バス混雑、乗客の不満爆発

 昨今の京都はコロナ明けとインバウンド客の急増により「観光公害」が問題となっている。京都の現状について、京都市産業観光局がまとめた「京都観光総合調査」(2019年版)によると、

1.この10年で外国人の市内宿泊客が10倍に
2.観光消費額はこの15年で倍増
3.宿泊客数はこの20年で1.5倍に
4.外国人宿泊客数はこの15年で4倍に

と、客数も消費額もうなぎ登りのようだ。

 そのため、街中や交通混雑に対する不満は高まりを見せ、公共交通への満足度を7段階評価でアンケートしたところ、5〜7を選択しているのは3人にふたりにとどまっている。また、観光残念度で日本人の2割が混雑を挙げている。

 筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)もバスに乗って京都駅から祇園を目指した際、発車から30分後、10mほど進んだところでロータリーを出られずバスが停車し、しびれを切らした乗客が次々と運転手に申し出て降車するのを目撃した。

 また、嵯峨野線や奈良線では混雑が先頭車両に集中しやすい櫛(くし)形ホームの構造により、混雑を避けて出口から離れた車両に乗るといつまでたっても出口に行きつかない。しかも嵯峨野線に至ってはせっかく車両の両側のドアを開けられる番線があるにもかかわらず、車掌は片側しか開けず、数分たってからようやく両側が開くという運用をしている。

 これで嵯峨野線沿線の嵐山や二条などから奈良線の東福寺や伏見稲荷に行こうとするような場合は最悪だ。京都観光総合調査によれば観光客の4分の3が日帰りとのことであるから、この「乗り換え抵抗」と時間の関係で、嵯峨野線沿線と奈良線沿線、どちらか片方の訪問にとどめて、もう片方は諦めるといった周遊の仕方の方も多いのではないか。

 京都市内の訪問地で嵯峨野線沿線が4割(重複あり)、奈良線伏見付近は15%が占めていて、特に奈良線の稲荷駅は2013〜2018年の5年間で利用者数1.6倍に増えている状況で、なんとももったいない現状である。その分訪問施設数を抑えたり、観光消費の機会損失が生じたりている。

京都駅現況配線図(上)と京都駅改良配線図(画像:北村幸太郎)

不十分な京都市の対策

 そんなこともあってか、このほど、京都駅改良事業が発表された。

 これは国がまとめた「オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージ」に、京都市の要望に応じて

・鉄道駅改良への支援
・交通結節点の整備等によるまちづくりへの支援

が盛り込まれていることを背景に、京都駅構内および南北自由通路の改善のための京都駅新橋上駅舎・自由通路を整備が決定したものである。一歩前進だが、コンコースの改良しか行われないものであり、前述の櫛形ホームによる混雑集中と人列による渋滞にはまったくプラスにはならなさそうだ。

 乗り換え客をさばくことも大事だが、そもそも乗り換え客を減らす、そのために駅構造を変えて京都終着の路線同士の直通化とそれによる乗り場のコンコース付近への集約化も考えるべきではないだろうか。

 乗り換えの機会を減らせば人の滞留も減り、観光名所間の移動時間の短縮でひとりあたりの訪問施設数も増やせるし、消費機会や消費額も増える。そしてこの点を踏まえて直通化と乗り場の集約化にうってつけの路線がある。嵯峨野線と奈良線の組み合わせだ。

嵯峨野線(画像:写真AC)

京都市の新たな南北軸

 特筆すべきなのは嵯峨野線と奈良線の立地と相性のよさだ。

 嵯峨野線は嵐山の竹林や各寺社、太秦映画村、二条などの観光地があり、奈良線にも東福寺や伏見稲荷、宇治などの観光地を通るという点で共通しているので、直通すれば寄り道的な相互の行き来の増加が期待できる。地下鉄烏丸線と合わせ京都市の新たな南北軸としての機能を果たすだろう。近鉄京都線にはない

「奈良から二条・嵐山へ乗り換えなし」

も実現する。奈良や宇治などの観光訪問ともセットにできる。

 また、相性の良さの点でいえば輸送体系が似ている点が挙げられる。嵯峨野線は4〜6両編成(コロナ禍の多客期は最大8両)で、日中1時間あたり快速1本、普通4本の運転だ。これに対し奈良線も4両または6両編成で、日中1時間あたり快速2本、普通4本と、輸送力の違いがほとんどない上、ダイヤパターンもほぼ同じだ。

 直通化で利用が増えるとなれば、嵯峨野線の快速も奈良線に合わせて毎時2本にしたっていい。どうしても増発コストが気になるなら、快速を馬堀にも止めた上で亀岡〜嵯峨嵐山間約10kmの普通列車を毎時3本から2本に削減したらいい。そうすると保津峡に止まる列車は30分おきになるだろうが、ほとんど人がいないのだから十分だろう。

京都駅改良断面図(画像:北村幸太郎)

京都駅直通化の鍵

 嵯峨野線と奈良線、直通化にあたってどこで線路をつなげて乗り場を作るかが課題だ。これには

「駅の重層化」

が必要と筆者は考えている。

・1階:既設線
・2階:コンコース
・3階:新線

を作る。東武の北千住駅のような構造である。現在の2番乗り場ホームの真上に奈良方面の本線、3番乗り場〜4番乗り場の間の4本の線路の真上に島式ホーム2面と中線1線、5番乗り場の真上に嵐山方面の本線を設置する形なら、ホーム幅やコンコースへの階段の取り付け位置を考えると好都合だろう。

 現在線からのアプローチだが、嵯峨野線側は現在の高架複線の終点から勾配を上がり、大宮通の橋をまたいで京都駅3階に取り付ける。

 この途中で回送線との合流アプローチも設置する。大宮通〜京都駅間は3線の高架にする必要があるが、これまで京都駅手前の数百メートルだけ単線だった(しかも特急「はるか」とも共用させられていた)嵯峨野線のダイヤ設定の自由度は格段に高まるだろう。

京都駅改良横断図(画像:北村幸太郎)

直通化にあたって乗り場集約

 奈良線側は東海道新幹線をくぐったところから上り勾配を始めて京都駅3階に取り付ける。この際、竹田街道の橋を支障すると思われるが、ここは西武池袋線や東急東横線などで実績がある逆立体交差化工事により、橋でまたいでいたのを地下に変更するといった工事で乗り切ることになるだろう。

 嵯峨野線・奈良線直通化を本当にやろうと思うとかなり大掛かりな工事にはなるが、どれも成功前例がある工事ばかりである。

 また、この乗り場の重層化ならびに集約化により、嵯峨野線乗り場を駅ナカに転用したり、奈良線乗り場の跡地はかなり広く取れたりするだろうから、駅ビルあるいはホテル開発にもってこいだ。

 こうした開発利益もセットで考えて費用対効果をご検討いただきたいものである。JR東だって既設新幹線高架橋の真上に上野東京ラインを作って尾久と田町の車庫を集約化し、空いた車庫用地で街づくりをしている。

嵯峨野線・奈良線直通化案 データイム編奈良方面(30分サイクル)(画像:北村幸太郎)

直通化によるダイヤと時間短縮効果

 直通化した場合の想定ダイヤを作成し、時間短縮効果を試算した。

 奈良線内のダイヤはほぼ現行通りとした。単線区間解消によりダイヤの自由度が増した嵯峨野線内は、奈良線のダイヤをそのまま延長した形とし、普通列車の半数を嵯峨嵐山折り返しとする代わりに嵯峨嵐山で快速に接続とし、快速を馬堀にも停車とした。

 また、特急列車は2分以内の時刻修正にとどめ、おおむね現行通りとした。

嵯峨野線・奈良線直通化案 データイム編亀岡方面(30分サイクル)(画像:北村幸太郎)

京都観光、最大30分も時短効果

 このように組んだ結果、嵯峨野線の京都市内の各駅〜奈良線の京都市内の各駅間では最大13分、平均10分程度の時間短縮効果になることがわかった。

 特に嵯峨野線から奈良へ行くケースでは最大38分、奈良線からトロッコ列車などがある馬堀へは最大26分もの時間短縮効果となった。
主な区間の所要時間は、

・太秦〜稲荷間:30〜31分 → 19〜22分(最大12分短縮)
・馬堀〜東福寺間:33〜48分 → 22〜27分(最大26分短縮)
・嵯峨嵐山〜宇治間:42〜51分 → 30〜39分(最大21分短縮)
・二条〜奈良間:69〜88分 → 50〜52分(最大38分短縮)

 このように10〜30分も変わるなら、嵯峨野線・奈良線相互の行き来が増えるのはもちろんのこと、1駅降りた後の訪問施設数も1か所ずつは増えることだろう。1か所増えるだけでも人数を考えれば相当な観光消費額の増加につながるはずだ。嵐山の人力車のお兄さんに

「竹林の方までよろちくりん♪」

とお願いしてみる余裕も生まれるかもしれない。

 乗り換えの解消とこれほどの時間短縮なら、JR東なら直通列車に対して「京都洛楽ライン」なんて名付けて楽々さをPRするんじゃなかろうか。そして乗り換え客の減少にも一定の貢献を果たし、コンコースの混雑緩和にもつながるだろう。