「まったく変わらないです」

「えっ?」

 あまりにも素っ気ない口調、あまりにも身も蓋もない返答に、思わずそう聞き返してしまった。

「まったく変わらないです。ただの高校生なんで、変わらないです。髪を伸ばしたくらいでは」

 中央学院の部長、福嶋翔平に脱丸刈りにともなう変化を問うと、表情をまったく崩さぬまま、そう答えた。

髪型自由の“誤解”「うちはホワイトじゃない」

 脱丸刈り。オフ期は週休2日。ダンス部、クッキング部、お笑い部といった部内クラブ。あるいは、監督の相馬幸樹のことを選手らは「相馬さん」とさん付けで呼ぶ。今大会、4強入りを果たした中央学院は、その独特な考え方や取り組みが話題となり、開幕前から注目を集めていた。

 中央学院が丸刈りの強制をやめたのは2年前の冬だった。県内強豪の中でいちばん早くに脱丸刈りを図りたいという相馬たっての希望だったという。だから、今の3年生は入学時から、すでに髪型は自由だった。

 髪型が自由で、部内にダンス部があると聞くだけで、何やらえらく自由なイメージがあるが、福嶋は、そんな外野の勝手な想像も一刀両断した。

「実際、厳しいですけどね。練習も、生活指導も。うちの男子生徒は校則で(髪が)耳にかかっちゃいけないんですよ。だから、そういうのを守れなかったら、けっこう怒るんで」

 確かにぱっと見、チームの雰囲気もそこまで「規格外」な印象は受けなかった。どちらかというと、強豪校のそれである。

「9番・レフト」の上村晃平も言う。

「YouTubeとかでも『令和の野球チーム』みたいな取り上げられ方をして、ホワイトなイメージがありますけど、うちはそんなにホワイト、ホワイトしてないです。監督、部長も勝ちたいという気持ちがすごくて、甘い気持ちが出たら怒られますし。なんなら、そっちの方が多いというか」

 センターの控えである山崎銀士朗もチームの自由度を緩やかに否定した。

「野球に関しては自由っていう感じではなく、しっかり厳しくやってる。練習メニューも指導者から言われたことをやるという感じです」

 昨年夏の慶応の優勝のインパクトが強過ぎ、つい「サラサラヘア=自由=エンジョイ」という短絡的な公式に当てはめがちだが、それはそれで偏見であることに気づかされる。山崎は言う。

「自分たちは笑顔とかじゃないです。粘り強さ、気合い、闘争心とかが強さだし、アピールポイントだと思っています」

 上村も強いまなざしを向けて言った。

「言葉は悪いけど、相手を潰しにいくぐらいの気持ちでやってる。本気でやった結果、楽しかったねってなればいいんで」

 上村の言葉はスポーツの本質を突いていた。

「カッコつけてんじゃねえよ」の高校球界で…

 ひとつ不思議なことがあった。髪型は自由なのだから、丸刈りや短髪の選手がいてもよさそうなものだが、ほとんどいないのだ。いわゆる「サラサラヘア」の選手が大多数だった。

 ある選手にそのことを問うと、言いにくそうにこう漏らした。

「いろいろあって……。相馬さん、基本的に坊主は好きじゃないと思うんです。普段から、すごいおしゃれな服を着ているので」

 中央学院のグランドコートはいかにも「高校野球」というものではなく、私服としても使えそうなクラシカルなデザインのものだった。聞けば、それも相馬のデザインなのだという。

「カッコつけてんじゃねえよ」

 高校野球の世界ではそんなセリフをよく耳にする。だが、相馬からは逆のメッセージを感じた。戦いの場においても見栄えに配慮するという相馬の思考も本来は普通のことである。むしろ、丸刈りでないことを特別視する世界のほうが異様ともいえる。

 野球ばかりにならないよう休養日を増やしたことも、「部内クラブ」をつくったこともそうだが、中央学院が提示したものは、実は、世間のスタンダードばかりだった。

文=中村計

photograph by KYODO