国内フェリー産業の歴史

 四方を海に囲まれている日本にとって、フェリーは欠かすことのできない交通手段である。

 今日、インバウンド(訪日外国人)による海外からの旅客需要や「2024年問題」などにより貨物需要が期待できる。その反面、少子高齢化による労働力不足や定期旅客の減少という逆風も吹き荒れている。そこで、フェリー事業の現状と今後の見通し、そしてその重要性について、これから数回にわたって話していく。

 そもそもフェリーとはどのような船なのだろうか。片道300km以上の長距離フェリーを運航する会社で組織される業界団体・日本長距離フェリー協会(東京都千代田区)のウェブサイトには、

「海上を定期的に運航して、人や貨物、車両などを運ぶ船をフェリーといいます。現在では乗用車や貨物自動車を運ぶカーフェリーが主流となっています」

とある。なおフェリーは、海上運送法では自動車航送船と呼ばれており、一般的に一般旅客定期航路事業の免許または自動車航送貨物定期航路事業許可を受けて自動車航送を行い、かつ13名以上の旅客定員を有する船とされている。

 旅客と貨物を運ぶ近代的な客貨船の登場は

「明治以降」

である。例えば商船三井の前身である大阪商船は、新橋横浜間の鉄道開業(1872年)から約10年遅れて、1884(明治17)年に誕生した。なお、日本で最初の自動車と旅客を運ぶフェリーは、1934(昭和9)年に北九州市沿岸の2拠点を結ぶ航路とされており、航路の距離はわずか約400mと非常に短かった。

さんふらわあ ぱーる(画像:商船三井さんふらわあ)

国内フェリーの現状

 2023年時点で、旅客船事業における事業者数、航路数、隻数は次のとおりだ(日本旅客船協会のデータより)。

・事業者数:917社(うちフェリー132社。約14%)
・航路数:1732航路(うちフェリー152航路。約9%)
・隻数:2104隻(うちフェリー253隻。約12%)

 152航路、253隻の大小さまざまなフェリーが日夜人や車両を運んでいるものの、全旅客船事業のなかではフェリーの占める割合は

「1割前後」

と意外と少ないことがわかる。

 また、152航路のうち陸上輸送のバイパス的な役割を担い、かつ片道の航路距離が300km以上のフェリー(離島航路を除く)を長距離フェリーという。国土交通省の資料によると2023年3月31日現在で、

・事業者数:9社
・航路数:12航路
・隻数:41隻

とあり、長距離フェリーとなるとさらに数が限られてくる。

 国内における長距離フェリーといえば、

・新日本海フェリー(北海道と敦賀・舞鶴といった日本海側の都市を結ぶ)
・商船三井さんふらわあ(北海道と首都圏あるいは関西と九州各地を結ぶ)

などがある。

 ちなみに、片道の航路距離が100km以上300km未満のフェリーを「中距離フェリー」という。

・シルバーフェリー(苫小牧と八戸を結ぶ。川崎近海汽船)
・オレンジフェリー(関西と愛媛の東予・新居浜を結ぶ。四国開発フェリー)

などがある。

2022年に就航した新船「あおい」(画像:ジャンボフェリー)

国内フェリーの役割と地域経済への貢献

 ひとつの船で旅客と車両を同時に運べるフェリーは、地域経済にとって欠かせない輸送モードだ。ここで、自動車の航送台数の推移をみてみよう(日本旅客船協会のデータより)。

・2000年:乗用車・その他10591(千台)トラック5559(千台)
・2010年:乗用車・その他7659(千台)トラック3922(千台)
・2020年:乗用車・その他5639(千台)トラック3552(千台)

 2008(平成20)年に

「高速道路の割引」

が始まったことにより、2010年の実績は2000年と比較して大幅に落ち込んだ。しかしながら2010年以降は、コロナ禍を除き乗用車・その他で7000〜8000(千台)トラックで3500〜4000(千台)で推移しており、フェリー需要の堅さがうかがえる。直近2022年の長距離フェリーの輸送実績でいえば(国土交通省のデータより)、

・乗用車・その他(台数):対前年32.2%
・トラック(台数):対前年0.8%
・旅客輸送人員:対前年48.3%

増加しており、コロナ禍が明けてから旅客、自動車ともに戻ってきたといえる。

 定性的な面では、フェリーは2地点を短距離で結ぶバイパス機能はもちろん、都市圏と地方都市間における一時産品や工業製品の輸送を担っている。また離島航路では、人や生活物資移動手段として欠かせないのはいうまでもない。

 さらに災害で陸路が寸断されたときは、フェリーが緊急物資や代替交通手段として活躍してきた。2018年7月の西日本豪雨災害では、愛媛と中国地方を結ぶ輸送台数が最大で13割、九州地方と四国地方では最大6割増加した。フェリーは、平時の輸送はもちろん、

「異常時のバックアップ機能」

としても欠かせないといってもいい。

阪九フェリー(画像:SHKライングループ)

航路の維持と船員不足

 フェリーといえども、他の輸送モードと同じように少子高齢化の影響を受けているのはいうまでもない。時系列でフェリーの航路数の変化をみると(日本旅客船協会のデータより)、

・2000年:209航路
・2010年:173航路
・2020年:152航路

2000(平成12)年から2020年の20年間で、

「約1/4も廃止された」

ことがわかる。特に地方に行くほど、航路の維持が問題となっている。また、船員不足も課題だ。国土交通省の資料では、内航海運業界全体として、海技教育機構や水産高校から年間約400名の人員を確保しているものの、

「年間約300名不足している」

という。また、給与面で新卒者に人気があっても離職率が高い。その要因として、

・仕事の厳しさ
・連続勤務+長期休暇という特殊な勤務形態(航路による)
・電波が届かない航路ではスマホが使用できず若者の生活様式にそぐわない

などが挙げられており、海の仕事ならではの職業意識や忍耐力が要求されている。慣れれば問題ないのだろうが、そこに行き着くためには、

・海の仕事が好きなこと
・身体的かつ精神的な適応力

が求められるといってよいだろう。

 今回は、総論としてフェリーを取り巻く環境をまとめてみたが、次回は中長距離フェリーを中心に航路や役割についてより具体的にみていきたい。