MRJ断念の反省

 3月27日、経済産業省は2035年までに官民一体となって次世代国産航空機を開発すると発表した。これは大いに歓迎すべきニュースである。経済産業省が過去にこだわることなく前進していることは、前向きに評価されるべきだろう。

 三菱重工業がMRJ(三菱リージョナルジェット。のち三菱スペースジェット)の開発を断念した経緯を反省して臨む――とある。実際、MRJは残念な結果に終わった。長年の開発努力にもかかわらず、同社は2023年2月、採算が見込めないため開発を中止すると発表した。

 これに対し、自動車メーカーのホンダは、MRJとは機体の大きさが異なるものの、小型ビジネスジェット機の開発に挑戦した。MRJと同様、長い苦難の時期を経て、実際に飛行させるために必要な型式証明と耐空証明を取得し、航空機市場に参入した。して、同規模の航空機のなかで最多の販売数を記録し、大成功を収めている。

 それに比べれば、MRJはもっと粘るべきだった。MRJはすでに航空会社からかなりの受注を獲得し、米国で有効な市場を見いだしていた。しかし、必要な投資額はビジネスジェット機とはかけ離れたものであり、三菱重工業はそのリスクに耐えられなくなっていた。

大韓航空のYS-11。1971年に大阪国際空港で撮影されたYS-11Aは、実際に韓国と日本を結ぶ定期国際便を運航していた(画像:Japangyro)

航空機製造の潜在能力

 とはいえ、日本にもかつてYS-11という実際に飛んだ国産機があったし、ボーイング787のような最新鋭機には日本メーカーの部品が多く使われている。技術的に見ても、日本が国産機を作れない理由はない。しかも、日本は第2次世界大戦当時、世界最先端の戦闘機であった「ゼロ戦」を生み出した国である。その潜在能力を疑うべきではない。

 新たな開発研究に挑戦すれば、その経験を他の製品の開発にも生かすことができるだろう。コロナ禍が収束した今、国内外を問わず“移動需要”は急速に高まっている。航空機の需要も高まっている。このような有望な市場を逃すことは、国益にとって大きな損失となる。

 また、いつまでも航空機の“買い手の立場”にとどまっていては、航空会社の経営が安定しない。メーカーの価格交渉力は増すばかりで、航空会社はその負担でマイナスの影響を受けるだろう。

 航空会社はまた、国益の面でも重要な役割を果たしている。自国の航空機を利用できれば、航空機納入の面でも価格交渉の面でも有利になる。自国の航空会社の国際競争力を維持・向上させるためには、自国の航空機が国際的に広く使用され、規模の経済が働いて製造コストが下がり、国際競争力がさらに高まることが望ましい。

 しかし、戦後の敗戦国対策によって軍事的必要性に関わる技術開発が中断され、技術開発が大幅に遅れている。特に、基礎技術開発の遅れを取り戻すことは困難である。そのため、国を挙げての統一的な開発体制を構築する必要がある。

滑走試験を行う三菱航空機の「三菱スペースジェット」。米ワシントン州モーゼスレイクにて。2019年12月10日撮影(画像:時事)

国家的リーダーシップの必要性

 問題は、どのような形で開発を行うかである。

 国土交通省は、MRJを国産機として成功させるために、障害と思われた旧来の法制度を時代に即したものに改正し、側面支援を図ろうと努力した。しかし、その過程で、政府が一企業の成功のために努力するのはおかしいのではないかという疑問の声が上がったのも事実である。

 今回の計画のように、複数の企業による共同研究開発であれば、そうした反対も抑えやすいだろう。

 すでに報じられているように、航空機の開発には莫大(ばくだい)なコストとリスクがともなう。MRJの開発を三菱重工業という民間企業1社に負担させるのは、かなり無理があったといわざるを得ない。

 また、この分野のリーディングカンパニーであるボーイングとエアバスは

「軍産複合企業」

である。軍用機の開発にも携わっているが、その開発資金は採算を度外視して国家予算で賄われている。戦争に勝つためには、採算を気にしている暇はないからだ。

 軍用機の開発で得たノウハウは、民間機の開発にも応用できる。近年、中小型機の開発で頭角を現している中国やロシアにも同じことがいえる。このような状況を踏まえ、日本が再び航空機開発に挑戦するのであれば、相当な国家的リーダーシップと支援が必要であろう。

経済産業省のウェブサイト(画像:経済産業省)

求められる前向きな姿勢

 現在、航空機製造は欧米が圧倒的にリードしており、中国やロシアも先行している。今後の課題は、こうした開発の必要性を疑問視する人たちに対して、いかにわかりやすくその必要性を示すかである。

「すでに勝負はついており、財政難に陥っているのに、なぜ以前失敗した航空機の開発を始めなければならないのか」

という反論が世間から予想されるからだ。これらの反論はまったく同質ではないが、かつての高性能コンピューター開発における

「なぜ1番でなければならないのか。2番ではいけないのか」

といった批判をほうふつとさせる。

 重要なのは前を向いて挑戦することであり、さらに前述したように、この研究開発の成果は、他のさまざまな分野にも応用できるだろう。特に、現在日本が進めている宇宙開発の分野には大いに関連性があるのではないだろうか。

 このプロジェクトを成功させるためには、情報技術の進化に対応したソフトウエア開発のように、できるだけ多くの主体が自由に開発に参加できるオープンな研究体制が確立されなければならない。

 まさに国民全体で支える開発プロジェクトであり、航空機開発国としての日本の地位を復権するときだ。