関東や関西を中心に展開する焼き鳥チェーン「鳥貴族」。全国に600店舗以上を展開している。そんな鳥貴族が最近、札幌市内での出店を増やしている。札幌には焼き鳥チェーン「串鳥」(くしどり)があるはずだが、なぜ札幌で勝負を挑もうとしたのだろうか。鳥貴族の本部にも話を聞いた。
◆’23年4月に札幌に初出店、’24年1月までに3店舗オープン

鳥貴族が札幌に初出店を果たしたのは2023年4月のこと。札幌の繁華街・すすきのの最寄り駅、地下鉄南北線「すすきの」駅から徒歩すぐの場所に位置する。立地としては、目の前に国道36号、通称「さぶろく」が通っており、今年グランドオープンした商業施設「ココノススキノ」も隣にある。初日には長い行列ができたことが話題になった。

それから3か月後の7月末、北海道の鳥貴族2号店が大通・すすきの地区付近にある商店街「狸小路」(たぬきこうじ)にオープンした。そして今年1月末、3号店となる「札幌駅南口店」が札幌駅近くのビル「アスティ45」にオープン。少しずつ店舗を増やしているのだ。

◆北海道では「串鳥」が君臨、1本180円前後の手軽さ

ただ北海道には、同じく焼き鳥チェーン「串鳥(くしどり)」がある。串鳥は飲食業を営む札幌開発が運営。1980年1月に第1号店となる「串鳥本店」をすすきのにオープンし、翌年7月にも「串鳥南三条店」を開店して着々と店舗数を増やしてきた。道外に初出店したのは2004年6月の「串鳥虎屋横丁店」(仙台)で、2010年5月には東京1号店として「串鳥吉祥寺南口店」をオープン。現在は北海道で35店舗、仙台で6店舗、東京で2店舗を運営している。

「串鳥」は炭火を使用した串焼きが魅力で、岩手県産「あはん鶏」などを使用しているのが特徴だ。基本の「鶏精肉」などをはじめとして、「豚アスパラ巻き」、「つくね」など、焼き鳥屋らしいメニューが並ぶ。価格は「鶏精肉」であれば1本180円(税込)であり、「ちょっと食べたいとき」にはうってつけだ。ビールは「サッポロクラシック」を採用している店舗が多く、ビールからも北海道らしさをうかがい知ることができる。また一部店舗には「飲み放題プラン」もあり、大人数での利用であれば経済的に楽しむことができるだろう。

◆「鳥貴族」で食べて感じた、「串鳥」との違い

筆者は今まで1回しか「鳥貴族」を利用したことがないため、「串鳥」と「鳥貴族」との違いを比較しようにもよくわからなかった。そこでこの機会に「鳥貴族」の店舗を改めて利用し、「串鳥」との違いを確かめてみることにした。
筆者が訪れたのは、「鳥貴族札幌駅南口店」。前述の通り今年1月末にオープンしたばかりの、道内で一番新しい店舗だ。ところで「串鳥」はワインレッドの色を基調とし、白い文字で「串鳥」と書かれているのに対し、鳥貴族は黄色地に赤い文字で「鳥貴族」と書かれている。

店内は平日の夜ということもあり、スーツを着た仕事帰りのサラリーマンが多く利用していた。席は半分以上埋まっており大賑わいで、「串鳥」と遜色ない客の入りだと感じた。
筆者が案内された「鳥貴族」の座席は、2〜4人用のテーブル席。店舗ごとの違いなのだろうか、「札幌駅南口点」ではカウンター席が2席のみ設置されていた。一方、「串鳥」はカウンター席が店の中心にあることが多く、大まかだが席数はボックス席と同じ人数くらいの印象だった。「串鳥」のカウンター席は、店員らが使用するドリンクバーを取り囲むように並んでいるのも特徴である。

さっそくビールといくつかのフードメニューを注文。「鳥貴族」ではタブレットでフードメニューなどを注文するが、「串鳥」では店員に口頭で注文する。ただ「串鳥」でも最近、スマートフォンでQRコードを読み取って注文する「モバイルオーダー」を導入している。

◆「ご飯セット」が魅力の鳥貴族、串鳥は無料の「スープ」が名物

「鳥貴族」の基本メニューで面白いと感じたのは、通常のメニューの味の多さ。といっても、「たれ」「塩」に加えて「スパイス」の1種類が増えたのみだが、「串鳥」には「スパイス」味がない。実際に食べてみると、ハーブのような風味が口の中に広がった。「スパイス」は初体験で、「串鳥」では味わえない味だった。また、「串鳥」にはない「ご飯セット」があるのも大きな違いで、白米の量を200g、250g、300gの中から選択。付属で「温泉卵」と「たくあん」、「お吸い物」がついているのも魅力であり、夜ごはんとして食べる選択肢もあるのではないだろうか。

「串鳥」も負けてはいない。筆者が魅力だと感じているのは、サービスで付いてくる「鶏がらスープ」と「大根おろし」だ。「鳥貴族」にはいわゆるお通しのようなものがなく、入店直後に「スピードメニュー」を注文する場合もあるが、「串鳥」ではこれで十分である。ちなみに、筆者は鶏がらスープの中に大根おろしを入れて一緒にいただく。どちらともおかわり自由なので、「串鳥」を利用する機会があれば、ぜひ試してほしい。

◆鳥貴族はなぜ札幌だけ3店なのか?

現在、北海道では札幌にしかない鳥貴族だが、なぜ他地域には出店していないのだろうか? そこで鳥貴族に取材を申し込み、鳥貴族FC事業部の枚田年充さんに話を聞いた。

まず、オープン後の客足について。「串鳥」がある中で「鳥貴族」は苦戦しているのではないかと思っていたが、「多くのお客様にご来店いただけており、おかげさまで終日盛況な賑わいとなっている」(牧田さん、以下同)とのこと。「鳥貴族ブランドに対する期待値の高さを実感している」そうで、札幌で成功した要因について「均一価格など、道民の方に鳥貴族ブランドを受けいれていただけた」と好調さを実感している模様だ。

次に聞いたのは「なぜ札幌だけなのか」という疑問だ。札幌だけではなく、旭川や観光客でにぎわう函館など、出店してみてもよい地域は沢山あるはずである。この疑問について、「ドミナント戦略を基本とした出店を考えている」と牧田さん。ドミナント戦略とは、ある店がフランチャイズで展開する際に展開先の地域を特定し、その地域に集中して店舗を展開する手法をいう。
メリットとしては、地域に集中して展開するため、出店計画の効率化や宣伝費等の削減が期待できること。一方、ドミナント戦略を採用すれば店同士で客の奪い合いが発生するデメリットがあるが、ここは串鳥一強の北海道。競争の激化によって、双方によい影響をもたらすことが期待される。

「鳥貴族」の北海道進出により、北海道の“焼き鳥派閥”はどうなるのか。今後の展開や双方の戦略に注目したいところだ。

<文・撮影/小林英介>



【小林英介】
1996年北海道滝川市生まれ、札幌市在住。記者。北海道を中心に、社会問題やビジネス等について取材。「酒はライフラインだ」を合言葉に、道内や東京などで居酒屋めぐりをするのがライフワーク