昨夏の甲子園ベスト4に進出するなど、近年着実に力をつけている鹿児島・神村学園。チームを率いる小田大介41歳は、あの伝説的ドラマ『スクール・ウォーズ』の影響を公言する熱血監督だ。体罰は“絶対NG”の今、教育現場で高校生と向き合う「熱さ」とは何か。NumberWebのインタビューに応じた。<全3回の1回目/第2回、第3回も配信中>

――小田さんは、ベンチ内での喜怒哀楽の表現が非情に豊かですよね。叫んだり、ガッツポーズをしたり。昨年の夏の甲子園では試合後、いつも声もガラガラで。昔から、あのような感じだったのですか。

小田 昔からですね。うちの子らは歯を食いしばって練習してきてますから。その成果が甲子園で出せたら、やっぱり嬉しいじゃないですか。まあ、最後は負けて悔しい思いもしましたけど。でも、去年の夏は僕もいい感じで甲子園の空気の中に入っていけたし、いつも以上に思い切ってできたなという気はします。

青春とは愛です

――あと、去年の夏の神村学園は「気愛」というスローガンが話題になりました。

小田 3年間、甲子園に行けてなかったので何か変えないといけないって思って、年始に今年のスローガンは「気愛」でいくよ、と。それまで愛がないチームだったんですよね。人に対して。今の時代、やっぱりそういう子が増えたなという気がするんです。自主性という言葉が象徴するように、自分を伸ばすことばかりに気持ちが行ってしまっているというか。野球ってそもそも1対1の場面が多いじゃないですか。

――団体競技でありながら、個人競技に近い側面がありますよね。

小田 でも、その1対1の積み重ねが最後、勝敗に現れるわけですよね。誰かが1対1で負けても、別の選手が1対1で勝てば取り返せる。それが野球じゃないですか。自分のことだけじゃない。だから、日本一になったら「青春とは愛です!」って言いたいなと思ってたんです。仙台育英の須江(航)さんが優勝したとき「青春は密」と言っていたので。

41歳でスクール・ウォーズのファン…なぜ?

――その愛というキーワードは、1980年代のドラマ『スクール・ウォーズ〜泣き虫先生の7年戦争〜』の影響なんですよね。弱小ラグビー部にある教師が赴任して、そこから全国制覇を成し遂げるという実話に基づいたドラマで、再放送でも視聴率が20%を超えたという伝説のドラマでもあります。

小田 (主人公の)滝沢賢治先生が中学校時代の恩師に言われた言葉に、愛とは相手を信じ、待ち、許すことだというのがあって。そのシーンの中の恩師と滝沢先生は野球のユニフォームを着ていたんですよ。

――そうでしたね。滝沢先生は、中学時代は野球部だったという設定なんでしょうね。

小田 だから野球にも通ずる言葉なんだなって思ったんです。野球も自分のことだけ考えてプレーするのではなく、仲間のことを信じないといけないんだな、と。

――私は滝沢先生を演じた山下真司さんにインタビューをしたことがあるのですが、最初、ドラマの台本を読んだときはこんなに泣けるか心配だったそうです。でもいざ撮影が始まると、現場のテンションが異様に高くて、泣くのを我慢する方が大変だったと話していました。小田さんもよく泣くのですか?

小田 泣きます。すぐもらい泣きしちゃうんですよね。正直、自分のそういうところは嫌いなんです。今回の選抜(出場校)の発表のときも、我慢しましたけど、泣きそうになりました。選ばれる自信はありましたけど、ネガティブな情報も入ってきたりするので。それこそ、信じて待つしかないなと思っていました。

――『スクール・ウォーズ』は初回の放送が1984年なので、そのとき小田さんは……。

小田 2歳ですね。僕は中学時代とか、高校時代に再放送でちょくちょく観たのが最初です。それで大学4年生の秋のリーグ戦が終わったとき、寮を出て一人暮らしを始めたんですけど、そのときにDVDを借りてまた観たんですよね。滝沢先生の生徒に対する熱い気持ちは、今も僕のベースになっています。

「愛のムチ」に違和感なかった?

――亜細亜大学の野球部寮でみんなで観ていたというわけではないんですね。

小田 ないです、ないです。あの頃は、みんな木村拓哉さんの『プライド』(2004年)とかを観ていました。アイスホッケーのドラマなんですけど。あれもなかなか熱いドラマで、すごく影響を受けましたね。

――私は『スクール・ウォーズ』直撃世代なのですが、小田監督の世代でもあのドラマに心を揺さぶられるんだなというのが意外な気もしました。ドラマの中では滝沢先生が生徒のためを思って殴るという、いわば「愛のムチ」はありなのだという描かれ方をしていましたが、ああいう価値観に違和感を覚えませんでしたか?

小田 覚えませんでしたね。愛情の伝え方の違いだったのかな、と思います。

――ものすごく影響力の強いドラマだったので、このドラマにハマって体罰を肯定してしまった人もいただろうなと想像するんです。そういう人たちは「体罰の否定=愛情の否定」のように思えて葛藤したでしょうし、あるいは、今もそうなのかなと思ってしまうのですが。

小田 自分はそういう葛藤はぜんぜんありませんでしたね。自分が高校2年から3年に上がるぐらいですかね、体罰に関しては、かなり厳しく言われ始めていました。だから高校時代も、亜細亜大学時代も、僕は監督や先輩に叩かれたり、殴られたりしたことは一度もないんです。なので、体罰はダメなんだよ、と言われても素直にそうだなと思えました。そこで苦しんでいるのは50歳前後の方たちなのかなという印象がありますね。

試合日のバス…流れるドラマ主題歌

――でも、言われたように、あのドラマから今もくみ取るべきものがあるとしたらパッションですよね。

小田 自分はそう思います。だから、選手への情熱がなくなったら、自分は指導者はやめようと思っています。本当に。大切な子たちを預かっている以上、中途半端には教えたくないし、立派な、男前な人間になって欲しいので。

――選手たちにも『スクール・ウォーズ』は見せたのですか。

小田 いや、見せてないです。彼らは観たことないんじゃないかな。

――でも試合の日のバスの中で同ドラマ主題歌の『Hero』を流しているんですよね。

小田 あれは2、3年ぐらい前だったかな、県大会のときに選手が流してくれるようになったんです。自分が好きなのを知っていたので。ある信号を過ぎたら『Hero』をかけてくれるんです。

――その信号を過ぎると、5分ぐらいで県立鴨池野球場(鹿児島大会のメイン球場)に到着するわけですか。

小田 そうです。選手も、その曲が流れ始めたら、そろそろだなという心の準備ができるらしいです。

<つづく>

文=中村計

photograph by Kei Nakamura