1979年、空前の「宇宙戦艦ヤマト」ブームの渦中、同作の生みの親、西崎義展が企画、原案、製作を手掛け、1979年10月13日から1980年3月29日まで読売テレビ/日本テレビ系で放送されたSFアニメ「宇宙空母ブルーノア」。人工惑星に軍事国家を持つゴドム人の侵攻で、9割の人口を失った地球軍が、最後の切り札として開発した戦略空母「ブルーノア」で逆襲していくストーリーとなっている。
今年放送開始45周年を迎えた壮大なスケールの往年の名作が、現在Amazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」にて全24話が配信中。BS10 スターチャンネルでは3月25日(月)より放送開始される。これを受け、MOVIE WALKER PRESSでは、本作のオープニング曲「宇宙空母ブルーノア ―大いなる海へ―」とエンディング曲「夜間航海(ナイト・クルーズ)」の歌唱を担当した川崎麻世にインタビュー!当時バリバリのアイドルだった彼がどんな想いで「ブルーノア」に参加したのか、当時の貴重なエピソードと共に語ってもらった。
■「西崎さんが、『アイドル歌手に歌わせるというのはとても冒険的だ』とよくおっしゃっていたんです」
「宇宙戦艦ヤマト」を境にアニメを取り巻く状況はずいぶんと変化した。いまに続くアニメファンが芽吹いた時期と言っていいだろう。だが、まだアニメの創世記であって、いまほど人気が一般化はしていなかった。そんな1979年当時、まだ16歳でアイドルとして人気を博していた川崎のもとに、「宇宙空母ブルーノア」のオープニング&エンディング曲の話が舞い込んでくる。
なぜ川崎が主題歌を担当することになったのか?なにしろいまのように“アニソン”に注目が集まっていた時代ではない。アイドルがアニソンを歌うこと自体がとても珍しかったはずだ。「僕自身も経緯に関しては正直わかりません。でも当時の事務所が僕に歌わせたくて、西崎(義展)さんとそういう話になったんじゃないですかね。あるいは作曲してくださったのが平尾昌晃先生だったので、僕は平尾先生の歌唱教室にデビュー前から通っていたし、当時僕が出演していたNHKの歌番組『レッツゴーヤング』の司会が都倉俊一先生から平尾先生に変わったので、平尾先生が推してくださったのかもしれないですね」。
「宇宙空母ブルーノア」の仕掛け人である西崎とは3〜4回会った記憶があると川崎。「西崎さんで思い出すのは、いつもハーレーダビッドソンのバイクに乗っていらしたこと。高級バイクでしたし、すごいカッコいいなあと思っていました。その西崎さんが、『アイドル歌手に歌わせるというのはとても冒険的だ』とよくおっしゃっていたんです。『ヤマト』の次だぞって言われれば言われるほど、気になってしまって(笑)。だから『ブルーノア』の話が来た時はもちろんうれしかったのですが、不安が正直、勝っていました」。
■「『宇宙戦艦ヤマト』のささきいさおさんのイメージが拭えず、非常にプレッシャーでした」
「宇宙戦艦ヤマト」を歌唱したのは、のちに“アニソン界の大王”と呼ばれるささきいさお。「だから『僕がこの曲を歌ってよいのか?』と思っていましたね。当時のアニソンって、まず低音を出す感じじゃないですか。『ヤマト』の“さらば〜”みたいに、『ブルーノア』だと“青く〜”という感じで。低音からダーンときて胸にドキッ、ズキッと刺さるような、そういうスタートをする曲が多かった印象があるんです。『巨人の星』の主題歌なんかもそうですが、すごく男臭いというか雄々しいイメージが強かった。しかも『ヤマト』のブームがまだ全然消えていなくて、そこへの二番手という感じでしたから。どうしても『ヤマト』のささきいさおさんのイメージが拭えず、非常にプレッシャーでした」。
改めて「ブルーノア」のテーマ曲を聴くと、確かに歌い方も少しささきいさおに似ている気が…。「当時、低音を響かすということ自体は、めちゃくちゃ自分でも自信はあったんですよ。ずっとボーカルの先生にも『麻世のいいところはそういうところだ』と言われていたので。自分のオリジナル曲でも色っぽく低音を響かせられるように非常に意識して歌っていたんですね。それをさらに意識して『ブルーノア』では歌いました」。
■「曲を聴いてから、レコーディングするまでは1日しか時間がなかったんです」
最初にオープニング曲を聴いた時には「平尾先生はこういうアニソンも書かれるんですね」と驚いたという。「でも曲を聴いてから、レコーディングするまでは本当に1日くらいしか時間がなかったんです。エンディング曲の『夜間航海』なんてレコーディング当日に初めて曲を聴いたんじゃなかったかな。だから、とりあえず何度も何度も聴くしかないので、聴いてどうにか覚えてレコーディングスタジオに入り、何度か直していきながら完成させた記憶があります」。
わずか1日での練習からの完成!いまとなっては信じられない話だが、当時としてはそんなに珍しい話ではなかったと言う。「山口百恵さんも宇崎竜童さんと阿木燿子さんに曲を書いていただいていましたけれど、その時もやはり当日に聴いてレコーディングしたということが多かったそうですよ。しかも思い出しましたが、『ブルーノア』のシングルの発売日に、(ジョージ・ハミルトンが主演したコメディ映画)『ドラキュラ都へ行く』の主題歌の日本語カバー曲『フライ・バイ・ナイト』のレコードもリリースしたんです。こちらは原曲もあったし、少しレコーディングまでには時間がありましたが。もちろん、こういった状況に僕も満足していたわけではなく、できれば時間はほしいと思っていました」。
■「ファンの子たちと『ブルーノア』の放送を観た記憶があります」
当時本当に時間を取ることができなかった川崎は、「毎日流れ作業のようになにかを覚えなければいけない状態」だったと振り返る。「今日は『レッツゴーヤング』の資料に目を通さなければいけない、そのあとはドラマの台本を覚えなければいけない。その間に新曲の振付も覚えなければならない…。当時の学生は、鞄をお湯につけてペッタンコにするというのが当たり前でしたが、僕は台本やファンレターをいつもパンパンに詰め込んだ分厚い鞄を持ち歩いていました。先生からは“ドクター・バッグ”って呼ばれていましたね(笑)」。
そんなに忙しいなかでも学校からファンクラブに直行しては、自らファンレターの整理などをしていたというから恐れ入る。「ファンクラブで『ブルーノア』の放送をファンの子たちと観た記憶があります。歌が流れて、ファンの人たちが『キャー』と声援を送ってくれたのはうれしくて、すごく覚えていますね」。
■「当時はヒットしたとはいえなかったし、本当に観ている人がいるのかな?と思っていました(笑)」
そんな「ブルーノア」の主題歌を、実は公の場では2度しか歌ったことがないと川崎は説明する。「確かキャンペーンのイベントだったと思うのですが、渋谷のどこかの劇場で歌いました。2番の歌詞が全然出てこなくて大パニックになりつつ、でも、誰も2番の歌詞なんて知らないだろうと思って、無理やり誤魔化して歌いあげた記憶があります(笑)。出ていらっしゃる声優さんから、すごく拍手をもらったことをよく覚えていますし、こんなにアニメファンの方っているんだなと驚かされた記憶があります」。
川崎の歌ったテーマ曲は、YouTubeでのカバー動画を含め、いまでも多くの人に歌われている。“エゴサ”好きで毎日ネットを見ているという川崎は、その盛り上がりにも驚かされたという。「正直、放送当時はヒットしたとはいえなかったし、本当に観ている人がいるのかな?と思っていて(笑)。僕の人生のなかでもスルッと終わってしまった印象があるんです。いまでもこういった人気があるのは、日本のアニメという文化に対するこだわりの大きさに比例しているからだと思います。作ったスタッフを追いかけてくださったり、レジェンドというべき声優さんがたくさん出演されていたり、そういうところを徹底的に追求している方たちがいるからこそ、人気が継続されたんでしょうね」。
■「いつかアニソンのフェスとかで『ブルーノア』を歌った時に『おおー』と楽しんで迎え入れられたら最高ですね」
「考えてみれば同期の元レイジーの影山ヒロノブくんも、『ドラゴンボールZ』のオープニング曲『CHA-LA HEAD-CHA-LA』などで超レジェンドになったし、『レッツゴーヤング』に出ていた日高のり子ちゃんも、いまや『タッチ』などで声優として大人気。この間、岩崎良美ちゃんと会いましたが、アニメブームが根強く続いたおかげで『タッチ』の主題歌を歌うことが本当に多くなったし、仕事も増えたと言っていたんです。そういう応援してくださるアニメファンの皆さんのおかげで『ブルーノア』も再度観られるチャンスに恵まれたんだと思います」。
「宇宙空母ブルーノア」の第1話<1>は、現在「スターチャンネルEX」で無料配信中であり、3月23日(土)にはBS10 スターチャンネルで無料放送が予定されている。しかし、初回放送時に第1話が2時間スペシャルとして放送していたため、現在配信されている通常のテレビアニメの尺に分割された第1話<1>には、川崎のオープニング曲が付いていないバージョンとなっている。
「僕も今回の配信で見返したのですが、オープニングがなくて驚きましたね(笑)。エンディング曲はちゃんと付いているので安心しましたが(笑)。配信&放送でしたら全話観ることができますし、僕の歌もしっかり付いていますので、是非そちらで楽しんでいただきたいです。改めて本当にこの作品に関われたことを光栄に思っていますし、いつかアニソンのフェスとかで歌った時に『おおー』と楽しんで迎え入れられたら最高ですね。この機会にさらなるファンを増やせたらうれしいです」。
取材・文/横森文
※川﨑麻世、西﨑義展の「﨑」は「たちざき」、日髙のり子の「髙」は「はしごだか」が正式表記
「宇宙空母ブルーノア」主題歌・川崎麻世が明かす、「ヤマト」からのプレッシャーと過酷な70年代アイドル事情
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