「健康の維持・増進」をうたった「機能性表示食品」で死亡につながったと疑われる事例は初めてだ。

 小林製薬(大阪市)の「紅麹」を配合したサプリメントを摂取し、これまでに腎疾患などで2人が死亡、106人が入院していた問題。

 厚生労働省は26日、大阪市に対し、食品衛生法に基づく製品の廃棄命令などの措置を取るよう通知。同じ成分を含む可能性がある商品を取り扱っていた他の食品メーカーらも自主回収に乗り出すなど対応に追われている。被害は一体どこまで拡大するのか。

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 内閣委員会調査室のレポートなどによると、「機能性表示食品」は2013年1月、当時の安倍首相の諮問機関として発足した規制改革会議が「付加価値の高い農産物・加工品の開発を促進する観点から、ヒトによる治験を経て、健康増進に対するエビデンスが認められた素材を含有する健康食品について、その効能・効果に関する表示を認めるべきではないか」として、「一般健康食品の機能性表示の容認」を検討課題に取り上げたことが発端だ。

 その後、同会議などで複数回の議論を経て、消費者庁は14年8月に食品表示法に基づく「食品の新たな機能性表示制度に係る食品基準案」を公表。安倍首相が同10月、消費者委員会に対し、食品表示基準を定めることについて諮問。同委員会が食品安全委員会との連携の確保などを条件に諮問案を適当とする内容を答申し、15年4月から「機能性表示食品」制度が創設された。

■制度開始直から安全性を懸念する声が出ていた

「機能性表示食品」の特徴は、国が個別製品ごとにヒトでの安全性と効果を審査し、多額の研究開発費用がかかる「特定保健用食品(トクホ)」とは異なり、事業者の責任において販売できる仕組みができたことだ。

 事業者は、安全性や機能性などの根拠となる研究論文や臨床試験を消費者庁に届けることで商品の販売が可能になったため、中小企業なども市場参入しやすくなったわけだが、検討開始から2年余りで始まった制度については開始直後から、安全性を懸念する声があった。

 例えば、15年7月の「衆院消費者問題に関する特別委員会」では、野党議員が、トクホで認められなかった商品が「機能性表示食品」として市場に出ている、として政府側の認識を質し、こう訴える場面も。

「機能性表示食品については、既に消費者団体から厳しい疑義、要望が相次いで関係省庁や業界団体に出されているかと存じております。全国消費者団体連絡会、安全性や機能性の科学的根拠について問題があるものがある、機能性表示食品全体に不信感を抱かざるを得ない」

 他にも国会会議録で「機能性表示食品」「安全性」で検索すると、制度の問題点を指摘する数多くの質疑が出てくるのだが、果たして「最悪の事態」は避けることはできなかったのだろうか。