自然保護活動などに取り組む「ふるさと自然の会」は、2023年度に実施した長崎県北地域でのニホンジカ分布の調査結果を発表。川内野善治会長は「特に北九十九島の被害が進行していた。手遅れになる前に対策をとる必要がある」と警鐘を鳴らす。
 シカは佐世保市鹿町町から市内各地に分布を拡大していったとされる。同会は対策の資料にするため19年7月から調査を始めた。
 調査対象地域は同市を中心とした北松佐々町と平戸市。九十九島は食痕などで生息を確認し、本土は食痕確認に加え地域を一定の広さで区切り3カ月間カメラで撮影。シカが映る頻度が低い場合はカメラを移動させ分布の限界点や各場所の食害状況などを調べている。23年度はより詳細な分布を確認するため例年より地域を狭く区切り18台のカメラを設置した。
 調査の結果、分布の最北端は平戸市田平町下寺免、最南端は佐世保市俵ケ浦町と変わりはなかったが、最東端は同市吉井町立石から同市江迎町田ノ元に、最西端は九十九島の下島から黒島に広がっていると判明。同市鹿町町以外では、同市小佐々町平原での出没頻度が高く繁殖地になっている可能性が高いことなどもわかった。
 食害が深刻だったのは北九十九島。無人島は上陸する人がほとんどおらず、シカにとって安全なため、泳いで渡っている。食害で低木が枯れ、斜面がむき出しになる範囲が拡大、被害に遭っている場所も増加していた。下島は低木が食い荒らされスカスカの状態に。県天然記念物「ハカマカズラ」も食害でまばらになった。
 被害の状況について川内野会長は「国立公園としての景観悪化はもちろん生態系も崩れてしまう。人里での食害もひどくなれば人的被害も起こりうる」と声を強める。捕獲による個体数抑制しか対策の術はなく「個体数の多い地域での捕獲強化で分布拡大を抑制するなど、行政は調査結果を活用して手遅れになる前に対策を講じてほしい」と訴えた。