近年、休部や統合が相次ぐ社会人野球。企業が野球部を持つ意味はどこにあるのか? 50〜60人の社員が応援団になり、熱心に硬式野球部を後押しするというJR西日本に聞いた。【全2回の後編/前編へ】

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「ドラ1投手と広島駅で働いていた」

 JR西日本野球部からは、ドラフトで指名されてプロに進む選手も多い。パ・リーグ3連覇を成し遂げたオリックス・バファローズの主砲・杉本裕太郎もそうだし、2023年のドラフト会議ではエースの石黒佑弥が阪神タイガースから5位で指名された。応援していた選手たちがプロの世界に飛び込むことを、野球部の応援団員たちはどう見ているのだろうか。

「そりゃあうれしいですよ。ずっと見ていた選手が自分の会社の名前でドラフトにかかるんですから。いままではあまり見ていなくても、急に意識してオリックス戦を追いかけたりします。杉本、打ってるかな?って」(山本秀祐さん/応援団のマイクパフォーマンス担当)

「車掌の前に広島駅にいたとき、2019年にソフトバンクに1位指名された佐藤直樹さんと一緒に働いていたんです。一緒に並んで改札に立っていた仲間が、プロ野球に行く。応援団としては野球を頑張っている姿、駅の仲間としては仕事を頑張っている姿を見ていたわけですから、自分の仕事の活力にもなります」(湯原拓也さん/応援団のエール交換担当)

「もっとチアリーダーを増やしたい」

 応援団も野球部も、職場に出れば同じJR西日本の一社員。ふだんはともに仕事に取り組む。お互いのことをよく知る人たち同士が、たまたま野球の試合では応援する側とされる側になるだけだ。これは別に応援団の社員に限ったことではなく、あちこちで野球部員が働いている中国統括本部では、自然と野球部を応援する機運が生まれてくる。

「身内を応援するような気持ちですよね。特に、ぼくは新入社員のアドバイザーとして野手の戸田航史、職場ではピッチャーの辰己晴野の面倒を見ている。だからプロ野球を応援するのとはまったく違う。自分の息子が出ているみたいな気分です」(山本さん)

 野球部のメンバーと接する機会の少ない近畿統括本部の熊谷侑華さん(応援団のチアリーダー)も言う。

「選手と応援団が手を振り合ったりしている姿を見ると、家族のような一体感があるなあと感じます。やっぱり、社名を背負って上を目指していくというのは普段の仕事とは違う感覚だし、それを笑顔で応援することができる。野球部が頑張ってくれるから、私もチアで踊ることができるわけですし」(熊谷さん)

 熊谷さんにはちょっとした野望もある。2023年の都市対抗では、JR西日本からチアに参加したのは熊谷さんただひとり。ただ、社内にはチアを経験したことのある社員ももちろんいる。大学ではやっていなくても高校ではチア部だった、また経験はなくてもやってみたいという人も。

「そういう方たちも一緒になって応援できるようになるとうれしいですよね。経験者は結構いるって聞いているんですよ。だから声をかけていって、輪を広げていきたいなと思っています」(熊谷さん)

 JR西日本のエリアは、近畿・中国を中心に北陸にまで広がる。それぞれの仕事もさまざまだ。野球部がなければ、山本さんと湯原さんと熊谷さんが顔を合わせることもなかったかもしれない。

「応援に参加すれば、そこで初めて会った別部署の人と仲良くなって、試合後に飲みに行ったりすることもありますからね。そういうのを通じて、同じ会社でも知らなかった他の仕事のことを知れたり、会社としてのつながりが強くなっていく。そういう側面もあるんじゃないかと思います」(湯原さん)

「野球部に興味がない人もいますよ(笑)」

 JR西日本の主たる業務である鉄道事業。運転士や車掌、駅員にはじまり、線路や車両などを整備する人まで実にたくさんの人たちが関わって、はじめて1本の列車が安全に走ることができる。ただ、それぞれまったく違う部署で仕事をしているので、日常的に関わることはほとんどないといっていい。それが、野球部の応援の時だけは一堂に会する。それだけでも、実は列車の安全運行にも通じうる、貴重な機会になっているのだ。

「野球部に興味がない人もいますよ(笑)。ただ、それでも自分の会社の野球部が全国大会に出るとか、選手がドラフト指名されるとか、そういうニュースはみんな見ているし、話題になっていることを喜んでいる雰囲気はあると思います。『負けちゃったねえ』みたいな世間話をしているのも聞きますからね」(熊谷さん)

 全国大会に出場すれば、関連会社を含めて全エリアから人が集まってくる。昔の同僚と久々の再会、などということも多い。スタンドは、さながら同窓会のようになっているという。いつもは自分のことだけに集中して仕事をしていても、こういう機会に会社のことを改めて意識する。野球部は、愛社精神から応援するものではない。むしろ、野球部が会社の結束をもたらしてくれる、かすがい、なのだろう。

<前編から続く>

文=鼠入昌史

photograph by JIJI PRESS