男性は3割、女性は2割が肥満だ。いまやかなりの人がメタボな状況で、ダイエットが大きなテーマになっている。そんな中、「痩せ薬」として注目されているのが、今月8日に発売された内臓脂肪減少薬「アライ」(大正製薬)だ。どれくらい効果があるのか。気になる点をQ&A形式でまとめた。

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Q 病院で処方してもらう?
A 答えはNO。アライは市販薬で、薬局やドラッグストアで購入できる。

Q 薬局に行けば誰でも購入できる?
A これもNO。18歳以上の成人で、腹囲が男性85センチ以上、女性90センチ以上、なおかつ食事と運動の生活改善を行っていて、健康障害がないことが条件だ。これについては補足が必要だろう。大正製薬セルフメディケーション研究開発本部開発推進グループマネージャーの藤田透氏が言う(以下同)。

「アライは、処方箋なしに薬局で購入できる市販薬ですが、厳格な販売管理が必要な要指導医薬品に分類されます。承認から8年間は、薬剤師との対面販売が義務。購入されるときは、薬剤師がチェックシートに基づいて生活改善の状況を聞き取りして、糖尿病や高血圧、脂質異常症など11の疾患グループ、服用している薬などの状況について確認します。それらをすべてクリアした方のみが購入できるのです」

 初回購入時の生活習慣チェックについては、同社HPやアライのアプリで購入前1カ月分を記録しておく。食事については、「食事の量を減らした」「間食を減らした」「アルコールを減らした」の3項目をそれぞれ○×△で、運動についても同様で「運動量を増やした」「歩行量を増やした」「生活活動量を増やした」をそれぞれ○×△で記入。さらに腹囲は少なくとも週1回測って記録する。これを薬剤師がチェックする仕組みだ。18カプセル(6日分)が2530円、90カプセル(30日分)が8800円。

Q 服用するとどれくらい効果があるのか?
A まずこの薬は、1日3回、食事中または食後1時間以内に1カプセル服用する。

「アライと偽薬に分けて24週間追跡して内臓脂肪面積と腹囲を主要評価項目として調べたところ、アライは内臓脂肪がマイナス13.50%、腹囲がマイナス2.51%で、偽薬はそれぞれマイナス5.45%、マイナス1.55%でした。どちらも統計的に有意な減少効果が確認されました。副次的な評価項目だった体重は、マイナス2.79%で、これも有意差が認められています。また、52週の長期投与試験で内臓脂肪と腹囲を分析すると、変化率はそれぞれマイナス21.52%、マイナス4.89%でした」

 半年の服用で3%近い体重減少は大きい。1年だと5〜6%のダイエットで、たとえば服用前に80キロだった人は1年で4〜5キロの減量ができることになる。これは見逃せないだろう。

Q 大きな効果をもたらすのは?
A 「食事で摂取された脂肪は、消化酵素のリパーゼが分解して吸収されます。アライの主成分であるオルリスタットは、この酵素の活性を阻害し、脂肪を便としてそのまま排泄させることで内臓脂肪の蓄積を防ぎ、減量効果が得られるのです」

 この薬で排泄される脂肪は、食事由来のうちの25〜30%だ。

■パンツはうっすらと油漏れが…

Q 副作用はどうなのか?
A 前述の長期投与試験では、油の漏れや便を伴うオナラが20%程度に認められた。偽薬ではそれぞれ3%、1%だから明らかに多い。このほか油性排泄物(6%)、脂肪便(5%)、切迫排便(4%)、便失禁(4%)といった具合だ。

 実は記者もこの薬を試した初日、食後のトイレに切羽詰まったことがあった。そのときは仕事帰りに油淋鶏とレバニラ、餃子をつまんで、シメに半ラーメンを食べた。食後に薬を飲むと、15分ほどで強い便意に襲われ、カニ歩きでトイレに急いでギリギリセーフ。排便後、ティッシュで尻を吹くと滑りがよく、油漏れが感じ取れ、パンツはうっすらとシミていた。

Q 副作用を軽くすることはできない?
A 「高脂肪食と低脂肪食では、高脂肪食の方が副作用が出やすいので、低脂肪食にするのが無難です。この薬は購入後も生活習慣の改善記録をつけてもらうため、服用している人はおのずと生活改善の変化に目が向きます。そのためどんな食事のときに副作用がつらく、どうすると軽くなるかを試行錯誤するようになるので、当初つらかった副作用も大体2週間ほどで落ち着く傾向です」

 この言葉通り、記者の経験で分かったのは、揚げ物は豚や鳥など種類を問わず、大体副作用がつらい。具の脂肪分に加えて衣にも油が含まれるためだろう。そこで、とんかつや唐揚げをしょうが焼きや焼き鳥に変えたら、副作用が軽くなった。さらに肉野菜炒めなら、見た目コッテリした中華系でも問題なく過ごすことができた。ただ、便意の切迫はなくなっても、ティッシュの滑りはいいから、脂肪分の排泄は進んでいるのだろう。

“オナラでトイレ”は重要

Q 薬局で服薬を始めるときは休日がいいと勧められたが…
A 「服用開始は、副作用との兼ね合いですぐにトイレを利用できる環境が無難なので自宅にいる休日をお勧めしています。副作用が落ち着く2週間程度は、下着に便漏れパッドやナプキンをつける、替えの下着を用意しておく、オナラが出そうなときや便意があるときは我慢せずすぐにトイレに行く、外出時はトイレの場所を把握しておく、といったこともお勧めです」

 “オナラでトイレ”は重要で、記者は服用当初、大丈夫だろうとプッとやった瞬間、「ヤバイ」と感じてトイレに駆け込んだことがあった。

Q 食事の前に服用してはダメか?
A この薬は日本に先駆けて100を超える国で承認、販売されている。海外では服用のタイミングを調べる試験も行われたという。

「海外では、食事前、食事中、食後1時間、同2時間、同3時間に分けて効果を調べる臨床試験も行われていてその結果有意差が認められたのは食事中と食後1時間でした。ですから、食事の前に服用しても、食後1時間を超えて服用しても、どちらも効果はありません」

Q 食事は1日2回。3回服用しなくてもいい?
A 「食事をしなかったときや脂肪分がほとんど含まれない食事のときは、服用を控えてください」

Q 併用するとよくない薬やサプリは?
A 併用に注意するサプリは特にない。医薬品は、併用できない薬が3つある。免疫抑制剤のシクロスポリン製剤は併用で効果が減弱する可能性があり、抗HIV薬はHIVウイルスの増加が報告されている。さらに血液を固まりにくくする抗凝固薬は併用で薬効に影響がでる恐れがあるという。この中で多くの人に使われ注意が必要なのは抗凝固薬だろう。

Q 夕食時にビールを飲んだときは?
A 「この薬はアルコールの影響を受けにくいのですが、アルコールそのものに下痢を起こしやすくする性質があります。併用禁忌ではありませんが、飲み過ぎもよくありません」

Q ビタミンA、D、Eなどを補うのはなぜ?
A ビタミンA、D、E、Kは脂溶性でこの薬によって脂肪分の吸収が阻害されると、これらのビタミンの吸収も阻害される恐れがある。そのため継続購入の際は、脂溶性ビタミンの吸収阻害に伴う症状がチェックされる。それが確認される人は、これらの成分を食事やサプリで補うのが無難だという。

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 ほかのダイエット薬には中枢神経に作用するものもあるが、この薬は中枢系には作用せず、安全性も高い。“トイレ問題”をクリアできれば、利用価値は十分あるだろう。