センバツ1回戦が終了した時点での大会ホームラン数は2本。昨年は全チームが登場した1・2回戦での総数が3本(大会合計12本)だったため、意外にも大差はなかった。

 しかし、今年は新基準のバットが正式に採用されただけに、打球に対して「飛ばない」「弱い」と、選手たちは実感を口にしていた。それは飛距離だけに留まらず、守備にも大きな影響を与えている。

 “飛ばないバット”1年目のセンバツ。

 プロ注目のスラッガーやピッチャー、守備職人。選手たちの生の声をお届けする。

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投手目線でも「単純に有利」ではない?

◆洗平比呂投手(青森・八戸学院光星高)

「バットの芯で捉えられると飛ぶ、という印象はあります。バッターのタイミングを外すような変化球で打ち取ることは有効なのかもしれませんけど、そこを相手に狙われると裏目に出てしまうこともあるので、注意しないといけないと感じました」

◆佐宗翼投手(石川・星稜高)

「打たせて取るピッチングが、よりしやすくなったように思いました。もっと力を抜いてコースを突いて投げればよかったんですけど、今日(和歌山・田辺高戦)はそれができなかったのが反省です」

◆吉岡暖投手(徳島・阿南光高)

「新基準のバットに変わってファウルが多くなったかな、と感じました」

◆竹下海斗投手(福井・敦賀気比高)

「打球が飛ばないので、あと1本が出なかったりする場面が多くてロースコアのゲームになってくるんじゃないかと。ピッチャーとしては、そういうところで抑えるのが大事になるのかなと思います」

◆高尾響投手(広島・広陵高)

「バットが変わってもピッチングスタイルは変わりませんけど、内野と外野の間に落ちる打球が増えたように思います。インコースで詰まらせると飛ばないんですけど、アウトコースをバットの先っぽに当てられるとヒットになることが増えたので、コースには気を付けたいです」

◆橋場公祐捕手(青森・青森山田高)

「これまでならホームランだったような打球が失速したり、すごく飛ばない感じはしました。センバツでもロースコアのゲームが多くなっているし、今まで以上に1点の重みが出ると思います」

多く聞かれた「芯で捉えないと飛ばない」の声

◆ラマル・ギービン・ラタナヤケ内野手(大阪・大阪桐蔭高)

「バットの芯を外されてボールの下をこすってしまうと、前のバットよりそこまで打てないような気がしました。でも、捉えたからといって飛ぶという意識は自分にはないです」

◆山岡純平内野手(兵庫・報徳学園高)

「(セカンド守備で)定位置よりも前の打球が多くなりました。後ろの打球は内野と外野の間に落ちるようなフライが増えたので、センターやライトとの声掛けも大事になってきますし、風もちゃんと計算しながら守るように意識しました」

◆萩原獅士内野手(石川・星稜高)

「新しいバットは細くなった分、最初はその対応が難しかったです。普段の練習で使っている木製バットは芯が広くて捉えやすいし、しなるというか、ミートした時にぐにゃっとボールを押し込める感覚があって好きなんですけど、低反発バットではそれがないんで。でも、だんだん慣れてきたし不安はなくなっていると思います」

◆岩下吏玖内野手(鹿児島・神村学園高)

「バットが細くなった分、捉えたと思ってもボールの下をこすってしまうような打球が多くなりましたね。(守備では)サードに飛んできた瞬間に『おっ!』と思うような打球でも、詰まっていると意外に来ないです。バントも今までより打球が死んでしまい、セーフになってしまうことが増えたような気がするので、一歩目のスタートとか今まで以上に気を付けるようにしています」

◆竹田智紀内野手(青森・八戸学院光星高)

「ちゃんとバットの芯で捉えないと飛ばないですね。根っこだと本当にヒットになりにくくなったんですけど、真芯で捉えられると前のバットと変わらないような気がします。(ショート守備では)バットを振り抜いたと思っても、芯から外れたら打球が弱くなると思います。それだと一歩目の反応が鈍くなるので、芯を食ったときのゴロとの見極めをしっかりしたいです。三遊間の深い当たりも、今までなら早く抜けた打球だったのかなと思っていても追いつけることもあるので、しっかり止めるようにしていきたい」

◆福尾遥真内野手(福島・学法石川高)

「(ショートの守備では)思ったより打球が来ないように思いましたけど、芯で捉えられるとそれなりの打球が来るというか。音で判断するのは難しいというのはありますけど、しっかり打球に対して反応していきたいです」

守備位置も「打球が飛ばない」前提で

◆橋本友樹内野手(兵庫・報徳学園高)

「ゴロもフライも、強い打球が来るときは来るけど弱い時は弱いと感じました。2ストライクから逆方向のバッティングをされてきたので、そういう場面では(ショートの自分は)右バッターならセンター方向、左バッターならレフト方向への意識を強めないといけないと思いました」

◆郷壱成外野手(三重・宇治山田商高)

「(レフト守備で)より前に守ることを意識するようになりました。バックホームをするような場面では、ゴロで抜けてくる打球がちょっと弱かったので、より前に守るようにしています」

◆モイセエフ・ニキータ外野手(愛知・豊川高)

「ホームランを打った打席がそうでしたけど、バットの芯で捉えると長打が出るというか。でも、いいスイングができたとしても、ちょっと詰まると外野の頭を越えなかったり、対応できなかったりしたところが多かったです。まだ扱いが難しいです」

◆専徒大和外野手(石川・星稜高)

「打球が飛ばないことはわかっていたんで、フライを上げるのではなく、ゴロとか低く打つことを常に意識しています。ライナー系は伸びる印象がありました」

◆高橋亘史外野手(石川・日本航空石川高)

「捉えられたと思った打球でもセンターの正面だったり、ランナー一、二塁の場面でも三塁やホームで刺しやすくなったりすると思ったので、定位置より前にポジションをとっていました。後ろの打球のケアだけ気を付けるようにしていました」

◆風本采弥三塁コーチャー(青森・青森山田高)

「(ランナーが二塁にいる場面で)外野が前に守るようになったので正面の打球はなかなか回せなくなりましたけど、左右に逸れたらボールを捕った後に投げにくい体勢になるので『行ける』と思ったら回すようにしています。バットが変わってから自分で判断するようになりましたけど、コーチャーのセンスが大事になってくるのかなと思っています」

 道具が変わり、選手たちは対応するべく技術を磨く。それは高校野球の変遷でもある。

 前年までの旧基準バットが採用されたのが2001年の秋。翌年のセンバツでは14本だったホームランは、夏には43本と3倍にも増加と、適応を証明した実績がある。

 試行錯誤の春を経て夏へ――。

 高めた技量、新たな個性。新基準バットは確かな改革をもたらすはずである。

<監督編を読む>

文=田口元義

photograph by JIJI PRESS