2年連続最下位から勝負の3年目を迎える中日・立浪和義監督。どうすれば逆風を追い風に変えられるのか――PL学園時代のエピソードやプロ野球関係者の証言、監督2年間の検証を通して、2024年シーズンの光明を見出してゆく。〈#4「理想と現実」/全8回の4回目〉

現役生活「22年でAクラス17回」

 スカウトとして立浪和義をPL学園に導いた井元俊秀は、1987年のドラフト会議を前に、当時の中日ドラゴンズ監督である星野仙一に訊ねた。なぜ立浪が欲しいのか――。すると星野はこう答えたという。

「立浪が入ってくれたら、向こう10年はショートの選手を獲らなくていいから」

 星野時代、そして落合博満監督時代と、立浪は3度のリーグ優勝に貢献し、日本一も経験した。通算2480本安打を放った22年の現役生活で、Aクラスが17シーズン、最下位はわずか2回と中日は高次安定した成績を収めてきた。

 つまり、立浪は高校からプロ野球を引退するまで、いわゆる弱小のチームで過ごした経験がない。常勝軍団に身を置き続けた立浪にとって、勝てないチームの再建は難しいミッションなのか。西武の黄金期に投手コーチを務め、その後は日本ハム、横浜、中日と渡り歩いた森繁和が再建過程のチームを指導する難しさを指摘する。

森繁和「時に非情になる必要はある」

「私も黄金期の西武で投手コーチをしたあと、日本ハムや横浜に行くと、どうしても西武の投手陣と比べてしまっていた。西武と同じことをやっても選手はついてこない。その点、中日という球団は、もともと練習するチームだった。落合監督は監督に就任した2003年オフ、新シーズンに向けた補強をほとんどせず、現有戦力で戦うと公言した。その上で結果が残せなければ来年クビにすると選手の危機感を煽り、実際翌年に優勝できたんだ。そして結果を残せなかった20人近くの選手を戦力外にした。チームを刷新する上で、時に非情になる必要があるのは理解できます」

野村弘樹「あれだけの大打者だから…」

 PLの同期生である野村弘樹はこう見る。

「やはりタツが監督として苦しんでいるのは攻撃面でしょう。プロ野球であれほどの大打者だったわけですから、率いる選手たちのことを“どうしてできないんだ”と歯がゆく思うのは仕方ないかもしれない」

 立浪の就任以来、野村の春季キャンプ視察は中日からスタートしている。そして必ず高校、そしてプロと苦楽を共にしてきた同級生の「タツ」とふたりだけの時間を作り、こう訊ねるのだ。

「何位や?」

 毎シーズン、開幕前に評論家として全球団の予想順位を公表しなければならない。再建過程にある中日だけは、監督である立浪の意見をそのまま自身の予想順位としている。

「1年目の予想順位は2位でした。1年目のキャンプで、タツが期待の若手として真っ先に名前を挙げたのが高卒3年目となる岡林(勇希)だった。『あいつはやるぞ』と。2022年シーズンの岡林は最多安打(161本)で、23年もそのタイトルに手が届きそうだった(163本)。やはり、選手の能力を見極める眼力はタツに備わっていると思う。(2018年ドラフト1位の)根尾(昂)にしても、(2021年ドラフト2位の外野手である)鵜飼航丞にしても、同じようにタツは期待していると思います」

根尾昂らの育成「狭間でタツも戦っている」

 名前の挙がった根尾は、現役時代に遊撃手だった立浪のいわば後継者として入団した。だが、入団1年目の根尾の守備を見た野村の目にはショートが適正ポジションとは思えなかった。

「2019年のフレッシュオールスターで、根尾と広島の小園(海斗)が同時にショートでノックを受けていた。ふたりを見比べた時に、守備範囲やスローイングの面で、根尾にショートは無理ではないかと感じたんです。ピッチャーだった自分ですらそう思うんだから、ショートが本職だったタツも感じていたのではないでしょうか。内外野できるという触れ込みでドラフト1位入団したわけですが、外野の守備にも不安がある。マウンドに上がれば、150キロを超えるストレートを投げるんだから、根尾には投手しかないと結論づけたのかもしれない。根尾が1年でも長くプロで活躍するための配置転換だったと思いますし、しっかり話し合った上での結論だと思います」

 ようやく投手らしくなってきた――根尾に対する評価を立浪が口にしたのは2023年の春先だ。

「耕して、肥料を撒いて、種を植えて、水を撒いて……ようやく芽が出てきた選手もいれば、なかなか出てこない選手もいる。その狭間でタツも戦っていますよね」

聞いた本音「現場と外はちゃうんや」

 2022年シーズンに大きな飛躍を遂げたのが、2020年にドラフト1位で入団した髙橋宏斗だ。開幕からローテーションの一角を担い、7月の広島戦ではノーヒットノーラン寸前の快投を見せた。立浪は登板間隔や球数に気を遣いながらこの若手右腕を起用していたが、打線の援護に恵まれないこともあって6勝7敗の成績に終わった。その後、WBCに臨む侍ジャパンの一員に選出されたのは誰もが知るところだろう。

「オールスターの前にタツと話をした時、『もっと投げさせたいけど、投げさせるわけにはいかんのや』と愚痴っていましたね。評論家の頃は、ロッテの佐々木朗希にしても、ヤクルトの奥川恭伸にしても、『もっと投げさせた方がいい』というのがタツと僕の考えだった。だけど、いざ監督になると、『壊すわけにはいかんのや。現場と外はちゃうんや』と」

 22年シーズンは66勝75敗2分けの最下位に終わった。翌2023年の春季キャンプで、野村が再び立浪に順位予想を聞くと、立浪は言った。

「3位にはならなあかん」

 1年目を終え、再建にはまだまだ時間がかかると思ったからこそ、前年の2位から目標を下方修正したのではないか。

 だが、迎えた2年目も開幕前から誤算が生じるのである――。

〈つづく〉

文=柳川悠二

photograph by Nanae Suzuki