上方落語協会の次期会長候補者選挙が26日、大阪市の天満天神繁昌亭で行われ、現会長の笑福亭仁智(71)が選ばれた。5月の理事会で承認される見込みだ。はた目には“無風”にも見えるが、勇退したはずの前会長桂文枝が、京都での劇場建設の思いを訴えて得票。波乱含みだった。そんな今年の会長候補選で先に注目を集めたのは笑福亭鶴瓶の弟子だった。

発端は、3月28日の上方落語協会理事を務める笑福亭銀瓶が(56)が会見。席上で会長に名乗りを上げた。

「一石を投じなければいけないと思った」

2年前から悩んでいたという。

上方落語界は戦後、没落しかけたが、上方四天王による再興を経て、03年に会長に就任した桂文枝が、06年に上方悲願の定席、大阪・天満天神繁昌亭をオープンさせた。07年朝ドラ「ちりとてちん」効果もあって順風。18年には神戸新開地・喜楽館も開場した。

しかし、災害や新型コロナという逆風に見舞われ、観客は減少。文枝が18年に勇退し、後を受けて会長を継いだ仁智が協会の運営に力を注いだが、ファン層の高齢化もあり客足は戻りきっていない。

銀瓶は繁昌亭のトリ、中トリが、芸歴30年以上のベテラン落語家に集中していることが気になっていた。江戸落語のように席亭が決めるのではなく、落語家が出番を決めるやり方に疑問を抱いた。

「繁昌亭の昼席の番組に手を加えるべきではないか」

協会全体でその方向性を掲げるべきと理事会に提案し、22年5月には「繁昌亭昼席改革案」を提出した。ただ、具体的に進展することはなかった。

協会理事の立場にありながら会長選に名乗りを上げれば、会長の仁智から「飼い犬に手をかまれる思い」をされても仕方がないと思ったが、同時に「もうそんなこと言うてる場合やない」との思いを止められなかった。

3月14日。銀瓶は鶴瓶に電話をかけた。電話口の向こうの師匠に思いをぶつけ「記者会見をしていいか」と尋ねた。帰ってきた言葉は「ええやん」。鶴瓶は仁智と、再任へ意欲を持っていた文枝に連絡を入れ、筋を通すことを求め、受け入れた。

<1>特定のベテランが年2〜3週、トリを担当するのではなく、どんな落語家でもトリは年に1週だけにとどめ、中堅・若手にもチャンスを与える

<2>現状、互選で選ばれた最多得票者が会長候補者となり、理事会で承認される形を取っているが、これを立候補制とし、投票先を限定する

以上の2点を公約に掲げた。

会見を開いた後、仁智、文枝と相次いで会談。仁智からは「最後は『良いよ』と言ってもらって、泣きました」、文枝とは「がっちり握手させてもらいました。会いに行って良かった」と正々堂々勝負を挑んだ。

結果、会長候補選で1位にはならなかったが、「価値がある」「有意義な選挙だった」と評価された。「この経験を今後に生かさないとダメ。ピンチは変わっていない」。上方落語界の発展を願う戦いは続く。【演芸担当=阪口孝志】