サッカー日本代表でカタールW杯以降からの“新顔”として存在感を高めている選手と言えば、中村敬斗(23歳)だ。抜群のシュートセンスに注目が集まる端正なアタッカーの才覚は、育成年代からヨーロッパ生活でどう育まれたのか。世代別代表時代から注目していた水沼貴史氏との“NumberWebオリジナル対談”で明かす。<全2回の第1回/第2回も配信中>

15歳の時、ソボスライとマッチアップしてたんだよね

水沼 敬斗君のプレーを初めて観たのは鳥取で行われた2016年のU-16インターナショナルドリームカップ(※当時の中村は15歳)。久保建英や菅原由勢もいて、のちのU-17W杯に繋がる大会でした。

中村 水沼さんも観に来ていたんですね。この大会はわりとハッキリ覚えてます!

水沼 マリがめちゃくちゃ強かったよね? あの時の日本チームは攻撃的で面白かったから、けっこう衝撃を受けたんだ。

中村 たしか1−2で負けた試合ですよね。

水沼 それこそ今、フランスでプレーしている選手もいるんじゃないかな。当時のキャプテンは今、南野拓実が所属するモナコにいるね(モハメド・カマラ)。あと、あの大会にはハンガリーも出ていて、リバプールで遠藤航と一緒にプレーしているドミニク・ソボスライがいました。覚えてる?

中村 はい、でも当時は全く印象に残っていなくて(笑)。あんなすごい選手になるとは正直、思わなかったです。

水沼 敬斗君も点を決めて4−1で勝っている。ちなみにハンガリーの1点はソボスライでした。

中村 (当時の写真を見て)……ホントだ、自分もマッチアップしていますね(笑)。

練習が終わってからもずっとシュートを打っていた

水沼 当時から敬斗君にはフィニッシャーの印象があって。もちろん、ドリブルは光っていたんだけど、昔からシュートも抜群に上手かった。横からのクロスボールに対する合わせ方もいいし、自分でカットインして、それこそアジアカップのベトナム戦のゴールのようなシュートも打っていた。キックの質も豊富で、巻くような軌道もあればニアにズドンと打ち込めるパワーもある。シュートを打つ時にどういうイメージをつくっているのかな?

中村 インパクトの瞬間にボールをふかさないようにちょっと体をたたむとか、力みすぎないようにとか、そのあたりは意識してるんですけど……言葉に表すのは難しい部分ですね。やっぱり身体に刷り込まれているものが大きいのかなと。

水沼 シュートは小さい頃から意識して練習していた?

中村 練習が終わってからもずっとシュートを打っていた思い出があります。

水沼 それは、巣鴨で?

中村 巣鴨でもひたすらシュート打っていました(笑)。(※巣鴨=中村が中高時代を過ごした三菱養和サッカークラブのグラウンド拠点)

三笘選手のようにぶっちぎっていくわけではないからこそ

水沼 ドリブルとシュート、どっちが好き?

中村 あくまでもシュートを打つために、ゴールを決めるためにドリブルがあるという感じです。自分は三笘(薫)選手のようにハーフラインからドリブルでぶっちぎっていくタイプではないですし、あれはやりたくてもできるプレーではありません。

水沼 三笘とは違うタイプというと自覚してるからこそ……敬斗君はどんなイメージを持って臨んでいるのかな。

中村 ペナルティーエリア付近やバイタルエリアでボールを持った時が強みだと思っているので、常にゴールを想定したポジション取りやプレー選択を意識していますね。

水沼 自分の持ち場に特化してるところがいいね。相手からすればそれが一番“怖い”から。

中村 (ドリブルで抜くよりも)その感覚の方が大事ですね。

アジア杯で感じた“割り切る相手”の難しさ

水沼 時間が少し経ちましたが、アジアカップを改めて振り返ってもらえますか?

中村 昨年11月のW杯予選はケガで代表に参加できなかったので、僕にとってアジアカップが日本代表として初めての“公式戦”でした。ベトナム戦でゴールは決めましたが、親善試合とは違って、特にアジアの各国が割り切って戦ってきているとは感じていて。簡単ではないということを初戦から強く実感していました。

水沼 準々決勝のイラン戦は出場機会がなかった。ケガの影響もあったのかもしれないけど、悔しさがあったのでは?

中村 ケガは関係なく、おそらく戦術的な理由だったのかなと思っています。出たかった気持ちもありましたし、とにかく優勝したかったので、何とかして勝ちたかった。負けた時は頭が真っ白でしたね。

水沼 これまでも敬斗君はU-17、U-20と世代別のW杯に出場して、アジアの予選も経験してきました。A代表の公式戦ではどんなことを考えていたんでしょうか。

中村 プレッシャーは世代別代表とは違いました。国を背負って戦う舞台ですが、あまり気負いすぎないというか、ただサッカーをして結果を出すことだけに集中していましたが、それでも気負いはあったと思います。

今は必ずしも毎回選ばれるとは思っていない

水沼 欧州のシーズンが新たに始まる夏には24歳になります。見方によっては若手かもしれないけど、もう日本代表において中心でやらなければいけない世代になってきた。ワールドカップ予選を控える中で、そういう気持ちの変化はある?

中村 もちろん、あります。でも、まずは常に日本代表に選ばれるために、生き残っていくためにクラブでしっかりプレーすることが大事かなと。今は必ずしも毎回選ばれるとは思っていないので。

水沼 厳しい競争に身を置いているという思いが強いということかな。

中村 特にサイドハーフは人材豊富なので。クラブで結果を残せなかったら外されてしまうということはずっと頭にあります。50:50のラインにいると思っているので、まだまだアピールが必要です。

水沼 所属するランスでもチーム状況に応じて起用法が変わっていますね。クラブでの立ち位置はどう考えてますか?

中村 夏にフランスに来てから最初の頃はスタメンで使ってもらう機会も多く、すぐに初ゴールを決めることができました(第6節リール戦)。でも、代表活動でケガをして、7〜8試合ぐらい良いコンディションでプレーすることができませんでした。アジアカップで再びチームを離れたりと、今シーズンは馴染んできては空けて、を繰り返している状態。伊東純也選手くらいの主力になるのは時間が必要だと思いますが、難しさは感じています。アジアカップから戻ってきてからも5バックに変更され、また4バックに戻したり。その中で実力ある選手と競争するので当然もどかしさはありますね。

水沼 アタッカーとしては、なかなか波に乗り切れないよね。

中村 でも、日本代表には絶対に行きたい。こういう経験はもっと上を見据えたときに必要な時間なのかなと思っています。

久保、菅原ら同世代の選手との関係性は?

水沼 A代表デビューはウルグアイ戦(2023年3月24日)でした。実は、あの試合、森保ジャパンになって初めて生観戦した試合だったんです。敬斗君は途中出場でしたが、初代表のピッチはどうでしたか?

中村 昨年3月は正直選ばれるとも思っていなかったんで、ずっと緊張していました。でも、とにかく爪痕を残したい、チャンスを掴みたいという気持ちが強かったです。数分でしたが、ピッチに立たせてもらえたことにすごく感謝しています(89分、三笘に代わって投入)。

水沼 代表チームに同世代の選手がいたのはプラスだった?

中村 久保選手だったり、菅原選手だったり、あの時は谷(晃生)選手とか瀬古(歩夢)選手もいたと思うんですけど。アンダーの頃から一緒にやってきた仲間がいたことは心強かったですね。

水沼氏が「頼もしいですね!」と言ったワケ

水沼 他にも、今や日本代表には各国で活躍する選手がそろっているよね。ポジションを争う三笘はもちろん、リバプールで活躍するキャプテンの遠藤を筆頭に錚々たる顔ぶれですが、彼らの言動から何か影響を受けることはある?

中村 練習に臨む姿勢やサッカーに対する姿勢は学ぶべきことはあります。でも、日本代表に来て、練習して、食事してというぐらいなので、そこまで大きな何かがあるわけでもないかなと。それぞれのスタイルがあり、自分には自分のやり方があると思う。刺激は受けますが、だからといってそれを変えることはないかなという感じですね。

水沼 頼もしいですね。プレーのポジションはやはり左サイドが一番居心地がいいの?

中村 U-20のW杯は右サイドでしたし、なんだかんだ右も結構、好きなんですよ。

欧州での経験を胸に、サイド争いをアツくさせてほしい!

水沼 へえ〜、これは大々的に言った方がいいかもしれないよ(笑)。右サイドになれば、菅原とは縦関係になる。ホットラインも期待できますね。

中村 ただ、クラブでも左ウイングとして考えてもらっていますし、日本代表でも三笘選手がいない時に、というイメージだと思うので今の第1ポジションはそこかなと。それに右サイドは純也選手も帰ってくると思いますし、左より熾烈なので……ちょっと飽和しているぐらいですもんね(笑)。

水沼 入る余地はない? そんなことないでしょう。

中村 どこでもチャンスを掴めるように準備したいですね。

水沼 ぜひ激戦区のサイドアタッカー争いをさらにアツくさせてほしい! 日本代表の話だけじゃなくて、ヨーロッパ各国での経験も聞いてみたいです。

中村 もちろんです!

<第2回につづく>

文=水沼貴史

photograph by Masashi Hara/Getty Images