この春、全国の有力な高校3年生ランナーは、箱根駅伝出走や世界に挑戦する夢を抱いて関東の各大学に入学する。今年の高校3年生は、5000m13分台が25名(日本人)もおり、非常にレベルが高い。高校生の評価基準となる5000mのタイムのベスト3でいうと、今季の日本人1位が折田壮太(須磨学園・13分28秒78)、2位が飯田翔大(かいと)(出水中央・13分34秒20)、3位が山口竣平(佐久長聖・13分34秒59)だ。彼らを含め、インターハイや都大路を始め、各地のレースを駆けた選手は、どの大学に入学し、自分の夢を実現していくのだろうか。(全3回の第1回/駒澤大など強豪校編は第2回へ/中大・順大など名門校編は第3回で配信中)

すでに青学大記録を超える逸材が入学

 高校生ナンバー1ランナーの折田は、2年ぶりに箱根駅伝優勝を果たした青学大に進学予定だ。インターハイ5000m総合5位で日本人トップ、国民体育大会5000m優勝、昨年12月の都大路では並みいる強力なランナーを尻目に快走し、1区区間賞で須磨学園の総合4位に貢献した。ストライドが大きく、ムダの無いフォームでラクに走っているのが特徴。5000m13分28秒78は高校歴代2位の記録で、青学大記録(13分34秒88・近藤幸太郎)をすでに超えている。「トラックだけではなく、箱根駅伝でも活躍したい」と走る意欲に満ちており、即戦力として1年時に2区を走ったOBの岸本大紀(GMOインターネットグループ)のような活躍が期待できそうだ。

 折田につづき、ナンバー2の飯田も青学大だ。飯田は、昨年11月に高校歴代4位の13分34秒20を出した。ラストスパートが持ち味で、ダイナミックな走りからは伸び代しか感じられない。トラックでの強さが目立つので5000mだけではなく、10000mも楽しみで、青学大で距離を踏めば1年目から3大駅伝で活躍してくれるだろう。

駿河台大監督の息子だけでなく、若林&黒田の弟も

 13分台は折田、飯田を含めて6名が入学予定。その中で3番目のタイムを持つのが佐々木大輝(花咲徳栄・13分55秒85)。さらに都大路3区21位の佐藤愛斗(小林・13分57秒15)、2区5位の遠藤大成(佐久長聖・13分58秒03)、3区11位の小河原陽琉(ひかる)(八千代松陰・13分58秒96)とつづく。佐藤は日体大記録会のレースで先頭で引っ張って自己ベストを更新するなど、積極的で強気の競技姿勢が頼もしい。遠藤はインターハイ3000m障害で3位。同期で高校3年5000m4位の記録を持つ永原颯磨(佐久長聖)に負けられないと強い決意で大学での飛躍を目指す。

 14分台の選手は面子が非常に個性的だ。駿河台大の徳本一善監督の子息である徳本陽(ひなた)(東農大二・14分06秒64)、さらに若林宏樹の弟・若林良樹(洛南・14分17秒36)、黒田朝日の弟・黒田然(ぜん)(玉野光南・14分19秒13)が入学予定で、チームに2組の兄弟選手が新たに生まれることになる。若林は兄・宏樹を尊敬しており、箱根は10区希望で彼女に応援されながら箱根駅伝を走りたいという。黒田はインターハイ3000m障害2位の実績を持ち、三浦龍司を超える選手になるのが目標だ。徳本監督と黒田の父親は法政大のチームメイトで、子どもが青学大で同期になるのは、何か不思議な縁を感じる。さらに、橋本昊太(滋賀学園・14分02秒48)、植村真登(まなと)(いわき秀英・14分03秒62)、安島莉玖(大垣日大・14分06秒47)、福富翔(須磨学園・14分09秒05)、松田煌希(清風・14分15秒74)、船越碧(九州学院・14分26秒21)と、現時点で判明している入学予定の選手は全員が14分30秒以内というとんでもなく高レベルな新入生が揃った。

「最強の黄金世代」に?

 青学大は、過去最高、破格のスカウティングに成功したといえよう。この1年生に加え、3本柱の2区区間賞の黒田、3区区間賞の太田蒼生、5区2位の若林が軸となる中、新主将の田中悠登、さらに白石光星、鶴川正也、野村昭夢ら4年生に加え、1区9位の荒巻朋熙、8区区間賞の塩出翔太、10区2位宇田川瞬矢らもおり、選手層は相当に分厚くなった。正直なところ箱根にBチームを出してもシード権を獲れるぐらいの選手層を誇っているといっても過言ではない。折田ら1年生が順調に成長していけば、その多くが3大駅伝に絡んでくるだろうし、主力と噛み合えば大学駅伝3冠も見えてくる。2024年入学組は、近年で入学時から騒がれた東海大の黄金世代を超え、それ以上の輝きを放つ「最強の黄金世代」になるかもしれない。

早稲田大には日本人高校生3位だけでなく…

 高校5000m日本人ベスト3位の山口は、早稲田大に進学する。佐久長聖―早稲田大のラインは、大迫傑(Nike)が有名だが、今春に大学最上級生になる伊藤大志も同じ流れだ。山口は、都大路3区で留学生たちと互角に戦い、日本人トップの区間3位でチーム優勝に貢献した。都道府県駅伝でも昨年の4区と今年の5区を2年連続区間賞で駆け抜けるなど、タイムよりも強さを重視しており、駅伝では勝つことを意識している選手だ。層が薄い早稲田大では即戦力として3大駅伝に起用されるだろう。

 花田勝彦監督になって3年目のシーズンは、山口の他にも監督自身がスカウティングした好タイムの選手が入学予定だ。

 山口と同じ13分台のタイムを持ち、都大路7区12位の立迫(たちざこ)大徳(ひろのり)(鹿児島城西・13分57秒98)は、U20アジア選手権800m金メダリスト。「駅伝も走りたい」という意欲から中距離と長距離の二刀流に挑戦していくことになる。

 吉倉ナヤブ直希(早稲田実・14分16秒01)は、東京選手権1500mで優勝(3分52秒02)するなど、中距離が主戦場だ。春はトラックがメインになるが、夏から長距離に対応できれば、ラストスパートが自分の持ち味なだけに駅伝の最後の競り合いで強さを見せてくれるだろう。

駅伝男の加入、今シーズンが勝負に?

 都大路3区13位の瀬間元輔(東農大二・14分23秒17)は、高1時の都大路で5区区間賞を獲得。駅伝が大好きで、「駅伝男になりたい」というだけに1年目からの活躍に期待が膨らむ。

 早稲田大は、主将の伊藤を軸に、4区13位の石塚陽士、延岡西日本マラソンで優勝した8区5位の伊福陽太、7区14位の諸冨湧らの最上級生に加え、2区4位のエース・山口智規、1区12位の間瀬田純平、出雲6区5位の長屋匡起、箱根5区6位の工藤慎作と選手が揃いつつある。箱根も6位、7位と2年連続で安定してシード権を獲得してきており、石塚ら強い4年生がいる今シーズンが勝負になるだろう。中間層のレベルアップが実現し、ルーキーたちが駅伝に顔を揃えれば、5位以内はもちろん、トップ3も見えてくる。

<「駒大、東洋大など強豪校」編につづく>

文=佐藤俊

photograph by JIJI PRESS