一言でいうと「楽しかった」。そうRENAはコメントした。

 3月23日の『RIZIN LANDMARK 9』(神戸ワールド記念ホール)。彼女は韓国のシン・ユリと対戦し、判定3-0で勝利を収めた。試合に勝って「楽しかった」はごくごく普通の、当然の言葉に思える。

 だが実際には重要だった。RENAがデビューしたのは2007年、16歳の時だ。シュートボクシング女子部門のトップに君臨し、2015年からはRIZINで MMAに挑戦。酸いも甘いも、ありとあらゆる経験をして今32歳。キャリアは今回がトータル61戦目だ。それだけ闘ってなお、試合が楽しかったと言えるのは尊いことではないか。RENAはその境地に辿り着いたのだ。

負傷から、11カ月ぶりの試合

 2021年の大晦日に敗戦。翌年7月の再起戦には勝利したが負傷し、試合間隔が9カ月あいた。復帰した昨年4月には足関節技で一本負け。ヒザを破壊されまたしても長期欠場となる。今回は11カ月ぶりの試合だった。

 これ以上は負けられない。女子戦線で取り残されてしまうのではないか。そんなプレッシャーもあるように思われたが、試合を前にしたRENAはネガティブな感情はないのだと明言した。それくらい調子がよかったのだ。

 キャリアで初めてだという海外でのトレーニングキャンプ。タイの名門「タイガームエタイ」での練習が自分に合っていた。日本での練習では、年齢も考え休養を重視していたそうだ。「週6で練習したら体がぶっ壊れる」と。

 ところが、タイで猛練習に励むとまだまだ動ける自分がいた。数年前までは引退、キャリアの終え方についても考えていたが、キャンプを経て格闘技が再び楽しくなってきたという。

RENA相手にも臆さず立ち向かったシン・ユリ

 試合にも、楽しいとしか表現できない燃焼感があった。対戦相手のシン・ユリは韓国の大会ROAD FCでベルトを巻いたが、ケガもあり生活が苦しく格闘技から離れていた時期も。今回は約3年ぶりの試合で、なおかつ日本のビッグイベントからのオファー。人気選手のRENAに勝てば、ファイターとしての未来が開ける。燃えないわけがない一戦だ。

 シン・ユリはトップストライカーのRENAが相手でも臆さずパンチを打ち込んでいった。RENAは的確にパンチ、ローキックをヒットさせるが、左目の上から出血。そこからシン・ユリの攻撃はさらにテンポアップしていった。RENAは三日月蹴りを多用してボディにダメージを与えていくのだが、完全にペースを掴むことができなかった。的確さのRENA、勢いと手数のシン・ユリといった印象だ。

 ただグラウンドになるとはっきり差が出た。2ラウンド、シン・ユリがテイクダウンに成功するもRENAが下からのアームロック。最終3ラウンドにはタックルを切ってパウンド、ヒジを連打していく。

「シン・ユリ選手は予想以上にタフでした」

 RENAはそう試合を振り返った。

「(相手は)ポーカーフェイスで、ダメージあるのかなって自分を疑うくらい表情に何も出てなかった。真っ向勝負できたので、3ラウンドはタックルにいこうかと一瞬、考えたんです」

「ここは殴りっこがしたいな」

 おそらく、そうしていれば楽に試合を進めることができただろう。だがRENAは自分からテイクダウンを狙うことはなかった。

「殴り合ってくれているのにタックルにいったら“逃げた”と言われるし、ここは殴りっこがしたいなって。久しぶりに試合をしたな、殴り合いをしたなという感覚で楽しかったですね」

 敗れたシン・ユリにとっても、得るものの大きな試合だった。RENA相手に真っ向から打撃戦を展開したこと。RIZINのファンに自分の存在をアピールできたこと。対戦決定以来、インスタグラムのフォロワーが激増したそうだ。

「RENA選手はさすがベテランで、ガードが下がる私のミスを突いて左フックを当ててきました。強い選手がたくさんいるRIZINの中で、私もRIZINファイターとして頑張っていきたいです」

 RIZINでRENAと対戦するという千載一遇のチャンスを掴むべく、対戦相手は必死に向かってくる。もしかすると本来の能力以上の力を出してくるかもしれない。RENAはこれまでも、これからもそういう相手と闘わなくてはいけない。今回のようにタフな展開になることもあるだろう。

 かつてのRENAは、それに疲れていたのではないか。「自分で勝手に限界を作っていたのかもしれない」と本人も言う。だがタイで練習してみたら、もう自分には無理だと思っていた質と量に取り組むことができた。「まだまだ動ける」自分を練習でも試合でも感じることができた。老け込むにはまだ早い。

延命ではなく、RENAは戻って来た

「昔の感じが出せたな、取り戻せたなという感じがあります。セコンドの声も全部聞こえて、いろいろ考えながら試合ができました。前の試合よりも全然動けた。もう2つ3つステップアップできるなって」

 なるべく早い段階で次の試合がしたい、とも。今回はケガからの復帰初戦だから完全復活とまでは言えないかもしれないが、少なくともRENAのキャリアが蘇生したことは間違いない。晩年の踏ん張りではなく、今後の可能性を感じることのできる試合だった。

 その手応えから、タイトルに言及することにもためらいはなかった。以前は練習をともにする浜崎朱加がベルトを巻いていたからRIZINのタイトルとは無縁だったが、今は違う。浜崎に勝った現王者は伊澤星花。一本勝ちの山を築く13戦無敗の26歳だ。

「今“じゃあ次”と言えるレベルではないと思います。もっと強くなってから、取り戻してから挑戦したい。次にいい勝ち方ができたら年末でも、来年RIZINが10周年なのでその時でも。私はRIZINの一発目の興行から出ているので」

 引退どころの話ではない。具体的にタイトルマッチを考えるところまで、RENAは戻ってきたのだ。衰えをごまかしながら延命するのではなく、真っ向勝負での勝利とともに。

文=橋本宗洋

photograph by RIZIN FF Susumu Nagao