野菜の品種改良などを手がけるトキタ種苗(さいたま市見沼区中川)が4月23日、能登半島地震で被災した石川県珠洲市の農家にケール苗約3万株を無償提供した。(大宮経済新聞)

 苗を受け取るべジュール代表の足袋抜さん

 トキタ種苗と珠洲市の関わりは2016(平成28)年、芝浦工業大学(見沼区)との共同研究で珠洲市の農業支援に携わったことから。珠洲市では、過疎により後継者がいなくなった農地を農業生産法人「ベジュール」の若手農家たちが引き継いでいた。珠洲市の気候に合った野菜を探していたところ、トキタ種苗が品種改良したカリーノケール(サラダ用ケール)が適していることが分かり、震災前までは年間約30トンのケールを出荷する国内有数の産地に育っていた。

 能登半島地震で珠洲市の農業は甚大な被害を受けた。ベジュール代表の足袋抜豪(たびぬき・ごう)さんによると、露地栽培の畑には海のごみが流れ込み、ビニールハウスも液状化により一部が使えない状態だという。作物を保管する冷蔵庫や倉庫は地震で建物ごと倒壊してしまった。

 本来であれば3月にケールの種まきを行わなければならないが、苗を作るビニールハウスが使えず作業ができない状態だった。トキタ種苗では同社研究農場のスタッフと調整して、急きょ3万株のケール苗を育て、現地に無償提供することを決めた。

 被災地では畑やハウスの復旧作業で人手が足りないため、4月23日にはトキタ種苗のスタッフ5人が現地に苗を持ち込み、苗植えを手伝った。6月ごろに収穫が始まるケールは、同社が大手外食チェーンなどに売り込みを行っている。

 トキタ種苗の時田巌社長は「全ての食べ物の根源である『種子』を扱う私たちとして何かできないかと考えた結果、苗提供と現地での苗植え手伝いを決めた。秋には青々としたカリーノケールが全国に届くことを想像しながら、スタッフが苗一本一本に思いを込めて植えた」と話す。

 ケール苗の提供を受けた足袋抜さんは「苗植えにより今年の収入のめどが立った。新たな農地も、冷蔵庫や倉庫も、まだ手に入らない状態だが、地域経済の復興に向けて前を向いていきたい」と前を向く。