■サラリーマン化石ハンター・宇都宮聡さん

 最近私は、外来研究員でもある大阪市立自然史博物館の化石処理室に週末ごとにこもって、ある化石のクリーニング(化石周辺の余分な岩を削り取る)作業を進めています。何の化石かというと、「海のティラノサウルス」とも呼ばれる大型海生爬虫類モササウルス類です。

 私は2010年に大阪府南部の和泉山脈山中の白亜紀層(約7千万〜6600万年前)で、モササウルス類の顎の一部とみられる骨化石を見つけたことがあります。その後の調査で体長10メートル超と推察される、プログナソドンという種類の近縁種であることが分かりました。

 現在クリーニングしているのは大阪在住の化石ハンター佐藤政裕さんと高田雅彦さんが、1990年代初頭に同じ山中から発見したものです。まとまった骨格標本なのですが、岩から摘出されたほんの一部しか研究されていませんでした。

 今回、岩中に残された部位の処理と研究が、私に託されたのです。まず、岩中に埋もれた標本を観察して驚きました。何本か位置関係が保たれた肋骨の間から、アンモナイトの砕けた殻化石が突き出していたからです。

 殻は海底に横たわったモササウルス類の死体に引っ掛かったか、食べた胃の内容物である可能性も考えられます。モササウルス類は海の食物連鎖の頂点に君臨し、首長竜やサメ、ウミガメなどあらゆる生き物を食べていたと考えられていますが、詳しいことは分かっていません。クリーニング作業を進めていけば、謎に満ちた生態に迫れるかもしれません。

 日本の白亜紀層からは、私が発見した巨大なプログナソドンの他、北海道のタニファサウルスとフォスフォロサウルス、和歌山のメガプテリギウスといったモササウルス類が新種記載されています。白亜紀後期、日本の近海は多様なモササウルス類が生息する豊かな海域だったのです。

【プロフィル】うつのみや・さとし 1969年愛媛県生まれ。大阪府在住。会社勤めをしながら転勤先で恐竜や大型爬虫類の化石を次々発掘、“伝説のサラリーマン化石ハンター”の異名を取る。長島町獅子島ではクビナガリュウ(サツマウツノミヤリュウ)や翼竜(薩摩翼竜)、草食恐竜の化石を発見。2021年11月には化石の密集層「ボーンベッド」を発見した。著書に「クビナガリュウ発見!」など。

(連載「じつは恐竜王国!鹿児島県より」)