今年の“箱根戦士”たちは卒業後、何を目標に走っていくのだろうか。本記事では箱根駅伝総合6位以下の大学の4年生の進路を見ていく。(全2回の第2回/第1回も配信中)

法政大で箱根好走の選手たちは引退を決断

 箱根駅伝で総合6位となった法政大。エースの松永伶は、JR東日本に入社予定だ。3年時の学生ハーフ3位などロードで強さを見せており、MGCを駆けた其田健也(駒澤大卒)や横田俊吾(青学大卒)らがいるチームは松永にとっては好環境だ。

 主将で10区14位の宗像直輝、9区6位の副将の稲毛崇斗(たかと)はともに大学で陸上を終え、5区8位と好走し、3度箱根を走った細迫海気も惜しまれながら現役を引退する。

早稲田大の選手たちの進路は…?

 箱根駅伝総合7位の早稲田大は、3区7位の辻文哉が安川電機に入社予定だ。レースで練習通りに100%の力を発揮できるのが持ち味。チームは選手の自主性に任せた練習スタイルなので、大学時代からの継続でさらに成長、飛躍が期待できそうだ。

 6区20位の栁本匡哉は、地元・愛知県の愛三工業に入社予定だ。スピードが持ち味で1500mが主戦場だが、トラックでよりスピードを磨きつつ、ニューイヤー駅伝で8位以内というチーム目標に貢献していくことになる。

 9区11位で主将の菖蒲敦司はKaoに入社する。3000m障害(3障)で関東インカレ3連覇、ワールドユニバーシティゲームズで銅メダルに輝くなど、実績は十分。三浦龍司(順大)とともに3障で世界に挑戦していくことになる。

箱根好走組が集まるロジスティード

 前回の箱根駅伝で6区3位と快走し、総合6位に貢献した北村光はロジスティードに入社予定だ。チームは東日本実業団駅伝3位、ニューイヤー駅伝は40位に終わったが、細谷翔馬(帝京大卒)、山谷昌也(東京国際大卒)、富田峻平(明大卒)、四釜峻佑(順大卒)、藤本珠輝(日体大卒)ら箱根を沸かせた選手が多数在籍している。彼らとしのぎを削り、スピードを高めていくなかで、どこまで伸びていくのか楽しみだ。

 箱根駅伝にエントリーも出走機会のなかった佐藤航希は旭化成に入社予定だ。地元・宮崎でのスタートになり、よく知る環境そしてレベルの高いチームで走力が磨かれていくだろう。大学3年の時、延岡西日本マラソンで村山謙太(旭化成)らを抑えて優勝しており、今後はマラソンで日本のトップを目指していくことになる。

創価大&帝京大のエースは…?

 総合8位の創価大は、1区2位の桑田大輔が中国電力に入社予定だ。1区志願で結果を出し、10000m28分11秒08は部内で日本人トップのスピードランナー。膝の故障などで苦しんだ時期もあったが、中国電力で北京五輪マラソン代表だった佐藤敦之ヘッドコーチの下で足を磨くことになる。

 総合9位の帝京大で1区7位の西脇翔太はJR東日本に入社予定。責任感の強い主将としてチームを牽引した経験を活かして、若いながらもチームをまとめ、自らもトラックで結果を出していくことになる。

 4区9位で鳥栖工業出身の末次海斗は、地元・佐賀の戸上電機製作所に入社予定。ニューイヤー駅伝出場を狙うチームで健脚を示してくれるだろう。

 エースの小野隆一朗は、競技継続予定で来年も帝京大に身を置く。

大東文化大のエースはHondaへ

 シード権を獲得した大東文化大のエースで2区12位の久保田徹は、Hondaに入社予定だ。終盤まで粘ってラストスパートで勝負する自分のスタイルで10000mの大学記録を更新。いずれマラソンに挑戦するが、当面はトラックで走力を磨き、ニューイヤー駅伝でチームの優勝に貢献していく。聖望学園高の同期の青柿響(駒澤大)は富士通に入社予定で、名門チーム同士での競い合いが楽しみだ。

 5区4位の菊地駿介はNTNに入社予定。2年の夏は結果が出ず、精神的に追い詰められ、退部も考えたが、3年時、仙台育英時代の恩師・真名子圭(きよし)の監督就任により復調し、輝きを取り戻した。今後は得意のロードを磨き、マラソンで世界大会に出場するのが目標だ。

 6区4位の佐竹勇樹は、トーエネックに入社予定だ。3年時関東インカレ3000m障害で優勝するなど、トラックはもちろんロードでも全日本1区5位と好走し、そのスピードをレースで遺憾なく発揮してきた。今後も3000m障害などトラックに活躍の場を求め、駅伝ではチームを支える存在になっていくだろう。

吉居大和と同じく中央大→トヨタへと進むランナー

 16人中、14人が風邪などで倒れ、総合13位に沈んだ中央大。エースで2区15位だった吉居大和は、トヨタ自動車に入社予定だ。愛知県田原市出身で両親がかつて在籍したトヨタで競技を続けることは小さい頃からの夢だった。前回大会2区で競り合った田澤廉(駒澤大卒)、同期入社の鈴木芽吹(駒澤大)らと刺激し合い、トラックと並行してマラソンで世界を目指していく。ニューイヤー駅伝では来年、2連覇を目指し、主力として出走していくことになるだろう。

 4区3位とひとり気を吐いた主将の湯浅仁も吉居と同じトヨタ自動車への入社を決めた。将来、マラソンで活躍することを大学時代から心に決め、2年時は東京マラソン、3年時は大阪マラソン(2時間15分12秒)を走った。チームでは、トラックとの両輪になるが、東京五輪マラソン男子代表の服部勇馬(東洋大卒)やMGC出場の西山雄介(駒澤大卒)らがおり、マラソンを走る上でのノウハウを学べるのは大きい。

中央大「100回大会」世代は進路先に有名企業ズラリ

 副将で3区20位、昨年3区区間賞の中野翔太は、Hondaに入社予定だ。吉居や湯浅とライバルチームになるが、主戦場はトラックになる。5000m13分24秒11は、吉居より1秒76早い。日本選手権での入賞を目指しており、その先はマラソンで勝負することになる。

 2022年の箱根駅伝7区を走った居田優太は、大阪ガスに入社予定。関西実業団駅伝での5位以内、ニューイヤー駅伝出場を目指し、大阪で練習を積む。國學院久我山時代にキャプテンとして都大路に出場した伊東大翔は愛三工業に入社を決めた。2年時にインカレ1500m2位となった山田俊輝はスズキに入社予定。ロンドン五輪マラソン男子代表の藤原新ヘッドコーチのもとでマラソンに取り組むことになる。

順天堂大・三浦龍司はSUBARUで五輪を目指す

 箱根駅伝総合17位でシード権を失った順天堂大は、エースの三浦龍司が卒業しSUBARUに入社予定だ。パリ五輪、東京世界陸上、ロス五輪へとつづく道程で順大での練習を認めるなど一番競技(3000m障害)に集中しやすい環境を申し出てくれたのがSUBARUだった。洛南高―順大出身のマネージャーの曽波祐我のサポートや順大出身のコーチの本川一美の存在もプラスに作用している。チームは、活動拠点である群馬県太田市を駆けるニューイヤー駅伝を重視している。駅伝がやや苦手という三浦だが、出走すれば今年のチーム目標だった表彰台の3位以内を実現する走りを見せてくれるだろう。

 箱根5区18位の石井一希は、ヤクルトに入社予定だ。2年時の箱根は4区2位でチームの総合2位に貢献したが、最近は駅伝では結果が出ず、伸び悩んだ。もともとスタミナがあるので、ヤクルトでスピードを磨けば、八千代松陰高時代のチームメイトの佐藤一世(青学大→SGホールディングス入社予定)とともに陸上界を盛り上げてくれるだろう。

 7区22位の内田征冶(まさや)は、ロジスティードに入社予定、9区17位の主将の藤原優希は、公務員としてロードを走り続ける。チームで人望が厚かった10区21位の斎藤舜太は大学で陸上を引退する。

東海大「悲運のエース」が身を置くのは…

 箱根総合11位、東海大のエース石原翔太郎は、SGホールディングスに入社予定。最後の箱根は足底を痛めたなかで苦しい走りになったが、まずはコンディションを整えてトラックシーズンに臨むことになる。ポテンシャルは高いのでこれから吉居や鈴木ら同世代と競い合い、どんなランナーに成長していくのか、楽しみだ。

 箱根では総合14位となった立教大のエースで、10区3位と好走した関口絢太(けんた)もSGホールディングスに入社予定。181cmのすらりとした身体でのダイナミックな走りは伸び代しか感じられない。自治の立教から自主性を重んじるSGホールディングスへ、マイペースを貫ける環境でスピードを磨いていく。

 4区10位の中山凜斗は、西鉄に入社予定だ。熊本県の九州学院出身で、地元・九州エリアの福岡を拠点に陸上競技をつづけていく。ロードが得意なので、駅伝では大きな戦力になり、個人ではマラソンに挑戦する予定だ。設楽啓太、悠太兄弟(いずれも東洋大卒)や久保和馬(山梨学大卒)から学び、大成できるか。

総合順位では苦戦、明治大は…

 箱根駅伝総合20位の明大では、2区23位の児玉真輝がGMOインターネットグループに入社予定だ。最後の箱根駅伝は力を発揮できなかったがスピードとタフさを持つ選手。自主性重視の社会人の環境に対応していければ、夏以降、結果が出てくるだろう。

 今回は3区を走り11位、前回は7区区間賞の杉彩文海(さふみ)は、三菱重工に入社予定。「メンタルが強く、体が頑丈」と山本豪監督から評された杉は、ロードでの安定感がピカイチだ。マラソンで世界を狙う杉にとって井上大仁(山梨学大卒)、山下一貴(駒澤大卒)が所属する三菱重工は最適のチーム。迫力のある走りで、どんなマラソンをみせてくれるのか、非常に楽しみだ。

東農大のダブルエースは?

 10年ぶりの箱根駅伝出場を果たした東農大(総合22位)のダブルエースで、1区11位の高槻芳照(よしてる)は富士通に入社予定。大学でスピードに加え、スタミナで持っていける選手に成長。富士通は塩尻和也(順大卒)、鈴木健吾(神大卒)らトラック、マラソンに強い選手が多く、人的環境としては最高で、大学で伸びた高槻ならさらなる成長が見込める。ニューイヤー駅伝のメンバー争いは激しいが、1年目から狙っていけるはずだ。

 ダブルエースのもうひとり、2区7位の並木寧音(ねお)はSUBARUに入社予定だ。大学で指導を受けた小指徹監督が以前、指揮していたSUBARUで足を磨き、マラソンで世界を目指す。ニューイヤー駅伝では三浦龍司(順大)、山本唯翔(城西大)と共闘し、目標の3位以内を目指すことになり、今季のSUBARUの駅伝はかなり強い布陣となる。

 春のトラックシーズン、大学のユニフォームから実業団のユニフォームに衣替えして、レースに立つ。フレッシュな彼らがどんな走りを見せてくれるのか。ワクワク感が止まらない。

<「箱根トップ5大学」編と合わせてお読みください>

文=佐藤俊

photograph by JMPA