「日本版ライドシェア」解禁と現況
4月8日、「日本版ライドシェア」が特別区・武三地区(東京23区 + 武蔵野市 + 三鷹市)から解禁された。サービスは今後各地で続々と展開される予定だが、タクシードライバーになるにはタクシー事業者への登録が必要である。
タクシー不足は地方では確かに深刻だが、特別区・武三地区では実際どうなのか。そして、ドライバー自身はこの状況をどう感じているのか。
コロナ禍などの影響で、多くのドライバーがタクシー業界を去った。しかし、状況が落ち着いた現在、
「タクシードライバーは儲かる」
という情報がネット上を飛び交い、業界の門を叩く人が増えている。筆者(二階堂運人、物流ライター)は現役ドライバーでもあるが、ある大手タクシー会社では、1か月で100人近い新規採用者があったという。
公的機関によるドライバー数の最新統計はまだ確認していないが、特別区・武三地区のドライバーはかなり増えているはずだ。しかし、世間やメディアの認識は
「タクシー不足」
なのである。
ドライバーの営業スタイル激変
ドライバーの数が増えているにもかかわらず、タクシーが不足していると誤解されている要因のひとつに、「迎車」の存在がある。ようは
「配車アプリ」
を使ったサービスである。こうしたアプリが認知され、利用されるようになったことで、ドライバーの営業スタイルは激変した。利用者のなかには、タクシーは探すものではなく
「(アプリで)呼ぶもの」
と主張する人さえいる。
ドライバーにとって、配車アプリを通じた営業はメリットがある。特別区・武三地区のタクシーの初乗り運賃は500円だが、配車アプリで拾った場合は400円上乗せされた900円になる。ほぼ倍である。
どこかで待っていれば利用者が呼んでくれる。かつてのように、血眼になって彼らを探し回る必要がないので、事故リスクも、ストレスも軽減される。配車アプリに頼るのも無理はない。
ドライバーのなかには、
・流し(ドライバーが特定のエリアや道路を巡回し、利用者を見つけること)
・付け待ち(ドライバーが特定の場所〈タクシー乗り場や交差点など〉に停車して、待機していること)
をすることなく、配車アプリだけで業務を行うドライバーもいる。公道を走らず、アプリが鳴るまで公園前や路地で待つドライバーも相当いる。そのため、
「街でタクシーを見かけなくなった = タクシー不足」
とは一概にはいえないのだ。
「タクシー不足」の本質
しかし、ドライバーの数は増えているとはいえ、世間を満足させるには到底足りないかもしれない。
実際、現場の最前線にいる筆者でさえ、曜日や時間帯によっては不足を感じる。しかし、曜日や時間帯によっては空車があふれている。ようは、世間でいうタクシー不足とは、
「利用者が利用したい時間帯にタクシーが少ないだけ」
なのではないか。そんな状態だけでタクシー不足といわれても、ドライバーは困ってしまう。
日本版ライドシェアは、タクシーが不足する曜日や時間帯に限定されているが、ドライバーはその時間帯に
「稼げない時間帯分の収入」
を得ている。そこにライドシェアを突っ込まれると、ドライバーは“ボーナスタイム”を失うことになる。
まずはダイナミック・プライシング(需給の変化に応じて価格を自動調整する価格戦略)を導入し、それでもダメならライドシェアを試すべきだったのではないか。要するに、ハード面(車両数)ではなく、ソフト面に重点を置くべきだったということだ。
政府の選択と業界の未来
小泉政権時代(2001年4月〜2006年9月)の数多くの規制緩和政策のひとつに、タクシーの規制緩和があった。これによってタクシー会社が増え、タクシーは飽和状態になった。
「世間の人たちがいう『タクシーに困らない』ってことは、空車のタクシーがそこらじゅうを走り回って、タクシー乗り場は常にタクシーで溢れかえっている、ということなんだよね」
とあるドライバーは話す。時間が経つにつれ、利用客にはこのような光景、感覚が当たり前になってしまったのかもしれない。
あちら立てればこちらが立たぬ――。ようは、「市民のストレスのない生活」を維持するか、「ドライバーの生活」を維持するかである。
政府は前者を選んだ。またしてもタクシー業界は時代の波に飲み込まれようとしている。ライドシェア解禁を“嘆き”と取るべきか、“奮起”と取るべきかは、各ドライバーの胸の内にある。