落下の恐怖、道路の隠れた危険

 4月9日午前6時過ぎ、東名高速道路の御殿場インターチェンジ(IC)〜大井松田IC間の追い越し車線で、強風のため規制標識が落下した。同じ車線を走行していた乗用車のフロントバンパーが破損したが、運転手にけがはなかった。標識の大きさは縦横約1mで、約10分後に撤去された。

 事故当日は例年にない強風の日で、筆者(ズバリ英朗、道路ライター)は都内を運転していたが、ドアの開閉などがいつも以上に大変だった。

 静岡の事故がニュースで流れたとき、日本の道路が長年抱えている問題のひとつが浮き彫りになった。今回は仮設物だったが、いつ落ちて飛んでいくかわからないものがたくさんあるのだ。

 標識は運転中でもある程度見やすく設計されているため、実際にはかなり大きい。例えば、制限速度の標識は直径60cmが普通で、場所や地域によって、普通の大きさのものから半分や2倍の大きさのものなど、さまざまだ。

 大きくて頑丈な標識に衝突したら、非常に危険である。というわけで、今回はその危険性について“ズバリ”指摘していこう。

高速道路上の標識イメージ(画像:写真AC)

半世紀の重み、標識の老朽化

 明治以降、日本の車社会は急速に発展した。そして、大正時代に現在の標識の原型が生まれ、その後、昭和時代に現在の道路交通法が何度か改正され、現在のものが規定として設置された。

「十字路あり」
「踏切あり」

などの古い警告標識は、戦後間もない1950(昭和25)年に制定され、現在も使用されている。その他のものも昭和30年代に制定され、現在も使用されている。

 つまり、当時から使われている道路はすでに半世紀以上が経過しており、標識のなかには当時からそのまま使われているものもある。当然、その間には風雨や自然災害による破損が蓄積されている。

 また、破片が飛んできたり、車がぶつかったりして標識が破損するケースもある。柱が傾いているものもあれば、一部が曲がっていたり、欠けていたりするものもある。

 このようなさまざまな理由で、日本の道路標識は老朽化しており、強風で飛ばされたり、車にぶつかったりすることもある。老朽化の度合いはさまざまだが、今にも崩れ落ちそうなものも少なくなく、本当に危険だ。

高速道路上の標識イメージ(画像:写真AC)

放置される標識、負担の壁

 老朽化した標識がそのまま放置されている理由は、労力面・経済面の問題が考えられる。簡単にいえば、直す時間や人手が足りない、修繕費を捻出するのが難しいということだ。

 内閣府が発表した「令和5年版 交通安全白書」によると、日本全国の道路に設置されている規制標識・指示標識は約949万枚である。これらをすべて管理・整理するには膨大な労力と費用がかかる。さらに、日本の道路は主に

1.高速道路国道
2.一般国道
3.都道府県道
4.市町村道

に分けられており、それぞれ標識の設置や管理を担当する部署が異なる。「2」は、主に

・直轄国道(国道番号1桁と2桁)
・補助国道(同番号3桁)

があり、前者は国土交通省の、後者は地方自治体の担当となっている。

「1」はいわゆる高速道路で、NEXCOという高速道路会社が管理している。2024年4月現在、日本の高速道路は有料化されており、設置されている標識は、利用者が支払う通行料金によって維持・管理されている。「2」「3」「4」はいわゆる一般道であり、地方自治体が管理し、国の予算や税収で標識を維持管理している。

 そのため、一般道を中心に老朽化したものを目にする機会が多い。交通量の多い幹線道路やバイパスは比較的よく整備されていることが多いが、交通量の少ない海岸沿いや山道では老朽化した標識をよく見かける。さすがにすべてのものを維持管理するのは至難の業である。

高速道路上の標識イメージ(画像:写真AC)

老朽標識落下に対策

 老朽化した標識の補修が難しい理由を説明したところで、この機会にドライバーにできる対策の範囲について考えてみたい。安全運転を続けるためには、少しでも自分でできる予防策を考え、実践することが大切だ。

 老朽化した標識は、強風や大雨などの悪天候時に飛散・落下する可能性が高い。つまり、悪天候時の運転は避けることが肝要であり、さらにいえば、海岸沿いや山間部の道路を走ることも避けなければならない。

 また、強風や大雨のときだけでなく、雨が上がった後でも標識が回収されずに落下している可能性もあるので、しばらくは用心していつもよりスピードを落として運転するのがいいだろう。

 いずれにしても、自衛・安全第一の運転・行動をしていただきたい。また、いざというときのために、日頃から飛散物や落下物に注意することも有効である。