いまや数多くの作品が舞台化され、サブカルチャーからメインカルチャーになりつつある「2.5次元」。様々な漫画やゲームを原作とした作品が続々と誕生していく2.5次元ミュージカルだが、その先駆けと言える存在の一つが「ミュージカル『テニスの王子様』」、通称「テニミュ」だ。

現在、「ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 青学(せいがく)vs立海」が絶賛上演中で、本公演では原作コミック『テニスの王子様』117話〜128話「関東大会立海戦」が描かれる。本稿では、「テニミュ」のこれまでをおおまかに振り返りながら、“ミュージカルだからこそのエモーション”、“生が生むジレンマと魅力”について紹介していく。

■2.5次元ミュージカルの先駆けの一つ、新境地を開拓した“テニミュ”

2003年に東京芸術劇場でスタートした「テニミュ」は、初演から決して大人気だったとは言えなかった。しかし、口コミなどで徐々に客足を伸ばしていき、2.5次元ミュージカルの元祖とも言えるヒット作に成長。2020年には、現在「ジャンプSQ.」にて連載中で世界大会編が描かれる『新テニスの王子様』を原作とした「ミュージカル『新テニスの王子様』」がスタートするなど次々と新たな試みに挑戦し、2.5次元カルチャーを牽引する存在となっている。

ありとあらゆる作品が生まれ続ける2.5次元作品のなかでも、「テニミュ」がほかの作品と異なる点といえば出演者のほとんどが新人キャストであることだろう。“若手俳優の登竜門”とも称される「テニミュ」を創り上げるのは、これからの成長を期待された“原石”たちであり、なかには「テニミュ」が初舞台というキャストも多い。

■1st、2nd、3rd、そして4th──それぞれが持つ魅力

「テニミュ」は、原作の物語を1周するごとに「1stシーズン」「2ndシーズン」「3rdシーズン」と区切られていき、4周目の現在は「4thシーズン」となる。

まず1stシーズンは、「テニミュ」の礎を築いた代であり、出身者には城田優(手塚国光役)、宮野真守(石田 鉄役)、加藤和樹(跡部景吾役)、斎藤工(忍足侑士役)、増田俊樹(幸村精市役)などがいる。ほかのシーズンと比べ各対戦を細かく区切り、1周するまでの公演期間も7年と最長。青学キャストも初代〜5代目までおり、2nd以降は原則同キャストで演じられている氷帝、立海もダブルキャストで上演されるなど、かなり丁寧に構成された印象だ。

2ndシーズンは、「Dream Live 2014」(公演楽曲で行われるコンサート)でさいたまスーパーアリーナ全5公演を満員にするなど、1stシーズンから引き継いだテニミュをより高い場所へと導いたシーズンと言える。また公式ファンクラブ「テニミュサポーターズクラブ」の発足や、キャストがキャラクターに扮して行う「大運動会」の開催など、新たな取り組みも多数。また、1stシーズンの曲をコンセプトやメッセージはそのままに新曲としてリメイクするといった、“2周目”としての様々な挑戦を行った。

3rdシーズンは、新キャストによる「お披露目会」が初開催。新キャストへの期待につなげる心の燃料投下となる魅力的なイベントだった。さらに、「Dream Live」や「大運動会」はもちろんのこと、各校にフィーチャーした「TEAM Party」、テニミュ15周年を記念した「文化祭」、3rdシーズンの締めくくりに向けたトークイベント「Thank-you Festival 2020」など、キャラクターやキャストを知ることができるイベントが開催されたのも特徴的だ。

そして、現在の代である4thシーズンは、様々な要素を一新し、これまでにない試みに多数挑戦している。めくるめく形態を変化させるセットを使用し、よりダイナミックな表現と、“ミュージカル”の見どころでもある楽曲を、リスペクトは感じさせつつもこれまでと印象を大きく変えるなど、進化を感じるステージへと生まれ変わっている。

いずれのシーズンにもそれぞれ違った印象はあるが、軸はしっかりと維持したまま新たな挑戦に臨むさまは、まさに原作者である許斐剛の「まだ誰も通っていない道は、ないか。」の精神を表していると言えるだろう。

■全国制覇を託す青学、勝利を信じる立海

現在上演中である関東大会立海戦と言えば、本作での最強校である立海との初戦であり、関東大会優勝がかかる非常に大事な戦いだ。青学(せいがく)も強豪校ではあるが、「常勝集団」と評される立海はやはり一筋縄ではいかない存在であり、とりわけ1年生の主人公、越前リョーマは今回が立海初対戦。リョーマが立海相手にどういったパフォーマンスを見せるのかは先輩や他校の選手にとっても未知で、ここでの結果が全国大会に大きく響いてくるという意味でも、物語において重要な一戦なのだ。

本来『テニスの王子様』において青春学園中等部は、関東大会と全国大会の2回、立海大附属中学校と対戦する。しかし、この4thシーズン立海公演で青学キャストは卒業を迎えることが決定している。つまり、現青学キャストにとっては、リベンジができない最初で最後の立海戦ということになる。

主人公校ゆえに、当然すべての公演に出演する青学キャストは、ストーリーを1周する間に代替わりするのが通例。2ndシーズンの6代目&7代目、3rdシーズンの9代目&10代目では、それぞれ越前リョーマ役の小越勇輝、阿久津仁愛のみ続投となったが、4thシーズン現青学キャストは、リョーマ役の今牧輝琉も含めた全員が卒業する。この代替わりという制度は1stシーズンから続く伝統。もちろん、酸いも甘いも嫌になるほど味わいながらここまで駆け抜けてくれたキャストが、最終的に全国大会で掴む頂を見られないという悔しさや、もうこのキャストがこのキャラクターを演じることはない、という悲しさは、いくら“いつか来るもの”と理解していても苦しいもの。その一方、先代、ひいてはこれまでのキャストたちが築き上げた各キャラクターの魂を背負い、さらに次世代へとバトンをつないでいく王子様たちのリレーは、代替わりという制度ならではの輝きを見せてくれる。

テニミュは、忠実に漫画「テニスの王子様」を再現している。要するに、結末が決まっている以上、そのシナリオが覆ることはない。しかし、同じ試合、同じ1日を毎日繰り返していく彼らは、いつか手に入るかもしれない“勝利”を心から信じ、演者である以上にキャラクターとして勝利に向かってガムシャラに突き進んでいく。その姿を見ていると、「今日こそは勝つかもしれない」「今回こそは優勝するかもしれない」、そんな気持ちを抱かずにはいられない。

そんな、“前へ進み続ける青学”や、“勝利を信じる対戦校”が生むのは、代替わりや連日同じシナリオを繰り返すテニミュだけが持つエモーション。観劇者と同じ時間を重ねていくキャストが、キャラクターとして生きながらテニスに真っ直ぐ向き合うことで生まれる喜怒哀楽に、我々ファンは心を奪われてしまうわけだ。

■王子様たちがつなぐ魂のリレーを見届けよ!

3月2日(土)には、大千秋楽の模様がU-NEXTにてライブ配信される「ミュージカル『テニスの王子様』4thシーズン 青学vs立海」。現在キャストたちは全国各地を巡り再び東京へと戻り、それぞれの勝利と誇りのため戦いを重ねている。

まずは関東優勝に向け魂を燃やす挑戦者青学、そして真っ向勝負で彼らに立ちはだかる王者立海。軋むテニスシューズの音を、弾んだテニスボールのラリーを心に焼きつけながら、試合の行方を見届けてほしい。

文/佐藤来海