台湾地震と避難

 2024年4月3日午前9時頃、台湾でM7.2の地震が発生した。約620km離れた沖縄県全域に津波警報(3m)が発令され、サイレンやスマートフォンのアラームが鳴り響き、避難指示が出された。

 地震発生当時、沖縄在住の筆者(伊波幸人、自動車ライター)は運転中だったが、車を止め、高台の避難所に移動した。避難解除後、知人に話を聞いたところ、出口が橋しかない埋め立て地は混乱していたとのことで、その場を離れてでも避難する必要があったという。

 筆者が高台に避難する過程では、移動に配慮が必要な子ども連れや高齢者もおり、近隣住民への声掛けも必要な様子だった。

 津波到達まであと1時間ほどとなった頃、避難所には続々と避難者が集まってきた。家族連れ、高齢者、子ども連れの母親など、さまざまだった。上空にはヘリコプターが飛び交い、海岸や海を監視しているのが一目瞭然だった。幸い、避難所に大きな混乱はなく、津波到達時刻は過ぎていった。

 避難者が帰宅し、一段落したところで、筆者は、避難所の指揮を執っていた副自治会長(男性)と、災害時の移動に関する

・課題
・解決策

について話をする機会を得た。

海抜を示す看板(画像:伊波幸人)

津波避難時の移動課題

 以下、副自治会長とのやり取りである。

筆者「今回の津波避難に関して、交通渋滞などの移動に関する課題はありましたか」

副自治会長「ありました。私を含め、三つの避難所に人員を配置し、交通誘導を行いました。車を誘導しなければ、駐車場も道路も混乱していたでしょう。実際、この十字路では交通渋滞が起きていました。避難までの時間は1時間ほどでしたから、大きな混乱はありませんでした。子どもたちの運動場が目の前なので、いざというときのために避難ルートを確認しておくことは大切です」

筆者「車いす利用者や高齢者など、移動に配慮が必要な人たちのために、自治体が取り組むべきことは何だと思いますか」

副自治会長「実際に車いすを押して避難することが大切だと感じています。車いすを押してみてわかったのですが、坂道を上るのはとても大変です。近隣の高台に避難した方が効果的だと思いました。自治会の避難所付近にお住まいの足の不自由な高齢者には、避難所に逃げて、EVで上の階に上がるようにアドバイスをしています」

避難勧告が発令されている間、筆者も何かできることはないかと尋ねたが、大きな混乱はないので必要ないといわれた。実に見事な指揮・伝達・連携だった。

 次に、自治体への要望と解決策を聞いた。

消火器のイメージ(画像:写真AC)

地域防災の重要性

 自治会副会長とのやり取りは続く。

筆者「今回の津波避難で、どのような課題に直面しましたか」

副自治会長「避難訓練は大切です。約30人で北部の防災センター(沖縄県名護市)を訪れ、防災・減災の研修を受けました。津波や地震が発生した場合の火災対応や消火器の使い方を学びました」

地震災害時の初期消火のために、各家庭で消火器の使い方を覚えておくことが大切だという。次に、スムーズな避難の移動に必要なものを聞いた。

筆者「今回の教訓を踏まえ、国や自治体への要望はありますか」

副自治会長「何よりも避難訓練が大切。そのための支援が必要です。やってみないとわからないことがたくさんあります。例えば、あの建物には保育園も入っており、いざというときに使えるように連携しています」

・車いすを押して坂道を上るのは無理があること
・交通渋滞による避難の遅れは、実際の避難訓練を繰り返して解決策を検討すること

が重要なのだ。幸い、確認できた限りでは避難所での大きな混乱や負傷者はなかった。

 一方で、今回の避難は、観光産業が盛んで車社会である沖縄の「移動」に関する課題を浮き彫りにした。

避難時における車の取り扱い(画像:警察庁)

交通弱者の課題、外国人への対応

 筆者が経験した限りでは、避難に配慮が必要な人は

・外国人
・子どもと家族連れ
・高齢者
・障がい者

である。いわゆる“交通弱者”が避難を必要とすることは想像に難くないが、観光立県である沖縄では、避難者のなかに

「外国人」

も多く含まれる。筆者の避難所には外国人はいなかったが、広域放送の防災アナウンスは日本語で行われ、沿岸部や河川の近くに住む外国人がどれだけ理解できるかは不明だ。外国人の避難対策として防災パンフレットが配布されているが、今回の経験を踏まえて見直す必要がある。

 もうひとつの課題は、インタビューにあった交通渋滞である。警察庁は、車を運転中に地震が発生した場合、次のような行動をとるよう求めている。一部を要約して紹介する。

・急ハンドル、急ブレーキを避ける、安全な方法により道路の左側に停止させること。
・停止後は、カーラジオ等により地震情報や交通情報を聞き、適切な行動をとる。
・引き続き車を運転するときは、道路の損壊や障害物に十分注意する。
・車を置いて避難するときは、できるだけ道路外の場所に移動しておくこと。
・やむを得ず道路上に置いて避難するときは、道路の左側に寄せて駐車する。
・エンジン停止し、鍵は付けたままかドアポケットなど分かりやい位置におく。
・車は窓を閉め、ドアはロックしないこと。
・津波から避難するためやむを得ない場合を除き、避難のために車を使用しないこと。
・津波から避難するためやむを得ず車を使用するときは、道路状況に十分注意する。

また日本自動車連盟(JAF)によれば、次の点にも注意が必要だという。

・浸水深(水面から地面までの深さ)30cmでも自走不可の恐れがある。
・水没時は車はなかなか沈まないため、落ちつき水圧差が減少するのを待つ。
・ドアが開けやすくなったら、大きく息を吸い足に力を込めて脱出する。
・冠水車両には火災の恐れがあるため、注意する。

詳しくは警察庁とJAFのウェブサイトを見てもらいたい。今回の津波の被害に遭われた人がいないことを祈りたい。筆者もいちドライバーとして、今回学んだ避難の教訓を災害時の「移動」に役立てたいと思う。