物流倉庫での実態

 先日、X(旧ツイッター)に投稿された物流倉庫での勤務体験談が話題になった。体験談は、もともとブログに書かれていたもので、空き時間に働けるスポットワーカーを仲介するサイトに登録した人が、日用雑貨品を扱う物流倉庫で働いたという内容だった。これを有名暴露系インフルエンサーがXで取り上げたことで注目を集めた。

 ブログに書かれていた内容をまとめると、

・働いた現場は、想像していたよりもずっと“ホワイト”だった。休憩時間を除くと勤務は7時間だったが、気楽で楽しかった。
・商品のピッキング作業はシステム化されており、派遣されたその日から戦力になれるよう、あらゆる仕組みが工夫されていた
・正社員が日勤、ベテランパート社員が夜勤を担当し、現場の作業員を束ねて指導していた
・日勤は正社員から荷物の積み方を教わり、その通りに作業していたが、残業でベテランパート社員に交代した途端、「むちゃくちゃな積み方をしている」といわれ、積み直しを余儀なくされた
・ベテランパート社員が教えていたやり方は、次の工程の作業者がやりやすいようにすることを重視したスタイルだった。一方、正社員が教えていたのは、パレットを最も効率よく積み上げることに重点を置いたスタイルだった。ベテランパート社員は「教えた人が悪いんだね」といっていた。これは正社員とパート社員の“権力闘争”ではないのか。

といったようなものだった。

物流倉庫のイメージ(画像:写真AC)

即戦力を求められる現場

 昨今、スポットワーカーと人手が欲しい企業をマッチングさせる仲介サイトの市場が拡大している。

 大手仲介業者のタイミー(東京都港区)やツナググループ・ホールディングス(千代田区)などが加盟しているスポットワーク協会によると、スポットワーカーの登録者数は2024年2月には約1500万人となり、

「直近9か月で4割増加している」

という。フリーマーケット業界大手のメルカリ(港区)もこの市場に参入し、スポットワーク仲介事業を全国展開すると発表した。スポットワーカーは、物流センターや倉庫などの現場で働きたいという人も多く、雇用する側の物流業界も

「慢性的な人手不足」

を補うためにスポットワーカーに多くの労働力を頼っている。

 ワーカーは1日や数日でメンバーが入れ替わるため、受け入れる物流現場は即戦力となるように仕組みを構築しておく必要がある。誰でもピッキングや梱包をできるようにシステムを高度化したり、機械が指示する通りのやり方をすれば比較的容易に作業を行えるようにしたりしているところも多い。

 しかし、まだまだ人間の判断によって作業する必要があるところも多数存在する。それらの作業のやり方を新人に教えるのは現場の責任者となるが、その責任者のいうことが

「人によってまちまち」

であることは決して少なくない。

物流倉庫のイメージ(画像:写真AC)

混乱を招く教育の統一性欠如

 前述の投稿者が働いた現場のように、全体的には働きやすく、安全や健康に配慮された物流センターが増えている。もっとも、きつい、汚い、危険な作業をさせられるところや、落ち着ける休憩所がないような施設はワーカーから避けられ、人手不足はいつまでたっても解消されないだろう。

 働きやすくするための施設やシステムを整備する一方で、新人の教育体系が整っておらず、“教える人任せ”や“自己流”で指導を行っているところが少なからず存在する。ブログで指摘されたような、指導の仕方が人によっていうことが違うことはあってはならない。いわれた方は何を信じればよいのかわからなくなるばかりでなく、

「この会社はそれぞれの社員に好き勝手にさせているのではないか」

といった不信感を生むことになる。

 正社員とベテランパート社員のいうことが違っているという例では、あえて

「あの人とは違うように指導しよう」

とお互いに思っているわけではないだろう。それぞれ、よかれと思って積み方や手順を指導しているはずだ。しかし、結果として伝えることが異なってしまっている。

 なぜ異なるのか――。それは、それぞれが

「自己流で最適な状態を決めている」

からだ。正社員は積載効率を優先した積み方、ベテランパート社員は後工程を考慮した積み方が最適だと判断している。そこには、現場全体、物流全体を見渡して、

・何が最も適しているのかを判断する視点
・あるべき姿を共有化するためのコミュニケーション

が欠けている。あるいは経験の浅い正社員は、経験豊富なベテランパート社員に物申すことを遠慮しているのかもしれない。

物流倉庫のイメージ(画像:写真AC)

スポットワーカー教育の標準化

 異動や転勤がなく、同じ現場で長く勤務するベテランパート社員が作業の采配や新人に対する指導を任されることはよくある。それは決して悪いことではなく、むしろ現場全体のスキルアップを図れるメリットが大きい。彼らのモチベーション向上にもつながるだろう。

 しかし、

「個々人の考え方やスキルに依存しすぎる」

とさまざまな弊害が生じる。人によっていうことが違う、また、指導方法が下手だと教わる側は要領がつかめなかったり、教えられなかったことを勝手に判断したりするようになる。

 スポットワーカーが多く、人の入れ替わりが激しいところでは教育する側の指導の仕方や教える内容を標準化しておかなければならない。教えるべき事柄を抜け漏れなく、教わる側が理解しやすい説明の仕方などをマニュアルに明文化しておく。またやり方の基準を現場に図示するなど、誰でも理解できる環境にしておくことも重要である。

 その前提として、どのような作業手順や作業要領がよいのかを統一しておかなければならない。個々がそれぞれよかれと思っていることをコミュニケーションを通じて共有化し、話し合いで最適な方法を決めるようにすることが望ましい。

 業務改善のためのミーティングの場を持ったり、作業者からの提案を積極的に受け付けたりして、よりよい手順や要領を追求できるようにする。

物流倉庫のイメージ(画像:写真AC)

改善提案の活用

 さまざまな現場の作業経験があるスポットワーカーは、そこでの作業手順ややり方について問題点や改善すべきところに気づきやすいかもしれない。それらの意見を尊重し、

「自分たちで気づかなかったところを指摘してもらう」

ことは、働きやすさを確保するうえでも重要な取り組みとなるはずである。

 スポットワーカーだから「その時間帯だけ働いてくれればそれでよい」といった考えではなく、より働きやすく、ワーカーから人気のある現場にするためにも、不満点や改善すべき点を積極的に吸い上げる仕組みを作ることが重要である。

 正社員やパート社員同士、また正社員とパート社員間のコミュニケーションを密にすることはもちろん、スポットワーカーともコミュニケーションを深め、そこで働きたいと思える魅力ある職場にしていくことが望まれる。