日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』(5月3日公開)は、仕事と人生の目標を失った36歳のジミーが、18歳の時に出会った初恋相手、アミとの記憶をたどる旅をする物語。清原果耶とW主演を務めるのは中華圏のみならず、アジア中で大人気の台湾俳優シュー・グァンハンだ。

前編ではグァンハンがブレイクするまでの道のりを追ったが、後編となる今回は彼の魅力が堪能できる代表作を紹介する。

■心優しい青年の光と影『ひとつの太陽』

2019年はシュー・グァンハンにとって、飛躍の年だったに違いない。

台湾のアカデミー賞と言われる第56回台湾金馬奨で、作品賞など5冠に輝いた映画『ひとつの太陽』(19)に出演。家族の崩壊と再生を描いたこの映画で、グァンハンは4人家族の長男を演じた。

穏やかで誰に対しても優しい長男・阿豪(アーハオ)と、チンピラと関わり、道を踏み外していく次男・阿和(アーフー)。アーフーが罪を犯して少年院に収容されると、もともとギクシャクしていた家族関係にさらに亀裂が入る。自動車教習所の教官をしている父親は、長男の肩に家族の行く末と自分の希望をすべて託そうとするが…。

アーフーになにがあったのか?この家族が抱える不協和音の原因はなんなのか?不穏なムードの幕開けから、すぐに引き込まれる。

闇を抱えた人物ばかりが登場するなか、1人、日なたを歩いている人物がグァンハン演じるアーハオだ。物腰が優しく、美しい青年なのに、どこか危うい。ものすごく気になる存在なのに、輪郭が薄いのだ。グァンハンは、どんな色にも染まれるその強みで、つかみどころのないアーハオを演じて、観る者にインパクトを与えている。

『ひとつの太陽』と同時期に配信されたNetflixオリジナルドラマ「罪夢者」でも、やはり本心が読めない男を演じているが、こちらはアーハオとはまるで違うキャラクター。裏社会で生きる主人公が投獄される刑務所の看守役で、序盤はオーラを消したかのように目立たないのに、佳境に入ってからのギアチェンジぶりに圧倒される。

グァンハンの大きな魅力は、黒目がちな目にあると思う。温かくもあり、時に深淵のようでもある。明るいのに、真意が読めない。そんな持ち味がうまく活かされたのが、大ヒットドラマ「時をかける愛」だ。

■アジア中の涙を絞った「時をかける愛」

「時をかける愛」は、シュー・グァンハンの人気を決定づけたラブ&ミステリードラマの傑作。『青春18×2 君へと続く道』のグァンハンのキャスティングについて藤井道人監督は、台湾の映画関係者に「18歳と36歳を1人で演じられる俳優は誰?」と聞いたところ、ほぼ全員が彼の名前を挙げたというエピソードを明かしているが、その理由がよくわかる作品だ。

2019年の台北。黄雨萱(ホァン・ユーシュエン)は、2年前の航空機事故で行方不明になった恋人・王詮勝(ワン・チュエンション)のことを想いながら日々をやり過ごしている。普段は気丈に仕事に邁進しているユーシュエンだが、彼に会いたい想いは募るばかり。ある日、ユーシュエンは、チュエンションにそっくりな男の子が写った写真を見つける。そしてその隣には、自分と瓜二つの女の子の姿がある。写真に写っているのは誰なのか?調べ始めたユーシュエンは、ある出来事をきっかけに1998年の台南にタイムスリップしてしまう。

できるだけ事前情報なしに楽しんでもらいたいので詳しくは語らないが、ラブストーリーであると同時に、ミステリーの要素も濃厚で、見始めると展開が気になって止まらない。

このドラマの原題は「想見你」、つまり「あなたに会いたい」という意味だ。ユーシュエンの消えた彼に会いたい気持ちにどれだけ共感できるかが、このドラマに没入できる鍵になるのだが、グァンハンが演じるチュエンションと、彼そっくりの男子高校生・李子維(リー・ズーウェイ)のやんちゃでお茶目な振る舞いと、さりげない優しさや思いやりに、心をわしづかみにされるはず。絶対的彼氏感が完璧なのだ。2人が愛する人のために取る行動や選択に涙を絞られ、彼らが一緒に過ごせる幸せな時間を願わずにいられない。

1人2役をこなし、異なる時間軸、異なる状況、ユーシュエンに対する想いの種類や程度などをナチュラルに演じ分けるグァンハンの演技力が光る。ユーシュエン役のアリス・クーや、ズーウェイの親友を演じたパトリック・シーなどほかの俳優陣も皆すばらしく、単なる純愛メロドラマでは終わらない。

また、「時をかける愛」の1998年のシーンが撮られたのは、偶然にも『青春18×2 君へと続く道』が撮影された街、台南。ドラマを観て興味を持った方は、映画でもノスタルジックで趣のある台南の風景に再会できる。

OST(サントラ)も秀逸で、ユーシュエンの気持ちを表したようなオープニング曲「Someday or One Day」は耳に心地いいし、物語の鍵となるシーンで流れる台湾のベテランロックバンド、伍佰&China Blueの「Last Dance」は余韻と共にいつまでも耳に残る。

「時をかける愛」は台湾をはじめアジア中で大ヒット。グァンハンは一気にトップスターへと駆け上がり、「国民的彼氏」と呼ばれるようになる。

■ゲイの幽霊と結婚させられる差別主義者?『僕と幽霊が家族になった件』

ドラマの大ヒットを受け、スピンオフ的な内容の同名映画も制作されるなど、「時をかける愛」の余韻はしばらく続く。韓国で大ヒットを記録した『君の結婚式』(18)の中国リメイク版、『你的婚礼』(21)なども同じ純愛路線だ。もちろん、甘いグァンハンは何作品観ても見飽きないのだが、まったく違う一面を見せてくれたのが、台湾の歴代興行収入で7位を記録した2022年の大ヒット映画『僕と幽霊が家族になった件』である。

警察官の呉明翰(ウー・ミンハン)は、捜査中に道に落ちていた赤いご祝儀袋を拾ってしまう。これは、ひき逃げ事故で亡くなったゲイの青年・毛邦羽(マオ・バンユー)の遺族が置いたもので、拾った者は死者と結婚しなければバチが当たるという。この「冥婚(めいこん)」の風習にのっとり、ミンハンはバンユーと“結婚”させられることになる。

グァンハン演じるミンハンは、同性愛嫌悪で、同僚の女性警官の生理休暇に文句をつけるようなマッチョな差別主義者として登場。しかし“夫”となったバンユーの生前の願望をかなえるうちに、考え方が変化していく。

アジアで最初に同性婚が合法化された台湾。そうした社会の変化がもたらした当事者たちの心情の変化なども、うまく物語のなかに落とし込んでいる。誰もが愛し、愛されたい。「愛する人と一生一緒にいたい」という当然の願望を、冥婚というローカルな風習を通してエンタテインメント作品として訴えるバランス感覚が絶妙だ。

グァンハンが鍛え上げられた肉体を惜しげもなく披露し、体当たりで笑いをとる役者魂も見事。下品になりそうなところも、振り切って演じていて逆にすがすがしい。

ここで紹介した主演作以外にも、「華燈初上 −夜を生きる女たち−」(Netflixにて配信中)、「最後の雨が降るとき」など、日本で観ることができる出演作には良作が多い。『僕と幽霊が家族になった件』のスピンオフドラマ「正港分局」のNetflix配信が待たれるほか、出演した韓国ドラマ「No way out」も楽しみだ。

ラブストーリー、コメディ、ミステリー、ヒューマンドラマ…ジャンルを問わず活躍している台湾スター、シュー・グァンハン。18歳の青臭さと人生につまずいた36歳の大人の深みを見事に演じ分けて見せる『青春18×2 君へと続く道』は、彼の新たな代表作の一つになるだろう。

役のイメージと国境を軽やかに越えていくグァンハンの活躍にこれからも注目してほしい。

文/新田理恵