<ボクシング:IBF世界バンタム級タイトルマッチ12回戦>◇4日◇エディオンアリーナ大阪◇観衆3200人

挑戦者の同級1位西田凌佑(27=六島)が「圧倒的不利」の前評判を覆して新王者となった。王者エマヌエル・ロドリゲス(31=プエルトリコ)の意表を突くファイタースタイルで4回に左ボディーでダウンを奪取。その後は猛反撃に耐えて判定3−0でベルトをつかんだ。9戦目の世界王者は、元WBA世界ライトフライ級王者の具志堅用高らに並ぶ8位のスピード記録。バンタム級は日本選手が3団体目を制した。

◇  ◇  ◇

新王者は真っ先に妻の名を叫んだ。「沙捺(さな)! とったぞ!!」。夫人は近大で全日本女子バンタム級を3連覇したボクサー。減量に苦しむ西田の食を中心に、あらゆる面で支えてきてくれた。「リングに上がって妻の顔を見て覚悟を決めました」。その結果がボコボコに腫れた顔。夫人は「めっちゃかっこよかったです」と涙ぐんだ。

「浪速のメイウェザー」「アンタッチャブル」。足を使って被弾しないのが西田のボクシングだったが、それを捨て去った。「リスクはない。どうなってもいいやと。勝ちにいった」。挑戦者らしくベルトを奪いにいった。「こればかり練習してきた」という左ボディーを執拗(しつよう)に打ち込み、4回にはダウンを奪った。その後の王者の猛反撃も耐え抜いた。

「何でもない自分を世界王者に育ててくれた武市トレーナーに感謝したい」

高校時代に国体で優勝も、近大では目立った実績を残せず、卒業後はプロボクサーの道をあきらめ大手パンメーカーに就職した。希望は「おいしいパンを作りたい」だったが、配属は系列の小売店。商品を陳列する日々にもやもやしている時、武市氏に勧誘された。

「たたけば伸びると思った」。見初めた原石をスパルタで磨いた。西田の武器は中学時代に陸上の長距離選手として培った足腰の強さ。「追い込みましたね。気持ちは(競馬の)調教師」。スパーリングなど12ラウンドのジムメニューをこなした後、8度の急勾配&時速20キロに設定したトレッドミルを3分×8回。「ミホノブルボンですよ」。徹底した坂路調教で鍛え上げられた皐月賞、ダービーの2冠馬の名を挙げて例えた。

武市氏が授けた戦術は「ブーイングされても、おもろない試合でも着実にポイントを取る」。しかしこの日の西田は、被弾しても前に出続ける「おもろい試合」で戴冠した。「世界王者の実感はない。夢みたい」。何者でもなかった男が、世界の頂に立った。【実藤健一】

◆防衛に失敗したロドリゲス 「試合には満足している。今夜は彼が強かった。それだけです。(西田の戦い方は)想定外。距離をとってくると思った。(ダウンを喫した)パンチは効いたがその後は立て直せた」

○…西田がIBF王者となったことで、バンタム級は世界主要4団体のうち3団体で日本選手が王座に就いた。WBA王者は井上拓真(大橋)、WBC王者は中谷潤人(M・T)が保持。6日には、東京ドームで武居由樹がWBO同級王者モロニーに挑戦する。井上尚弥が23年1月にすべて返上した4団体王座だったが、これで日本勢が独占する可能性も出てきた。

◆西田凌佑(にしだ・りょうすけ) 1996年(平8)8月7日、奈良県香芝市生まれ。中学時代は陸上部で長距離専門。王寺工からボクシングをはじめ、国体で優勝。近大に進み、ボクシング部に所属も卒業後は大手パンメーカーに就職。六島ジム武市トレーナーの熱烈勧誘もあり、同ジムに入門。19年10月プロデビュー。21年4月に元世界王者比嘉大吾とのWBOアジアパシフィック・バンタム級タイトル戦で金星。同タイトルを3回防衛。身長170センチの左ボクサー。戦績は9勝(1KO)無敗。昨年3月、全日本女子選手権バンタム級3連覇の元ボクサーで大学の同級生、沙捺(さな)夫人と結婚。今年3月27日に長女誕生。