路線混雑の実態と評価

 山手線は昼間でも人が多すぎる――。こんな声を聴いたり、実際に乗ったりしてそう感じた人も多いだろう。

 そんなこともあってか、先日、フリーライターの小林拓矢氏が当媒体に「率直に言う 山手線の平日昼間「5分間隔ダイヤ」は、JRの企業価値を毀損している」(2024年3月9日配信)という記事を寄稿した。そのなかで小林氏は、

「山手線の利用者減少を象徴するかのような『平日昼間5分間隔ダイヤ』は、都市の衰退を端的に表しているとさえいえる」

と述べている。

 だが筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)はこれに異を唱えたい。まず都市の盛衰という面でいえば、山手線だけでなく並走する京浜東北線快速、さらには山手線の内側を走る中央・総武線各駅停車も併せて平日・土休日ともに完全5分間隔化することにより、新宿、田端、田町、品川など、山手線と同一ホーム接続ができる各駅で発着時刻を合わせることが可能となる。

 既に平日の京浜東北線快速と山手線との緩急接続は実現しているが、土休日の日中や中央・総武線各駅停車でも実現すれば、都市内移動における乗継利便性と速達性が向上する。これはむしろ

「都市機能を向上させるチャンス」

ではないか。また、山手線の混雑は一部の西側の区間だけの話であり、しかも山手線そのものが原因ではない。都内の地下鉄各線を見れば1両20mの車両を10両もつないだ電車を多くても5分間隔で走らせて事足りており、5分未満の間隔で走らせているのは、銀座線のような小さな車両かつ短い両数の電車でしか運行できないといった事情がある路線くらいなものである。

 つまり、20m車を11両もつないで5分間隔で走らせている山手線は“十分な仕事”をしているといえ、むしろコロナ前のように

「日中でも平日は4分おき、土休日は3分おきで走らせなければならない状態」

のほうが異常だったといえるのではないかというのが筆者の見解である。実際に山手線は平日・土休日を問わず、東側の区間はガラガラで、今の本数でも多すぎるくらいなのだ。

東京駅(画像:写真AC)

西側と東側で異なる混雑

 山手線の東西での混雑の違いの背景には

「並行路線」

の存在がある。まず東側は京浜東北線快速が5分間隔、上野東京ラインが10分間隔+日暮里にも止まる常磐線が20分間隔と、並行路線が充実していて運転間隔も均一だ。しかもどの列車も東京駅を挟んで上野〜品川間を貫通する列車しかなく、

「列車によっては東京駅までしか行かない」

ということがない。そのため、私鉄や地下鉄から乗り換えてきて、主要駅間だけ利用する人であればこれらの路線を利用する人は多いだろう。

 これに対し西側は埼京線と湘南新宿ラインがあるが新宿折返が多く、新宿駅を貫通する列車はりんかい線直通の埼京線(20分間隔)と湘南新宿ライン(15分間隔)で、1時間あたり7本しかない。しかも20分間隔と15分間隔が混ざっているため、1時間に1度は15分間隔が開くタイミングがあるという

「不整脈ダイヤ」

なのだ。これでは多少時間がかかっても山手線のホームに行けば確実だ、埼京線はあてにできないということになってしまい、山手線に集中してしまうだろう。そのため日中の山手線の最混雑区間は新宿と渋谷の間と見受けられる。

 特に前述の1時間に一度新宿貫通列車が15分開くタイミングで山手線に乗ると、混雑感は高い。つまりJRは一周1時間かかる山手線の電車を、新宿〜渋谷間のたった6分間の区間の混雑に合わせて用意させられている状況で、大変な無駄を強いられているのである。これではJRが山手線の本数を減らしたがるのもわからんでもないだろう。でもこうなったのは

「埼京線の新宿〜大崎間の本数をケチっている」

からにほかならない。

大崎駅(画像:写真AC)

新宿〜大崎間の増発提案

 そもそも、埼京線は山手線の混雑緩和のために段階的に大崎まで伸ばした。

 混雑緩和が大義名分なら日中も混雑緩和のために新宿〜大崎間を増発し、埼京線の新宿折返のダイヤとりんかい線の大崎折返のダイヤをつなげるべきだろう。その上でなら土休日の山手線は今の4分おきから5分おきに減らしても差し支えないはずだ。

 もちろん、ただ本数を増やすだけでなく、スマホネット広告などで利用者に「埼京線・湘南新宿ラインも併せて平均5分おき!」といったPRは抜かりなく行うことが重要だ。

 だが平均5分おきといってもダイヤサイクル長の違う路線同士で線路を共用すると、電車が来たり来なかったりする「不整脈ダイヤ」となってしまい、顧客の信頼性は上がらない。その元凶は

・埼京線のダイヤ
・成田エクスプレスの新宿駅の発着方法

にある。

埼京線・湘南新宿ライン 理想ダイヤ案 データイム編北行(30分サイクル)(画像:北村幸太郎)

不整脈ダイヤの元凶

 埼京線は直通先である川越線の川越から、りんかい線の新木場、相鉄線の海老名まで走っている。これらの線区と川越で接続する川越線(八王子〜川越間)、池袋〜大崎間で線路を共用する線区のダイヤサイクル長は次のとおりとなっている。

・川越線(八王子〜川越間):30分おき
・湘南新宿ライン:おおむね15分おき
・成田エクスプレス:30分おき
・相鉄線直通:30分おき
・りんかい線:毎時7本(割り切れない)
・京葉線:30分サイクル

 そしてこのなかで埼京線だけが、1時間に各駅停車6本、快速3本の20分サイクルという協調性のないダイヤなのだ。これが不整脈ダイヤの元凶のひとつである。

 これを1時間に各駅停車6本、快速2本とし、他線区との親和性がある30分サイクルのダイヤにして湘南新宿ラインなどと合わせるとどうなるだろう。複数の路線にまたがる湘南新宿ライン、相鉄線直通列車、成田エクスプレスの時刻はほぼ変えずに想定時刻表を作成してみた。なお、大宮〜川越間は20分おきから30分おきになってしまうため、八王子〜川越間のワンマン列車を大宮まで延長することで平均15分おきとし、車両数と乗務員数を増やさずに本数不足を補う形とした。

 その結果、池袋〜大崎間の新宿貫通列車はきっちり6分間隔(一部3分間隔・平均5分間隔)となり、新宿折返列車は消滅。湘南新宿ラインの特別快速だけ恵比寿通過なんてのもやめにしたほうがいい。これなら渋谷・恵比寿に行く人も池袋に行く人も「ハズレなし」だ。

 そして間隔も山手線と比べても遜色ない。これなら埼京線に対する信頼度は格段に上がるはずだ。ここまですれば山手線西側の混雑はかなり改善し、山手線は平日・土休日、外回り・内回りの区別なく、完全な日中5分間隔まで減便してもほとんど問題ないだろう。そして何より、埼京線快速を1本減らした分の車両キロと乗務キロ程度で新宿〜大崎間の増便を実現して、山手線一周の本数を減らすことができ、JRとしても無駄がなくなるのだ。

 また、余談だがりんかい線直通は毎時3本から6本に増えることにより、りんかい線は大崎始発2本を足し毎時8本にしてもいいほどの集客もできるだろう。かつて、相鉄線直通がなかった頃は、新宿で新木場行きを逃したタイミングでお台場へ行く代替案を検索すると

「大江戸線に乗って汐留でゆりかもめに乗り換えたほうが次の新木場行きを待つより速い」

という検索結果が出てあきれたものであった。これもダイヤサイクル長の不統一による不効用であった。ここまで直通が増え、大崎始発を使う場合と合わせ全便が新宿発着の有効列車となれば、りんかい線直通1択となり乗客が増えることだろう。

埼京線・湘南新宿ライン 理想ダイヤ案 データイム編南行(30分サイクル)(画像:北村幸太郎)

成田エクスプレスと新宿駅ホームの問題

 もうひとつの元凶は、成田エクスプレスの新宿駅ホームだ。

 成田エクスプレス(と特急湘南)は新宿駅折り返しが基本で、しかもホームは本線の外側に設置した、別のほぼ特急専用ホームの発着であり、埼京線・湘南新宿ラインの北行きの線路と平面交差する。

 ダイヤを分析すると、どうもこれが原因で、新宿駅で4分も止まる湘南新宿ラインがあり、不整脈ダイヤの元凶のひとつとなっている様子がうかがえる。成田エクスプレスも新宿駅は埼京線乗り場を通って貫通運転とし、池袋駅とその先の車庫で折り返しさせるべきである。

 成田エクスプレスは東京駅だって渋谷駅だって一般電車とホームを共用しているのだから、新宿駅だけホームを別にしなければならない理由なんてないだろう。

 だが、

「あんな狭いホームで成田エクスプレスを発着させて外国人の乗り降りや待ち合わせをさせるのか」

というご意見もあるだろう。それはごもっともで、筆者としても朝と夜のラッシュ時に、今にも線路に落ちそうなくらい混雑するなかを歩かなくてはならないあのホームはなんとかしてほしいと感じている。

 そこで今後の新宿駅再開発と大改良に合わせ、次ページのように成田エクスプレスホームを撤去し、空いたスペースを使って埼京線ホームの幅を広げるとともに、ホームの位置を数十mほど池袋寄りに移設できたりはしないだろうか。

新宿駅埼京線ホーム現行(左)と、新宿駅埼京線ホーム改良案(画像:北村幸太郎)

求められる柔軟ダイヤ

 ラッシュ時も含めていえることだが、JRは異常時に備えたバッファ(余裕)が少ない。具体的には

・停車時分
・運行本数

である。山手線と埼京線、湘南新宿ラインはいずれかが止まると、平時で運び切れる本数しか設定していないため、動いている路線も大変な混雑で遅延する。そのため山手線では遅延時に8分開くこともあった。日中の山手線は十分な本数ではあるが、その山手線が止まった時に備えるためにも埼京線の新宿貫通列車はラッシュ時を含め増やしたほうがいいのではないか。特にラッシュ時は週に1回は所定ダイヤで走ればいいほうなのだ。

 また、山手線には運転間隔相当分にあたる5分の余裕時分を、運転士交代がある池袋、大崎駅や、田端、田町、新宿といった他路線と同一ホーム接続がある駅に1分ずつ分散させながら追加設定してはどうか。

 日中の山手線はしばしば運転間隔がいびつになりやすく、駅では混雑のなかでもなんとか定時発車を目指してしきりに乗降の分散を促す放送が繰り返されている状況だ。乗務員たちからも、

「乗降の多い駅での十分な停車時間を確保するよう」

要望が繰り返されていると聞く。

 JRは全体的に都心部駅での停車時間をケチり過ぎである。昔だったら次から次へと列車が来るのでその余裕はないという言い訳が通用したが、減便した今ならそうはいかない。他社では接続のために、多少停車時間に余裕を取るのは普通のことである。一周5分伸びたって誰も構いやしない。丸々一周乗るような人は車内で昼寝している人くらいだ。

JR東日本の本社ビル(画像:写真AC)

公共機関の責務

 冒頭の小林拓矢氏は、

「とにかく方法はなんであれコロナ明けで利用は回復してきているのだから本数を元に戻して混雑をなんとかしてもらいたい。再開発でも人が増えるというのにこれでいいのか。JR東日本には鉄道利用者を大切にしてほしい」

と述べている。

 JRは列車本数や区間をドンドン削り、駅ナカや不動産ばかりに力を入れている。筆者としては駅ナカ事業の推進そのものには大賛成だし、まだまだスペースの活用不足と思っているが、鉄道利用者をないがしろにした

「横着な金もうけ経営」

は公共機関として許されるものではない。