箱根駅伝の名門校にも有力選手が続々と入学する。高校3年生の5000m4位、注目の永原颯磨(佐久長聖・13分43秒03)が進学先に選んだのは、箱根駅伝で苦戦を強いられ、逆襲を期す古豪だった。(全3回の第3回/第1回、第2回も配信中)

創価大の良質なスカウンティング

 箱根駅伝総合8位の創価大は、ここ数年の駅伝での結果、さらに寮などの環境の良さで良質の選手のスカウティングに成功している。

 山口翔輝(大牟田・14分03秒25)は、福岡県高校駅伝3区区間賞、都大路3区4位とスピードと安定感のある走りが持ち味。中学の時から都大路、箱根駅伝を走るのが目標で、今後は箱根を目指して練習に取り組むことになる。西山修平(京都外大西・14分04秒49)は、外さない走りとロングスパートが持ち味。チームに貢献する走りをしたいという気持ちからロードで力を発揮してくれるだろう。都大路2区4位の齋藤一筋(いちず)(学法石川・14分10秒15)は、1500mが主戦場。東北高校陸上1500mで優勝、インターハイ決勝は9位。残り200mからラストスパートにキレがあり、スピードが魅力。高校OBの山口智規(早大)に憧れており、今後は長距離に対応し、山口のようにエースに成り得るか。山瀬美大(よしき)(熊本工業・14分14秒14)は、高2時の都大路で3区28位。その悔しさを抱えて熊本県高校駅伝1区2位と好走したが、リベンジを果たせなかった。今後は箱根で結果を出すために覚悟を持って走るという。

兄を追うランナーも

 石丸修那(出水中央・14分17秒39)は、尊敬する兄・惇那(新3年生)の背中を追って創価大へ。高校ではエースに成長し、鹿児島県高校駅伝7区1位。兄は1年時、箱根駅伝10区に出走したが、修那も1年時から活躍し、兄弟での襷渡しが実現するだろうか。浦川栞伍(かんご)(開新・14分18秒72)は、エース兼主将としてチームを牽引。パリ五輪マラソン男子代表の座を射止めた同校OBの赤崎暁に憧れており、冷静で安定した走りが特徴だ。5区2位と快走した榎木凜太朗(小林・14分20秒27)は、叔父の榎木和貴監督のもとで競技を継続することになった。ロードのセンスは抜群で、1年時から3大駅伝出場を目指す。さらに7区6位の迫紘太(九州学院・14分27秒16)、有馬貫太(樟南・14分34秒16)、中村柊一(東京実業・14分39秒65)らが入学予定だ。

 創価大は、9区15位の吉田凌、5区9位の吉田響(今季の出雲、全日本で区間賞)のダブル吉田に加え、箱根2区5位のムチ―二、6区3位の川上翔太、8区15位の小池莉希ら1年生の活躍もあり、選手層は厚みを増してきた。特殊区間の山に絶対の強みを持ち、2区も安泰。ルーキーが駅伝のメンバーに入り、主力が故障なく戦力が整えば往路優勝、総合3位以内は十分に射程圏内にある。

地方有力ランナーが大東大へ続々と…

 箱根駅伝総合10位で9年ぶりにシード権を獲得した大東文化大には、都大路1区9位と好走した大濱逞真(たくま)(仙台育英・13分52秒42)が入学予定だ。高1時、真名子圭(きよし)監督の指導を受けており、師弟関係が継続することになる。走力はもちろん、意識も高く、「誰からもエースと呼ばれるような存在になりたい」と語り、勝負にこだわっていくという。矢嶋大悟(東農大二・14分18秒79)は3000m障害を主に走り、全国高校男子3000m障害ランキングでは9分02秒65で11位。タフな走りが持ち味だが、群馬県高校駅伝6区1位とロードも強い。

 さらに、岡山県高校駅伝1区3位の庄治大翔(ひろと)(岡山商大附・14分19秒32)、埼玉県高校駅伝3区1位の中澤真大(埼玉栄・14分19秒42)、埼玉県高校駅伝1区4位の鈴木青空(そら)(武蔵越生・14分16秒03)、埼玉県高校駅伝3区5位の松浦輝仁(きらと)(坂戸西・14分26秒79)、滋賀県高校駅伝3区1位の平田碧(比叡山・14分27秒37)、青森県高校駅伝1区区間賞の福井陽仁(はると)(青森山田・14分36秒62)ら地方駅伝で上位を占める選手が多く、大東大の強化戦略が見て取れる。

 大東大は、久保田徹ら強力な4年生が卒業するが、1区13位の西川千青、4区18位の西代雄豪、7区6位の小田恭平、8区23位のワンジル、9区9位の大谷章鉱、10区7位の佐々木真人ら3年生がおり、彼らが最上級生となる次シーズンはより安定した戦いが可能になる。即戦力として期待される大濱がどんな走りを見せてくれるのか、非常に楽しみだ。

下級生主体だった東海大、来年の巻き返しはあるか

 箱根駅伝総合11位に終わり、3年連続でシード権を逸した東海大。黄金世代の頃に比べるとスカウティングはやや苦戦している感があるが、昨年は盛り返し、南坂柚汰ら優秀な選手が入学した。今年は、13分台の選手はいないが、ポテンシャルの高い選手が名を連ねる。

 都大路3区20位の水野夢大(ゆうだい)(九州学院・14分06秒72)は、主将として甘えが見えたチームの改革を断行して全国の舞台に返り咲いた。走りだけではなく、いずれ部を引っ張る存在としても大きな戦力になるだろう。同じ九州学院の岩根正悟(14分20秒64)は2区9位と好走し、1500mをメインにスピードを磨いてきた成果が出た。OBの館澤亨次(DeNA)のように1500mと駅伝で凄みを見せられるランナーになれるか、楽しみだ。小野真忠(仙台育英・14分13秒23)は都大路を走れなかった悔しさを箱根駅伝出走で晴らすことになる。さらに東京都高校駅伝1区5位の平井璃空(拓大一・14分19秒17)や中野純平(清峰・14分44秒87)らが入学予定だ。

 今年3月でエースの石原翔太郎が卒業するが、9人の箱根経験者が残るのに加え、今年は走れなかった越陽汰(3年、来季から4年)ら主力が健在。2年生主体のチームだったので、上級生となる新シーズン、彼らがどうチームを牽引していくのか。一体感を築ければ箱根予選会上位通過、本大会での10位以内も見えてくる。「復活の狼煙」をあげられるか、ここ2年が勝負になる。

中央大が昨年に続き質の高いスカウティング

 箱根駅伝13位に沈んだ中央大学は、昨年よりも13分台はひとり少ない2人だが、全体的に質の高いスカウティングに成功し、上々といえるだろう。

 岡田開成(洛南・13分55秒62)は、トラックに強いスピード選手。OBの佐藤圭汰に憧れており、腰高のフォームで走る様は、どことなく似ている。都大路は主将として1区の予定だったが体調不良で出走できなかった。だが、京都府高校駅伝では1区1位で走るなどロードも強く、大学駅伝での活躍が楽しみだ。

 都大路1区14位の七枝(ななつえ)直(なお)(関大北陽・13分57秒78)は、中学までトライアスロンの選手。高校から陸上をスタートさせたが強い体幹と伸びやかなフォームからタイムが伸びていった。元トライアスロンの選手だけにタフさもあり、ロードのポテンシャルが高いので1年目から活躍を期待できる選手だ。

 都大路6区16位の三浦彰太(須磨学園・14分07秒59)は、2年時こそ伸び悩んだが3年時は秋から5000mで自己ベストを更新するなど調子を取り戻した。原田望睦(のぞむ)(東農大二・14分08秒73)は2年連続で1区を任された実力派。思い切りがよく、積極的な走りが持ち味で2月のぐんまマラソン・ジュニアロードレース高校男子10kmで優勝するなど、ロードに強みを発揮している。

高校駅伝2区区間賞のスピードランナーも中央大へ

 田中伶央(笛吹・14分09秒32)は、インターハイ5000mに出場、山梨県高校駅伝1区3位とトラックのスピードとロードの強さを兼ね備えた選手。都大路4区3位の並川颯太(洛南・14分10秒37)は、タイムより実戦での強さを見せるタイプ。同じ洛南出身の岡田同様、佐藤を尊敬しているという。中央大には柴田大地(1年)、溜池一太(2年)ら高校の先輩がおり、環境的には何の不安もなく、競技に集中できる。

 田原琥太郎(西条農業・14分10秒91)は、昨年のU20日本クロカンで5位入賞を果たし、広島県高校駅伝1区2位と好走するなどロード向きの選手。2区区間賞の寺田向希(国学院久我山・14分16秒28)は、インターハイ800mで3位、1500mは2位。トラックスピードが最大の武器なので、駅伝は出雲、全日本の短い区間での起用がメインになりそうだ。都大路3区30位の相地一夢(豊川・14分19秒13)は、昨年夏の大学合宿に参加後、自分に危機感を覚え、個人練習で距離を踏むなどして走力を磨いてきた。中央大の強化カリキュラムでどこまで伸びていくか楽しみだ。

 3区7位の佐藤大介(埼玉栄・14分19秒71)は、高2時の都大路6区4位、昨年春の高校伊那駅伝1区6位、関東高校駅伝3区3位、今回の都大路とロードに強く、外さないのが強み。監督としては安心して起用できるタイプだ。さらに都大路1区37位の木下道晴(鯖江・14分28秒72)、荒井遼太郎(川崎市立橘・14分31秒92)が入学予定だ。

 中央大は、今年の箱根駅伝は体調不良者が続出し、シード権を失った。また、エースの吉居大和、湯浅仁、中野翔太ら強力な4年生が卒業し、戦力の再構築が求められている。7区区間賞の吉居駿恭(2年)や2023年箱根5区3位の阿部陽樹(3年)、2023年箱根1区4位の溜池らが軸になる中、中間層の底上げが必須。ポテンシャルの高い選手が多いが、開花とはいかず、ルーキーの刺激を受けて、どこまで個々が能力を発揮することができるか。また、ルーキーたちの中から誰が3大駅伝のメンバー入りを実現するのか。いい選手が大量に入学するだけに今年の中央大から目が離せない。

順大・三浦龍司に憧れ、やってくる期待のルーキー

 高校3年の5000m4位の記録を持つ永原颯磨は、今年の箱根駅伝で総合17位に終わった順天堂大学に進学予定だ。永原は都大路優勝を果たした佐久長聖のキャプテンで、自身は1区4位で流れを作った。インターハイ男子3000m障害では8分32秒12の高校生記録を更新して優勝を果たすなど、実績は十分。多くの大学から勧誘の声がかかったが、3障で五輪や世界陸上を目指していくために、憧れの三浦龍司を育てた長門俊介監督の指導はもちろん、三浦が卒業後も順大での練習をメインにするということで間近に世界を感じられる環境面を重視した。また、ランニングクラブそして中高が同じ1学年上の先輩、吉岡大翔がいるのも心強かった。上りが得意なので、箱根では5区希望。永原がハマれば、17位という雪辱を果たすレースが来季はできるはずだ。

 川原琉人(五島南・13分52秒29)も三浦に憧れて順大を選択した。中学時代、祖父と一緒に練習し、それが今のベースになっており、がっしりした体でパワーに満ちた走りが魅力的だ。

二刀流経験ありのランナー

 順大には他にも13分台のランナー2人が入学予定だ。

 玉目陸(出水中央・13分57秒45)は、中学3000mランキング1位になったスピードランナー。フォームが非常にキレイで、脇を引き締めたコンパクトな腕振りが特徴。ロング耐性もありそうなので、駅伝でもかなり走りそうだ。

 都大路1区19位の池間凜斗(小林・13分58秒96)は、ラストスパートのキレ味が鋭いスピードランナー。粘り強さもあるので、駅伝で結果を残していきそうなタイプだ。4区7位の山本悠(はるか)(八千代松陰・14分02秒24)は、中学時代は野球と陸上の二刀流をこなし、高校で陸上が開花。チームでは副主将を務め、昨年の都大路で3位に導いた。1区6位の谷本昂士郎(大牟田・14分02秒69)は、唐津10マイルの男子10kmの部で29分28秒で優勝したロードのポテンシャルが非常に高い選手。「駅伝でチームのエースになりたい」と語るように、箱根駅伝17位と低迷した順大の駅伝を支えてくれる存在になるだろう。三宅勇希(洛北・14分11秒16)は、部の方針から個々人で行う練習によって力を積み重ねてきた。自分で考えるスタイルが身についており、今後さらに伸びていくだろう。他にも「同級生はライバル。負けたくない」と名門高校から意気込む野崎健太朗(佐久長聖・14分22秒47)、今井悠貴(前橋育英・14分20秒60)、辻昂介(拓大一・14分34秒83)らが入学予定だ。

 順大は昨年、伊豫田達弥(富士通)、四釜峻佑(ロジスティード)、西澤侑真(トヨタ紡織)、野村優作(トヨタ自動車)ら強力な4年生が卒業し、一気に戦力ダウンし、三浦たちはチームをもうひとつ支えきれなかった。再建のシーズンになるわけだが、そのベースとなる高校生のスカウティングは大成功に終わり、青学と双璧を成すレベルにある。中距離、ロード特性のある選手など、バラエティ豊かな陣容となり、彼らが上級生になった際は、優勝を狙えるチームになりそうだ。

<「青学大」編とあわせてお読みください>

文=佐藤俊

photograph by KYODO