市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。今回のテーマは、「現代用語の基礎知識選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に入った「生成AI」。

今回は、サイバーエージェントが開発したクリエイティブ制作支援システム「極予測AI」を紹介しよう。2020年から提供されているサービスで、インターネット広告を制作するにあたって、その広告の効果を事前予測できるというものだ。そのほかにも、広告テキストやランディングページを生成し、その効果を事前に予測する「極予測TD」「極予測LP」など、極予測シリーズを展開している。

画像提供/サイバーエージェント

サイバーエージェントでは独自の日本語大規模言語モデル(LLM)を開発し、2023年5月に一般公開するなど、生成AIの活用に向けた研究が進められていた。これと並行して既存の極予測シリーズにも生成AIの機能を取り入れ、2023年5月には広告コピーの自動生成機能、2024年1月には商品画像の自動生成機能が実装された。

AIで生成されるコピーや商品画像はどの程度のレベルに達しているのか、自動生成することでどのような影響が社会に及ぶのか、サイバーエージェントAI事業本部の渡部優さん、髙橋明日香さんに聞いた。

効果的な広告をスピーディーかつ大量につくるシステム

「『極予測AI』は、広告効果を予測しながら、より効果の高い広告クリエイティブ(コピーや画像、動画などの素材)を制作するためのシステムです。コピーや画像など、広告に使用する素材ごとに効果予測が可能で、世のなかに配信されている広告よりも効果が高いものであるか、AIが予測を行います」(髙橋さん)

「極予測AI」の学習に用いられているのは、サイバーエージェントがこれまで手掛けてきた運用型広告(インターネット広告)のデータ。広告に使われた素材や実際の効果をもとに、AIが予測を行っていく。インターネット広告事業に力を入れてきたサイバーエージェントだからこそ、構築できるシステムといえそうだ。

そもそも「極予測AI」の開発がスタートしたのは、インターネット広告の“効率”を上げるためだったという。

「インターネット広告は、そのときのトレンドやユーザーが見飽きてしまうといった要因によって、どんなに効果の高い広告でも、時間が経つにつれて効果が下がるという傾向があります。そこで、高い効果を維持するために新しい広告の制作が求められるのですが、その制作をもっと効果的に実現するためのシステムがあるといいのではないかと、開発が始まりました」(渡部さん)

「これまでの広告は、配信後に効果を確認するといったPDCAサイクルで運用するのが一般的でした。ただ、この方法は時間や費用がかかり、確実性もありません。そこで、配信前に効果予測を行い、予測結果を確認しながら制作を進められるシステムがあれば、より効果の高い広告がつくれると考えました」(髙橋さん)

「極予測AI」の提供開始から約4年が経過したが、実際に効率化が進んでいるという。

「広告効果を引き上げるためには、広告そのものを大量につくることもポイントとなります。『極予測AI』導入以前は月30本程度が限界でしたが、導入後はクリエイター1人で月平均140本、なかには月500本つくるクリエイターも出てくるようになりました。制作のスピード感やコスト削減の効果も含めると、9倍ほどのインパクトが出ているといえます」(髙橋さん)

広告効果の予測だけでも企業に大きな影響を与えている「極予測AI」だが、自動生成機能も実装されたとなると、さらなる効率化につながりそうだ。

商品の写真をAIに学習させ、希望の画像を生成

「商品画像の自動生成機能は、素材集めに関する課題が開発のきっかけでした。商品画像を撮影したいとなった場合、撮影場所の手配や現地までの移動に時間や費用が発生しますし、外での撮影だと天候に左右され、撮影できないこともあります。しかし、広告を大量につくるためには、素材をたくさん準備しておきたい。このジレンマを解消するため、画像の自動生成の開発をスタートしました」(髙橋さん)

「かなり前から研究に動き出していて、ようやく世に出せる形になったという感覚です。研究を始めた頃は、ちょうど背景生成などの技術が世のなかに出てきたタイミングだったので、画像生成の需要はあると感じていました」(渡部さん)

さまざまな角度から撮影した商品の写真をAIに学習させ、「夕日の見える海辺」「晴れた日の雪山」などのプロンプト(人による指示)を打ち込むことで、商品と意に沿った背景付きの商品画像が生成される。2024年1月の運用開始の時点で、透明な商品の透け感や差し込む光の具合が見事に表現されている。

画像提供/サイバーエージェント

「現在の画像生成は、有形の商品が対象です。パッケージなどに記載されている文字も映りますし、透明な商品でも対応できるシステムになっています。ただ、商品によっては画像生成の難易度が異なるので、より生成品質が高くなるように、研究を続けています」(髙橋さん)

商品画像より先に実装された広告コピーの自動生成も、生産性の高い広告制作につながるという。

「量やスピード感が求められるインターネット広告の制作では、クリエイターがキャッチコピーを考えるケースも少なくありません。ただ、キャッチコピーを考えるのは難易度が高く、多くの時間を費やしてしまうという課題がありました。コピーの自動生成機能があれば、生産性が上がり、効果の高いキャッチコピーを含む広告を生み出しやすくなるだろうと考え、コピー自動生成機能を開発しました」(渡部さん)

自動生成された商品画像やコピーを使った広告は、既に配信されているそう。

「少しずつ配信しながら、効果を見ている段階です。広告として見ると、撮影されたものかAIで生成されたものか、わからないくらいの品質になっていると思います」(渡部さん)

「極予測AI」はクリエイターの制作を“加速”させるシステム

「極予測AI」にコピーや商品画像の自動生成機能が実装されたことで、より効率的な広告制作が行えるようになるが、決してすべてを自動化させるために開発しているわけではないとのこと。

「広告はたくさんのデザイン要素で成り立っているので、『極予測AI』だけで完結させるというよりは、クリエイターの制作をシステムで加速させることを目指しています。素材の収集や効果予測といったデザイン以外の要素を効率化し、質の高い広告をたくさんつくれるようにするために活用していけたらと思います」(髙橋さん)

広告主やクリエイターが求める方向性が定まっていなければ、AIに指示してコピーや画像を生成させることはできない。また、制作した広告や素材がなければ、AIも効果を予測できない。人の想いや考えがあってこそ、AIは役目を果たせるのだ。

最後に、これからの展望について聞いた。

「この2〜3年で生成AIの技術は驚くほど発達し、品質の高いものができてきているので、それをいかに社会実装して価値を出すかが重要だと感じています。スピード感を持ってサービスに乗せていく作業は難易度が高い反面、いままでにないことができる面白さもあるので、これからもAIの発達や変化をつかみながら、多くの人のためになるシステムを生み出していきたいです」(渡部さん)

「より効果の高い広告クリエイティブの制作を加速させていきたいので、『極予測AI』としては多くのアイデアを生み出したり大量に制作したりする過程の効率化を、これからも目指していきたいと思っています」(髙橋さん)

生成AIは、ビジネスの場面でも導入され始めている。広告制作に限らず、AIにサポートしてもらいながら業務を進めることが当たり前の時代も、そう遠い未来ではなさそうだ。

(取材・文/有竹亮介(verb) 撮影/森カズシゲ)