アメリカの政策研究機関「戦争研究所」は16日、ウクライナへの軍事支援の遅れはロシアの勝利につながり、近い将来にバルト三国が攻撃された場合、NATO(=北大西洋条約機構)が防衛することは「克服できない課題」となるとする分析を公表しました。

戦争研究所は16日、「ウクライナでアメリカが避けられない選択とロシア勝利を許すことの代償」とする分析を公表しました。

「ウクライナへの追加軍事支援をめぐる議論は『アメリカの行動にかかわらず、こう着状態が続く』との仮定に、いくらか基づいているが、これは誤りである」と指摘して、ロシア軍が戦場で優位に立っていると分析しています。

とりわけ、ウクライナ側の防空兵器や砲弾の不足によって、ロシア軍は空からウクライナの防衛拠点に対する攻撃を強め、さらに装甲車両の部隊などを大きな損失なく運用できているとしています。

その上で、こうした事態は2022年の侵攻開始以来「初めてのこと」だと指摘しています。

戦争研究所の分析では、ロシア軍は今年だけですでに360平方キロメートルの土地を新たに掌握したということです。

そして、軍事支援の停滞が続けば、今年から来年にかけてロシア軍を劇的に有利な状況に導き、ロシアの最終的な勝利につながるとして、「アメリカの政策立案者は、その現実を自分ごととして認識しなければならない」と警告しています。

ウクライナが敗北すれば、現代の機械化された戦争の経験が浅いNATO軍兵士が、戦いで鍛えられたロシア軍と対峙することになり、ロシアが近い将来にNATO加盟国へ攻撃するリスクは劇的に高まると分析。特にバルト三国を防衛することは「ほとんど克服できない課題になる」としています。

バルト三国と他のNATO加盟国との「接点」となるリトアニア・ポーランド国境は「スバウキ回廊」と呼ばれ、両端でロシアの飛び地・カリーニングラードとロシアの同盟国であるベラルーシに接しています。

戦争研究所の侵攻シナリオでは、ロシアはNATOの援軍を防ぐため、この「スバウキ回廊」の遮断を優先すると想定しています。

NATOに事前に予測されたり、対応の猶予を与えないためにも、ロシアはバルト三国付近に配置する部隊を中心に、迅速な展開と侵攻を行うことを目指すとみられますが、これはウクライナが敗北した時のみ可能だということです。

逆に、欧米の軍事支援でウクライナが独立を維持していれば、ロシアにとってバルト三国への攻撃の難度もリスクも高まると分析しています。

その理由として、ウクライナ軍はロシアがバルト三国を攻撃したら、NATO側に立って戦うと考えられるため、ロシア軍はウクライナ国境や占領地に部隊を残さなければならないことを挙げています。そのため、バルト三国への作戦には遠方から部隊を移動させるなど、大規模で時間のかかる準備が必要になり、NATOはこの動きを覚知して対応する猶予ができることになります。

こうしたことを考慮する必要が出るため、ロシア軍の作戦計画に「劇的な影響」を与え、さらなる侵攻を抑止する可能性があるということです。

戦争研究所はこれまでも、ウクライナを支援するコストは、ウクライナが敗北した際に欧米が直面する軍事的・経済的コストに比べて、はるかに少ないと指摘してきました。