「強い」を超えて、「強すぎる」。

 春高バレーが2011年に3月から1月開催に移行して以降、男子では星城(愛知)、東福岡(福岡)に続いて3校目となる連覇を成し遂げた駿台学園(東京)の力はずば抜けていた。

 証言するのは、もはや対峙した高校生だけではない。春高バレーに先立ち、昨年12月に開催された天皇杯で対戦したウルフドッグス名古屋の日本代表リベロ・小川智大も絶賛する。

「個の力も高いし、組織力もあって、ミスが少ない。マジで高校生のレベルじゃないし、めちゃくちゃレベルが高いです」

 日本代表選手にも「レベルが高い」と言わしめる。何がそんなにすごいのか。試合を見れば一目瞭然だ。

まるで日本代表のバレーボールのよう

 まず、ボールがコートに落ちない。相手の強打や軟打に対してもブロックで塞ぐべきコースを封じ、ブロックを抜けたボールはアウトサイドヒッターの主将・亀岡聖成(3年)やリベロの谷本悦司(2年)がレシーブで“拾う”のではなく“つなぐ”。上がって終わり、ではなく、攻撃に展開できるボールをつなぎ、多彩な攻撃陣がやみくもに打つだけでなく、状況を見極めて無理に勝負しないほうがいいと判断すれば、リバウンドを取ってから攻撃を展開する。

 二段トスの精度や、レシーブの質。細かな一本一本の完成度も高く、まるで男子バレー日本代表を彷彿させる戦いぶりで相手を圧倒した。すべてのチームが「打倒・駿台」を掲げて臨んだ春高バレーで、インターハイに続く二冠を達成するという、まさに“絶対王者”と呼ぶにふさわしい戦いぶりを見せた。

 何よりすごいのは、駿台学園を率いる梅川大介監督が、その「強さ」を自任し、あえて隠さず「さらけ出してきた」と公言することだ。

「大学生とのエキシビションマッチや天皇杯。出れば出るだけ情報は出回ります。でもあえて隠すことなく、“うちはこれだけできますよ、どう太刀打ちしますか”とすべて見せれば当然相手は対応します。選手はプレッシャーもあるし大変だったと思いますが、監督としては手の内をさらけ出して、策を練り合って戦うほうが楽しいし、バレーボール自体のレベルも高くなる。そのほうが面白い、と思ったんです」

同じ高校生がお手本に「駿台ならこうする」

 強敵を倒すために何をすべきか。ライバルたちはこぞって、駿台学園の戦い方を真似て取り入れていた。その筆頭は、駿台学園が軸となる東京代表を下し、国体を制した山口県代表の高川学園だ。国体優勝は春高のシードに反映されないため、今大会で両者は3回戦で対戦し、フルセットの末に敗れたが、エースの門田凌也(3年)はこう言った。

「もともと僕たちはリバウンドを取るチームじゃなかったけれど、駿台を見本にして、リバウンドを取ってから切り返すようにしました。練習中も『駿台だったらこうしてくる』とよく名前を出していたし、ブロックとレシーブ、守備の連携もお手本にしていました」

 ライバルであるだけでなく、同じ高校生からお手本と言われる。しかし、そこから留まることなくアップデートを遂げていった点も、駿台学園の凄みだった。

 個々の能力は高いが、絶対的なエースはいない。より効率的に点を獲るべく、それぞれが役割を果たすのが駿台学園の戦い方であり、特に高川学園も「手本にした」というリバウンドからの攻撃は高校レベルでは群を抜いていた。

 実は格上のVリーグのチームと対戦した天皇杯も、どこまで自分たちの技が通用するのかをチャレンジする機会だった、とオポジットの三宅雄大(3年)が明かす。

「レフトでリバウンドを取ってもう一度レフト、ではなく、ブロッカーを散らすためにミドルやライトから攻撃しよう、と取り組んでいたんです。梅川先生からは『Vリーグに通用する攻撃なら、春高でも絶対決まる』と言われたので、うまくいかないことのほうが多かったですけど、自信になったところもありました」

 その成果とばかりに、高校生なら誰もが憧れる夢の舞台でもいつも通り、やってきたことを実践した。春高決勝では福井工大福井のエース堤凰惺(3年)の強打を亀岡、谷本の堅守でつなぎ、攻撃陣がバランスよく決める。試合を決める最後の一打も、「Aクイックに上げろ」と言った梅川監督の指示でもなく、主将の亀岡でもなく、セッター三宅綜大(2年)が選択したのは兄の三宅雄大だった。「あそこで自分に来るとは思わなかった」と兄も驚くセレクトで連覇を達成。まさに強くて面白い“絶対王者”たる姿をこれ以上ないほどに見せつけた。

「日本の強化につながる、とは限らない」

 全体のレベルも引き上げた選手たちがどんな未来をつくるのか。歴代春高優勝チームの“エース”と称される選手と同様、将来への期待が高まるのも必然だが、「駿台が勝ったことがイコール日本代表、日本の強化につながる、とは限らない」と言うのは、他ならぬ、梅川監督だ。

「現状を見れば、うちのアウトサイドに将来日本代表で活躍できるだろう、という選手は残念ながらいません。だから、ブロックアウトやリバウンドの技術、いつ、どのタイミングで選択するかという状況判断能力をつけないと、先にはつながらない。

 もちろん選手は勝ちたいですから、勝つために最善の策を取るし、そのために僕らは手助けします。でもそこがすべてではなく、彼らには先がある。日本代表には入れないかもしれないけれど、ミスが少ない、獲るべき時に点を獲れる選手になれば、Vリーグで活躍できる可能性は増えるかもしれない。そのために必要な概念、技術を得るために普段からなぜこの練習をするのか、意図を理解させて、選手たちがサボらずに、実践しているだけなんです」

 そうは言ってもバレーがうまく、能力が高い選手が揃っている。しかも恵まれた環境だから勝てるのだろう、と揶揄する声も少なくないが、春高バレーで見せた精度の高いプレーを見れば、どれだけ練習を重ねてきたかは明らかだ。

 最高の場所で、最高の姿を見せつけた。主将の亀岡も声を弾ませた。

「今の高校バレーの勝ち方、考え方を変えたチームだと思っているんです。この春高も自分たちと同じような戦い方をするチームが増えると思っていたんですけど、僕らが第一人者というか、最初に始めたチームだったので、リバウンドの精度や細かいプレーが他のチームと違うと見せつけたかった。それができて本当に嬉しいし、自信になりました」

 日本代表に直結する選手はいなくても、日本代表を彷彿させる戦いぶりで、世代を代表するエースは擁さずとも、世代が憧れ、手本とするほどの強さを見せつける。

 高校バレーと侮るなかれ。

 バレーボールの面白さを証明し、立つべくして“最強”駿台学園が頂点に立った。

文=田中夕子

photograph by Naoki Nishimura/AFLO SPORT