「今年もか」−。橘湾で昨年に続いて赤潮が発生し、養殖魚が大量死。無残な姿に、長崎県内業者はやるせない思いを抱える。「まだ6月。さらに被害が出るのでは」と不安を募らせている。
 雲仙市の橘湾東部漁協の養殖業者は21〜23日、プランクトンを沈降させる粘土を散布した。潮の流れのせいか効果が感じられないまま、24日、多くのハマチやヒラスが死んで海面に浮かんでいたという。
 26日、養殖業者10人は同市南串山町沖のいけすから、斃死(へいし)した魚を焼却処分するため陸に揚げた。
 この道20年になる40代男性は「ハマチがダメになった」とうなだれた。体長2〜3センチの稚魚に、円安で高騰する飼料を毎日与えて1年以上世話をしてきた。あと3、4カ月で出荷できるはずだったが、死んだハマチでいけす表面が覆われるほど甚大な被害に遭った。「収入の見込みがなくなった。『つらい』というレベルを超えている」
 別の40代男性のハマチも斃死した。「収入がなくても従業員に給料を払わないといけない」と途方に暮れた。熊本県では24日、八代海全域に赤潮警報が発令された。昨年橘湾でも猛威を振るった有害プランクトン「カレニアミキモトイ」が異常発生。「いずれ橘湾にも北上するだろう」。心配は尽きない。
 長崎市戸石地区では青魚を中心に被害が出ている。同地区の養殖業社長は「眠れない日が続いている。またか」と肩を落とす。
 同社の養殖場は昨年の赤潮でも数万匹の魚が死ぬ被害が発生した。今年は例年より出荷時期を早めるなど対策を進め、再起を誓っていた。24日朝に初めて魚が海面に浮いているのを確認。翌朝にも数十匹が死滅し、時間を追うごとに数千匹が海面に浮かんできた。
 20日から防除剤を散布して赤潮の発生を抑えてきたが「まいてもまいても沖から流れてきた」。最終的には数万匹の被害を見込んでいる。同社社長は「対策しても被害が発生したらどうしようもない。どうしたらいいのか」と嘆く。