ニューヨークの “5月最初の月曜日”が意味するもの。それは、春の訪れとメットガラの開催!メトロポリタン美術館(通称メット)のコスチューム・インスティテュートが、米現地時間5月6日夜、毎年恒例のガラを主催した。ガラは同部門運営のためのファンドレイジングであり、特別展の開幕を祝う、ファッションのアカデミー賞とも呼ばれる祭典。2024年の展示は、「Sleeping Beauties:Reawakening Fashion(眠れる美への追憶――ファッションがふたたび目覚めるとき)」。17〜21世紀の作品まで400年に及ぶファッションの歴史を辿りながら、その繊細さや古さのため、二度と身に着けることができないピースたちに焦点をあてることでいまへ甦らせる。

そのテーマから生まれたドレスコードは、「The Garden of Time(時間の庭)」。インスピレーションとなったのは、J・G・バラードが1962年に発表した同名短編小説で、デザイナーと職人たちが情熱を込めたテキスタイルなどを通して、自然界の魅力や人類との関係性、創造と破壊の循環を表現。様々な解釈ができるドレスコードをスマートに制したメンズルック・トップ10とは?

●スティーヴン・ユァン

Netflixのリミテッド・シリーズ「BEEF/ビーフ」で脚光を浴びたスティーヴン・ユァンは、今年の賞レース一連の格好をみている限り、奇をてらわないがつまらないものにしないスタイリングが上手!シンプルなブラックタキシードコーデかと思いきや、セットアップにはフラワーなのかプラントなのかが繊細に刺繍されているし、ボトムスがアンクルレングスだから、それを活かすレースアップブーツを選んでいる。このトム・ブラウンならではのシルエットが彼に合っていて、傘の小道具も気が利いている。ひとつひとつも個性が強いアイテムたちをまとめているのが、潔くすべてゴールドで揃えたアクセサリー。だから傘も悪目立ちしないのね!セレブでなくても取り入れたい要素が満載!

● バッド・バニー

元カノのケンダル・ジェナーとの再会よりも、共同ホストとしてのファッションのほうへ話題をもっていくことに成功していたバッド・バニー。このルックが責務を果たせた理由は3つある。ブラックではなくネイビーでカスタムしたこと。裏地が見えていて、縫製の作業をひっくり返したような遊び心のあるメゾン・マルジェラを選んだことで、時間がさかのぼるバラードの小説「The Garden of Time」とドレスコードをクールに演出できたこと。そして、サングラス、ハット、花のブーケは、小説の主人公、アクセル伯爵をオマージュしながらも、いずれも独創的なデザインやカラーをピックアップしたことだ。マルジェラのタビシリーズのシューズがこれほどハマるスタイリングもないのでは?と思わせたことまで含めて完璧だった!

●ベン・シモンズ

プロアスリートのなかでもおしゃれなNBA。そのプレーヤーのなかで一番ファッショナブルとの呼び声も高いベン・シモンズ。全身をトム・ブラウンで揃え、着こなすのが難しいルックをダンクのように華麗に決めた。絶妙なのが、オーバーコートの裾まで長く伸びた花の茎でもなく、ドレスコードそのままの“時”を表現したアタッシュケースでもなく、ツイードを選んだこと。コートのショルダー部分、ジャケットのラペル部分に採用されたグリーンやレッドが、ツイードなことによって有機物の独特な様子を演出できている。今回の展示は特にテキスタイルや素材に焦点をあてるものだから、“主人公”を外さないのは、上級者ならではのスタイリング術だ。

●ジョシュ・オコナー



圧巻のファッションでこの夜を輝かせた共同ホスト、ゼンデイヤの最新作『チャレンジャーズ』(6月7日日本公開)に出演しているジョシュ・オコナーも、マイク・フェイストと共にメットガラ入り。同作のなかでゼンデイヤの心を射止めたのは…というのは映画を観てもらうことにして、レッド(今回はガーデンがモチーフの緑と白色)カーペット上でファッションによって狙い撃ちできたのは、オコナーのほうだったのかも!?フェイストのルックも悪くなかったのだが、予想通りのフラワーモチーフを、楽しくておもしろいシューズで取り入れたのがよかった。燕尾服の語源のとおり、燕の尾のように裾が長めなロエベもプレイフルだし、その分、首元はシンプルにしたバランス感がよい。メットガラという場では、難しいスタイリングに挑戦したオコナーに軍配が上がった。

●ジェフ・ゴールドブラム

いろいろな意味で現実離れしたメットガラと今回のドレスコードに、ファッションのみならず、キャラクターがマッチしていたジェフ・ゴールドブラム。それは、彼の“読解と表現力”がすばらしいから。生配信のインタビューでは、「時間の庭」がどんな美しい話なのかに触れ、これらの花や鳥など3つのブローチをなぜ選んだのかを解説した。ダイヤモンドとパールで構成された華麗なブローチは、ファインジュエリー史に欠かせない宝飾デザイナー、ジャン・シュランバージェによるティファニーのもの。タキシードとつま先がドラマティックなシューズはプラダのもので、カクテルウォッチもジュエリー同様ティファニーだそう。華奢なウォッチは、(女性が身に着けることの多い)カクテル。なかでも夢想的なシェイプを選んだのもすばらしい。物語を解釈して、身体でストーリーテリングすることができるのって、さすがアクターでステキ!

●アダム・モッセーリ

上手に“盛れて”いたのが、Instagram責任者のアダム・モッセーリ。なにがいいって、新進気鋭のニューヨーク・ブルックリン発のブランド、ターナー・フレッチャーを選んだところ。2020年にターナーとフレッチャーのデュオが始めたジェンダーレスのブランドで、インテリアの装飾を服に取り入れる斬新さと、ロマンティックなコレクションに定評がある。ユーモアあふれるアクセサリーが散りばめられたジャケットは、どこか懐かしさも感じられるのに、とってもモダン。とにかくカワイイジャケット!と思ったら、同ブランドのもので納得。やっぱりインスタで見つけたのかな?(笑)。これに決めたモッセーリのセンスに感服!

●ニコラス・ガリツィン

いま、“王子”をやらせたら右に出るものはいない⁉と話題作が続くニコラス・ガリツィン。品格を感じるのは、決して彼のブリティッシュアクセントのせいだけではあるまい。2023年にフェンディ初のグローバル・メンズウェア・アンバサダーに就任した彼だけに、もちろんこの夜も同ブランドを身に纏った。ラペルもフローラルの刺繍も、センシュアル。タグ・ホイヤーのウォッチも彼の色気を引き立たたせ、無駄や余計な装飾はなし。プリンスの貫録は眼福そのもの!

●エディ・レッドメイン

エディ・レッドメインは、ブレザーの裾がそのままスカートのようになっていて、タイを結んでいるのかと思いきや、シルク素材のシースルーな首元にデザインが施されているユニークなルックで登場。インタビューで、「線画、特にチャコール(炭)で描かれたものが好きだから」と、アートと融合させた特別な夜の装いについて説明した。これは、自身の名前を冠したロンドン出身のデザイナー、スティーブ・オー・スミスのもの。スミスによると、まずはバラードの小説を読み、アクリルでドローイングし、服へと落とし込んだそう。アートへの敬意は、メットガラのテーマでもある。ドレスコードへの反映も、とてもスタイリッシュ!

●アッシャー

メットガラ・アフターパーティで今年のホストを務めたというアッシャーは、溶けたような赤いバラのアクセサリーが、ドレスコードの「The Garden of Time」にとても合っていた。2024年シーズンからクリエイティブ・ディレクターに就任したショーン・マクギアーによるアレキサンダー・マックイーンの、襟にもバラの装飾がついたクロークもダイナミックでクール!

●ジョナサン・ベイリー

これまでに演じてきた役柄のイメージも大きいと思うが、今回のドレスコードには、ジェントルマンというよりプリンスのエッセンスがより合うのだろう。Netflixの人気ドラマ「ブリジャートン家」俳優、ジョナサン・ベイリーのスウィートなルックスには花が似合う。この日まで大忙しだったであろう、ジョナサン・アンダーソンによるロエベのダブルブレステッドも可憐だし、ピンクカラーは男性も積極的に取り入れるべきカラーであることを証明!

■メットガラだから無礼講!とはいかなかったスタイリングたち

●ステフォン・ディグスとセバスチャン・スタン

フットボール選手のステフォン・ディグスには、とあるメディアから「ゴミ袋かと思った」との痛い指摘が…。全身黒でまとめたセバスチャン・スタンも、同じSFでも、バラードの世界観ではなく『マトリックス』のよう。そう聞いてしまうと、それにしか見えないのはツラい。

●グスタフ・マグナー・ウィッゾーとジョーダン・ロス

ビリオネアのグスタフ・マグナー・ウィッゾーはなにかには扮していたようだが、果たして“なに”だったのか…。ジョーダン・ロスは、ドレスコード通り(?)の庭になりきった。とはいえ、こういうセレブたちがいるから、メットガラはおもしろいのかも!

 
文/八木橋 恵