映画『渇水』(6月2日公開)の公開直前ティーチインイベントが24日、神楽座にて開催され、主演の生田斗真、共演の門脇麦、監督を務めた高橋正弥、企画プロデュースを担当した白石和彌が登壇し、参加者からのQ&Aに答えた。

原作は1990年に第70回文學界新人賞受賞、第103界芥川賞候補となり注目を浴びた河林満の名篇で、『凶悪』(13)、『死刑にいたる病』(22)の白石監督による初プロデュースする本作では、阪本順治、宮藤官九郎などの監督作品で助監督としてキャリアを重ねてきた高橋が監督を務めている。

冒頭の挨拶で生田は「映画の撮影中はずっと雨。先日のカイブ試写会の日も大雨でした」と振り返り、「この映画のキャンペーンは雨男キャラで行こうと決めていたのに、今日はものすごく晴れてしまいまして…。キャラが崩壊してしまい、これからどう宣伝していいのか分かりません」とユーモラスに挨拶。だからこそ本作を鑑賞した方の力が必要と訴え「お力を貸してください!」と笑顔を見せると、会場は大きな拍手に包まれた。

参加の決め手となったのは脚本のおもしろさだったそう。「日本映画界にとんでもなくおもしろい脚本があるという噂になっていたそうです。その脚本が時を経て自分のところに回ってきました」とニッコリ。台本の中身はもちろん、映画に対する愛情のようなものがふんだんに詰め込まれていたことも参加の決め手になったという。「ただならぬオーラを放っている脚本でした。参加しないときっと公開すると思い、即座に参加を決めました」と出演の経緯を明かした。門脇も出演の決め手は脚本だったと話し、「なんていい本なんだろうと思いました」としみじみ。「これまで何度か一緒に作品をやっている白石監督が『門脇さんで』と言ってくれている。断る理由はなかったです」とハッキリと答えた。

イベントでは高橋監督の人柄が話題に。生田は「雨で撮影がストップしたり、撮影がなかなか思うようにいかない日でさえも高橋監督はずっとうれしそうでした」と指摘。続けて「この映画を撮れているという幸せに満ちあふれていて、一番潤っていらっしゃったのは監督ご自身なのかなと思います。白石監督もおっしゃっていたように人柄に惚れた人が集まって、現場が進んでいたという感覚があります」と大絶賛。

このコメントに高橋監督は「映画を作ることは楽しい作業です。正直、あめでちょっと恨めしいときもあったけれど、映画そのものが中止になったわけじゃないので、次はもっと面白いシーンを撮ろうという気持ちで、ある種励みのようにしていました。そんな気持ちがのったことにより楽しそうに見えたのかもしれません」と説明していた。

白石プロデューサーは作品に高橋監督の人柄、優しさ、根本的に人を信じている感じが映っているとし、「話の内容としては残酷なシーンもあるけれど、人々が必死に生きながらもどこか滑稽で、少しコミカルだったりもします。門脇さんが演じた母親も、残酷だけどなにか理由があるというのが伝わってきます。その一方でこだわって、苦労して撮ったシーンを編集でバッサリ切る割り切りの良さもあるという両面を持っていると思います。僕自身、いろいろと気づきがある映画でした」と笑顔を見せると、生田が「思い出した。何本もタバコを吸って、肺がぶっ壊れそうになりました。(なのにカット)思い切りが良いですよね」と高橋監督の割り切りの良さを表すエピソードも披露した。

■生田が目撃した、女優・門脇麦のオンとオフ
苦労したのは生田演じる水道局員の主人公、岩切俊作の同僚、木田拓次を演じた磯村勇斗と門脇演じる母親が置き去りにした姉妹でアイスを食べるシーンだと振り返る。「磯村くんが食べているアイスに当たりが出るという場面なのですが、縁側で長回しで撮影していて、なかなか一発でうまくいくものではないですね」とニヤニヤ。「磯村くんは食べ切らないといけなかったので、真夏の暑い時期にもかかわらず、震える磯村勇斗を見ることができました。何本もアイスをガリガリ食べて、頭が痛くなりました」と振り返った。

「撮影中にハッとした瞬間はあったか」という質問に「麦ちゃんの登場シーンにはハっとしました」と笑顔。「マニキュアを塗るシーンはなんとも言えない説得力がありました。そこに佇む門脇麦、本物がいるという気がしました。艶かしいキレイさがありました」と話したが、芝居以外での門脇の印象は「誰よりも早く現場を去る女優さんです」と話し、「いままで出会った女優さんのなかで、一番帰るのが早くて(笑)。気づいたらメイクを落とし、私服に着替えて『お疲れ様でした!』と走っていきます。なぜそんなに急ぐのかを聞いたら『1秒でも早く帰りたいんです!』とおっしゃっていました」と明かすと、門脇は早く帰るコツは「段取りをちゃんとつけること」と即答し、「駐車場が遠ければマネージャーさんに頼んで近くまで車を持ってきてもらいます。あとは走りながら脱げるものは脱いでいくのもコツです」と得意げに語り、笑いを誘っていた。

幼い姉妹を家に残して姿を消す母親役を演じた門脇が撮影を振り返り、「高橋監督は姉妹に付きっきりで演出しているので、私にはあまりなにも言ってくれなくて」としょんぼりすると、生田、白石プロデューサーは大笑いし、高橋監督は気まずそうに下を向く。姉妹を演じた役者には台本を渡していなかったため、その場で細かな演出をつける必要があったこと、そしてなにより高橋監督がキャスト陣を信頼し切っていることが大きな理由だった。「いい俳優さんたちにめぐり会えたので、こんな風に演じて欲しいということを現場で感じることがありませんでした」と説明し、「生田さん、門脇さん、お2人の芝居が好きだったというのもあります」と付け加えていた。

本作は16ミリフィルムで撮影されたため、フィルム映画の魅力を問われる場面も。「1ロール8分しか撮影できないフィルム撮影にはフィルムチェンジの時間があります。僕はその待ってる時間がすごく好きで『映画を撮ってるなあ』っていう感じがします」とうっとりとした表情を浮かべ「フィルムでしか刻めない味や香りを体験してほしいと思います」と呼びかけた。門脇は「フィルムというだけでテンションが上がります!」と満面の笑みを見せ、「自分がずっと観てきた60年代、70年代の作品の俳優さんや監督たちもこうやって映画を撮ってきたんだとか、こんなふうにフィルムチェンジの時間を過ごしていたのかと想像するだけですごくうれしくて。スタッフのみなさんもうれしそうなので、こちらもうれしくなります」とフィルム映画への愛を熱く語っていた。

フィルムでの撮影は水の表現や太陽の光には「メリットでした」と微笑んだ高橋監督。「デジタルではクリアすぎるところもあるので、粒子が荒れてちょっとざらついていたりするのが、今回の映画では非常に有効的でした」と胸を張る。「光が当たっていないところは映らないのがフィルムの特徴です。そこに強弱をつけたり、スポットを当てたいところに光を当てるのをずっと(フィルム映画で)学んできました。夜のシーンで岩切や子どもたちにちゃんとフォーカスが当たるというのはメリットでした」と満足といった様子で語った。

最後の挨拶で生田は「心を抉られるようなシーンもたくさんあります。映画を観る前と観た後では世界が少しだけ違って見えるかもしれません。フィルム映画のすばらしさ、長年かけて完成した映画を楽しんでください」と呼びかけイベントを締めくくった。

取材・文/タナカシノブ

※高橋正弥監督の「高」は「はしご高」が正式表記