2015年に7年間にわたって所属したアイドルグループSKE48を卒業後、現在は俳優、小説家などの顔を持つ松井玲奈さん。アイドル時代の『マジすか学園』シリーズでのゲキカラ役を皮切りに、ヒロイン役だけでなく、振り切ったキャラクターや影のある役柄、悪女などさまざまな人物を演じてきた。
 現在公開中の岡田将生主演のクライム・エンターテインメント『ゴールド・ボーイ』にも出演。本作は、実業家で大金持ちの義父母を崖の上から突き落とした昇の犯行を、カメラで撮影していた少年たちが、昇を脅迫することから物語が動き出す。

 松井さんは、主人公・東昇(岡田)と結婚生活が破綻している妻・静を演じている。そこで、本作の役作りの話から夫との結婚生活がダメになり、人生が狂っていく静へのアドバイス、さらには今後の野望についても訊ねてみた。

◆「変わった役が多いですよね(笑)」

――松井さんは、いわゆるアイドル出身の枠に留まらない役を数多く演じてきています。

松井玲奈(以下、松井):変わった役が多いですよね(笑)。

――少しネタバレになりますが、松井さん演じる静はある男性と不倫関係にありました。相手を演じた落合モトキさんとは『笑う招き猫』(2017)では幼なじみ役。全く違った再共演になりました。

松井:そうですね。すごく久しぶりだったので、「全然違う役柄だね」と。(女性漫才師を演じた)『笑う招き猫』のときには、眉毛を引っこ抜いたり、寝てるところを爆破したりする、とんでもないシーンばかりを一緒に撮影していたので、「まさかこんなことになるなんて」とずっと二人で笑ってました(笑)。

◆普通の人生だったら経験できない役も

――それこそ『笑う招き猫』もそうですが、ドラマ『海月姫』(2018)のばんばさんもとても好きでしたし、映画『ゾッキ』(2020)でのインパクトもすごかったです。役者として、そうした役へのオファーは嬉しいですか?

松井:声をかけていただけるということは、イコール必要とされているということなのですごく嬉しいですし、飛び道具的な役も、普通の人生だったら経験できないですよね。ばんばさんのようにアフロに隠れて目が見えないとか。『ゾッキ』での白塗りの役もなかなかできるものではないです。面白いなと思いましたし、基本、積極的にやりたいタイプです。どの役にもやりがいがあると思っています。

 今回の静に関しても、すごくバックボーンが描かれているわけではありませんが、物語が動くきっかけになるキャラクターなので、それをどう自分なら演じられるかと考えるのがとても楽しいです。どんな役でもやりたいと思っています。

◆「自分が頑張ってきた証でもある」

松井玲奈――再共演というのは、お仕事を続けていたからこそ叶うことですね。

松井:そうなんです。現場に入って初めましての方がたくさんいらっしゃるのは刺激的ですが、また会えたというのも、自分が頑張ってきた証でもあるので、すごく嬉しいです。落合さんとは『ゴールド・ボーイ』の撮影のすぐ後にも『やわ男とカタ子』というドラマで共演しました。ご縁ってトントンと続くことがあって面白いです。再びのお仕事で言うと、今回の金子修介監督とは、AKB48時代のミュージックビデオ以来でした。

――そうなんですね。

松井:10年ぶりくらいだったのですが、監督も覚えていてくださっていて、今度はちゃんとお芝居の現場でお会いできてすごく嬉しかったです。

◆「見る人によっていろいろ考えられる」

――本作『ゴールド・ボーイ』で松井さんの演じた妻の静は、昇に離婚を突きつけており、事故と処理された両親の死に疑念を抱いていました。昇が義理の両親を殺すに至った理由は、お金目当て、静との関係がうまくいかなくなったこと、どちらがきっかけだったと松井さんは思いましたか?

松井:どっちもだと思います。どのキャラクターも行動原理みたいなものは明言されていないんですよね。突き詰めていくと、個人が持っている欲の部分が浮き上がってくるのですが、観る人によっていろいろ考えられるのが楽しい作品だと思っています。「全部を説明してくれなかった」と言う人もいるかもしれないですが、私は観る方のことをすごく信頼している作品だと思いますし、そこが潔くて素晴らしいと感じました。

――昇と静、彼ら夫婦の在り方をどう感じましたか?

松井:義理の両親を殺してしまうというのは普通ないことですが、会話がなくなったりお互いへの興味がなくなったりといったことは、普通の夫婦でもあることなんじゃないでしょうか。何がきっかけだったのか、多くは映画の中では語られなかったので、静に関しては自分で考えなければいけない部分も多かったですけれど、新しさを見つけるというより、よくある夫婦関係だけれど、その物語の中でどう自分なりに深めていくかが大切だろうと感じて演じていきました。

◆助言はこちら側からの希望にすぎない

――破綻する夫婦も多くいますが、一方で続いている夫婦もたくさんいます。続けていくためには何が大切だと思いますか。

松井:今回に限っては、そもそも私が演じた静は彼女自身の人間性にも問題があるんですよね。両親を亡くした女性ですが、彼女自身、恨まれる理由を持っていますから。でも可哀そうな女性に描かれていないところが、逆に面白いキャラクターだと感じました。しかも、静は自分自身で恨まれていると分かっている。人間らしい人だと思いました。

――松井さんが静にアドバイスするなら、どう声をかけますか?

松井:しないです。彼女は自分の「楽しい」を生き甲斐にしているタイプなので、助言しないほうがいいと思います。助言って、結局、こちら側からの相手に対する希望ですよね。相手からそれを求められたなら分かりますが、押し付けるのはよくないと思うんです。だから「気を付けてね」くらいは言うかもしれませんが、そもそも助言を求めていない人には何も言いません。

◆今後は脚本の仕事もやってみたい

――今後についても聞かせてください。俳優業はもちろん、執筆活動やSNS、YouTubeの更新など、いろいろなことをされています。これからさらにやりたいこと、野望があれば教えてください。

松井:YouTubeはそんなに更新できていないのですが。芝居はもちろん大前提としてやりたいですし、書くことも、今、小説の連載をしているのですが、続けていきたいと思っています。そのなかで、書くこととお芝居があわさった脚本のお仕事もできたらいいなと思っています。「自分にできるのかな?」という気持ちもあるので、「やりたいです!」と大きな声ではあまり言えないですが、機会があれば挑戦してみたいです。

――いま若い俳優さんが監督や脚本に挑戦する場が増えていますし、実際にチャンスはありそうです。出演も兼ねてとか?

松井:自分は出たくないです。全く出たくないです。ここは確固たる信念を持っています。兼ねるとなると、観る方の雑音になってしまうと私は思うタイプなので、書くものに関しては、素直に作品だけを楽しんでもらえたら嬉しいです。

<取材・文・撮影/望月ふみ>



【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異 Twitter:@mochi_fumi