昨夏の甲子園ベスト4に進出するなど、近年着実に力をつけている鹿児島・神村学園。教育現場で多くの指導者が“叱り方”に悩む今、あの伝説的ドラマ『スクール・ウォーズ』の影響を公言する熱血監督・小田大介41歳は、球児とどう接しているのか。NumberWebのインタビューに応じた。<全3回の2回目/第1回、第3回も配信中>

――昨年夏、「エンジョイベースボール」を掲げる慶応高校が優勝し、時代の変化というか、高校野球もこれからどんどん変わって行くのだろうなという予感がしました。小田監督も20年近く指導者をしていますが、昔と今、自分自身も変わったなと思いますか。

小田 変わりました。めっちゃ変わったと思います。

――どのあたりが変わったのでしょうか。

小田 昔はかなり厳しく指導していました。俺の言うことが絶対だ、こうすれば勝てるんだ、という感じで。でも今は、語弊があるかもしれませんけど、教える気がないというか。それこそ、自主性、主体性ということが言われ始めて、自分で自分を伸ばすことを考えなければいけない時代になったと思うんです。これまでは「これが答えだ」という教え方をしていたんですけど、それをやってしまうと考えない子になってしまうじゃないですか。

「俺が育ててやった…の指導者にろくな人はいない」

――そう考えられるようになったきっかけみたいなものがあるのですか?

小田 ある人が「俺が育ててやったとか、そういうことを言う指導者に、ロクな人はいない」と言っていて。本当にそうだなって思ったんです。それまでの自分は、俺がこの子を育てたんだという感じがめちゃめちゃ強かった。なんて小さかったんだろうと思いましたね。

――指導者によっては高校生に自主性なんてないんだ、だから、指導者が管理してやらせるべきなんだという人もいて、それもわからなくもないなと思うときもあります。高校生に「自主性」を植え付けるのって、大変は大変ですよね。

小田 うちの選手にはこういう言い方をしています。自分にとって楽なこと、楽しいことばかりをやるのは自主性ではなく、自分勝手なんだよ、と。自分がこうなりたいという目標に対して足りないことをがんばる、それが自主性ちゃうのか、って。

「やらせる」より「信じて待つ」

――すんなり理解してくれるものですか。

小田 ずっと伝え続けています。懇々と言います。それで、気づくまで待つ。確かに甲子園ばかりに気をとられると待っている時間はないんですけど、彼らの人生という尺度で考えたら、まだまだ先は長い。なので、高校を卒業して、社会人になってから「監督さんの言われていたことが、最近、よくわかります」と言ってくれる子もいる。その言葉を聞けたときに「俺、勝ったな」って思うんですよ。やっぱり、待ってよかったんだな、って。

――でも、そうならない場合も多いわけですよね。

小田 思い通りにならないのが人生だし、野球じゃないですか。昔、長嶋茂雄さんが「野球とは人生そのもの」と言っているのを聞いて、何のことを言ってるのかさっぱりわからなかったんです。でも、指導者になって野球を深く知れば知るほど、野球と人生って本当に一緒だなと思う瞬間が増えてきたんです。選手とのすれ違いや行き違いもありますけど、裏切るくらいなら裏切られる方がいいと思っているので。

――小田監督は2013年に監督に就任し、昨年の夏まで春夏あわせて5回、甲子園に出場しています。去年の夏はベスト4まで勝ち上がりましたが、それまでは甲子園で2勝以上したことがなかったんですよね。その壁を突破できたということは、その「信じて、待つ」指導が結実したということなのでしょうか。

小田 それも一つ、あると思います。あとは試合中に怒り過ぎないようにとか、注意し過ぎないようになったのも大きいかなと思います。というのも、キャプテンの今岡(歩夢)が第2の監督というか、自分の分身みたいな存在になってくれて、気づいたことがあったらすぐに言ってくれていたんです。ベンチがシュンとなっていたら「もっと声を出していこうぜ」とか。お陰で僕は采配に集中できましたし、思い切った判断もできたと思います。2回戦の市立和歌山戦では初回からピッチャーを代えたり。それも事前にピッチャーには伝えていました。初回から行くこともあるよ、と。

言葉、強弱…球児をどう怒る?

――怒り方ということでいうと、言葉選びも難しい時代になりましたよね。

小田 もちろん、そうですね。怒り方に強弱をつけたり、この子に言っていいこと、この子には言ったらいけないことというのも使い分けたりしています。あと、僕の場合は、訛りの問題もありました。自分は北九州出身なんで、普通にしゃべっていても周りの人からすると怖いみたいに言われることもあって。確かに馴染みがない人からすると、広島弁とかも迫力があるじゃないですか。「何とかじゃけん」とか。でも広島の人からしたら、普通に言ってるだけですもんね。でも、それによって選手が萎縮してしまったら元も子もないので変えなきゃと思いつつも、どうしても生まれ育った土地のイントネーションになってしまうことがある。そこは難しいなと思いました。

――去年の夏の神村学園は本当に勢いがあって、ひょっとしたら……と思わせましたが、準決勝で仙台育英に2−6で敗れてしまいました。日本一まであと2勝というところまで近づきましたけど、全国の頂点までの距離感のようなものはつかめたのでしょうか。

小田 めっちゃ長いと思います。あと2つだったんですけど、果てしなく遠い2つだなという印象でしたね。今の高校野球界において、仙台育英と大阪桐蔭はやはり抜けていると思います。個の能力が違い過ぎる。仙台育英は出てくるピッチャー、出てくるピッチャー、本当にすごかったので。

<つづく>

文=中村計

photograph by Hideki Sugiyama