓄ある言葉である。

その後、寅子と花岡は互いに謝罪。さらに花岡は、腹が立つ、寅子のことばかり考えてしまうと本音を漏らす。ちょっと浮かれる寅子。しかし、フワフワ展開ではやっぱりこのドラマは終わらない。

父・直言(岡部たかし)が贈収賄容疑で逮捕されてしまうのだ。これは実際に起きた帝人事件がモデルとなっているらしい。家宅捜索の混乱の中でも、しっかり記録する気丈で聡明なはる(石田ゆり子)。そんなはるすらも弱気になり...。
そんな中、隣家の協力を得て、隣家づたいに落ちてきたのが花岡だ。小さな笑いと安堵、嬉しさの後に、現時点で最大の味方・穂高教授が登場し、ちょっとときめく。花岡、グッジョブだ。早く次週を観たい。




文/田幸和歌子

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。