高校球児の選ぶ「好きなプロ野球選手」1位は誰か。『センバツ2024 第96回選抜高校野球大会完全ガイド』(週刊ベースボール別冊春季号)に掲載された全633選手のアンケート結果を集計し、ベスト25を作成した。※1人が2選手以上挙げた場合、それぞれカウント。敬称略〈全3回の1回目/第2回、第3回も公開中〉

◆◆◆

 センバツ球児の「好きなプロ野球選手」には偏りが出ると思う人もいるだろう。出場校のOBに票が集まり、出場校の多い地区に本拠地を持つ球団や、その地区出身の選手が有利になるという指摘だ。

「地区による出場校数の違い…影響ある?」

 そこで、地区別の「好きなプロ野球選手」1位を挙げてみよう(21世紀枠での出場校は所属地区に分ける。カッコ内は出身高校の都道府県)。

■北海道2校 イチロー(愛知)、山田哲人(大阪)
■東北3校 大谷翔平(岩手)、甲斐拓也(大分)、柳田悠岐(広島)
■関東/東京6校 大谷翔平(岩手)
■東海3校 柳田悠岐(広島)
■北信越3校 内山壮真(石川)、吉田正尚(福井)
■近畿7校 柳田悠岐(広島)
■中国2校 大谷翔平(岩手)、柳田悠岐(広島)
■四国2校 山本由伸(宮崎)
■九州4校 今宮健太(大分)

 北信越1位タイの内山は母校・星稜から4票を集めた。このように球児が在籍校のOBを挙げる傾向はあるが、組織票になるほどの数には至らない。

 では、各地区と出身校、本拠地球団の選手に人気の相関関係はあるのか。北信越1位タイの吉田は福井・敦賀気比、九州1位の今宮は大分・明豊の出身であり、ある程度の繋がりはありそうに思える。しかし、近畿と東海1位の柳田は広島商から広島経済大、そして福岡ソフトバンクに入団している。また、近畿で絶大な人気を誇る阪神の選手の同地区最高は8位タイの近本光司、坂本誠志郎の3票だった。

 つまり、高校球児の「好きなプロ野球選手ランキング」は各地区の出場校数や出場校に幾分の影響は受けるが、上位に大きな変動を及ぼすには至らないと考えられる。

 この前提を元に、総合順位を見ていこう。

 まず、16位から25位は以下になった(順位横のカッコ内は昨年の順位。選手名横のカッコ内は所属球団、今季の予想ポジション。OBは現役時代の主なポジション)。

「好きなプロ野球選手」16〜25位

16位タイ(↑21):9票 岡本和真(巨人・一塁手)
16位タイ(=16):9票 中田翔(中日・一塁手)
16位タイ(↑26):9票 今永昇太(カブス・投手)
19位タイ(↑21):8票 藤原恭大(ロッテ・外野手) 
19位タイ(↓13):8票 西川龍馬(オリックス・外野手)
19位タイ(↑32):8票 近本光司(阪神・外野手)
19位タイ(↑90):8票 牧秀悟(DeNA・二塁手)
23位タイ(↓14):7票 村上宗隆(ヤクルト・三塁手)
23位タイ
(↑32):7票 糸井嘉男(OB 阪神など・外野手)
25位タイ
(↓14):6票 イチロー(OB マリナーズなど・外野手)
25位タイ(↑32):6票 周東佑京(ソフトバンク・外野手)

※「なし」「特になし」などは除く

 昨年の球界2大ニュースが順位に大きな影響を及ぼした。阪神優勝の原動力で、日本シリーズMVPの近本がベスト20にランクイン。猛虎フィーバーでメディア露出が増えた影響もあるのか、OBの糸井も票数を伸ばした。WBCで知名度の上がった今永、牧、周東も大幅アップ。今永は左投手最多の9票を獲得した。WBC決勝でホームランを放ち、セ・リーグの本塁打王に輝いた岡本はベスト15にあと一歩の16位。一昨年の三冠王から一転、昨年無冠に終わった村上は下降した。

 そして、ベスト15はこうなった。

「好きなプロ野球選手」1〜15位

1位タイ(↑3):33票 大谷翔平(ドジャース・指名打者)
1位タイ(↑6):33票 柳田悠岐(ソフトバンク・外野手)
3位(↓2):23票 今宮健太(ソフトバンク・遊撃手)
4位タイ(↑7):21票 山本由伸(ドジャース・投手)
4位タイ
(↓1):21票 吉田正尚(レッドソックス・外野手)
6位(↑8):19票 源田壮亮(西武・遊撃手)
7位(↑9):18票 坂本勇人(巨人・三塁手)
8位(↓5):17票 山田哲人(ヤクルト・二塁手)
9位(↑90):14票 近藤健介(ソフトバンク・外野手)
10位タイ
(↓4):13票 鈴木誠也(カブス・外野手)
10位タイ(↑21):13票 吉川尚輝(巨人・二塁手)
12位(↓9):12票 森友哉(オリックス・捕手)
13位(↑16):11票 浅村栄斗(楽天・三塁手)
14位タイ(↓11):10票 鳥谷敬(OB 阪神など・遊撃手)
14位タイ(↓11):10票 甲斐拓也(ソフトバンク・捕手)

 1位は大谷と柳田が分け合った。投打でWBC世界一に貢献し、日本人初のメジャーリーグ本塁打王を獲得。連日、メディアで大々的に報道されている大谷のトップは納得感がある。

なぜ柳田1位?「番記者の見解」

 一方、柳田は昨年の6位から1位タイに急上昇した。昨年のオールスターファン投票でリーグ最多得票の人気選手ではある。しかし、WBC不出場、ソフトバンクは3年連続V逸とメディア露出の点では不利だった。なぜ、柳田がトップに躍り出たのか。22年間ホークスの取材を続ける田尻耕太郎記者はこう分析する。

「プロに入った選手に聞くと、中高時代は練習に明け暮れるため、野球中継をあまり見られないそうです。それゆえ、小学生時代に活躍していた選手を答える人も多いのでは。今年のセンバツ球児が野球に興味を持った頃、ソフトバンクは黄金時代を迎えており、柳田はトリプルスリーも達成している。“強いホークスの顔”に票が集まったのだと思います」

 外的要因も考えてみよう。球児は自分と同じポジションの選手を「好きなプロ野球選手」に挙げる傾向があるため、人数の多い外野手は有利になる。昨年1位の吉田正尚、同4位の鈴木誠也がメジャーでプレーし、日本在籍時と比べて目にする機会が少なくなった。その分、同じ外野手の柳田に票が動いた可能性も十分考えられる。さらに田尻記者はもう1つの理由を挙げる。

「柳田は昨年、全試合出場で最多安打のタイトルを獲得している。これも大きいと思います。球児の小学生時代のスターが、現在もチームの主軸として活躍している。柳田と同じ2015年に初めてトリプルスリーを達成した山田哲人は近年、成績が下降している。柳田と同い年で今年36歳になる坂本勇人はここ数年、ケガに泣かされている。その点、柳田は盗塁数こそ減っていますが、年齢を感じさせない輝きを放っています」

 2年前のセンバツ球児の「好きなプロ野球選手」のベスト15を見てみよう(所属やポジションは当時)。

2022年版「好きなプロ野球選手」1〜15位

1位:41票 吉田正尚(オリックス・外野手)
2位:30票 大谷翔平(エンゼルス・投手+指名打者)
3位:28票 坂本勇人(巨人・遊撃手)
4位:26票 山田哲人(ヤクルト・二塁手)
5位:25票 鈴木誠也(広島・外野手)
6位:22票 柳田悠岐(ソフトバンク・外野手)
7位:18票 森友哉(西武・捕手)
8位タイ:16票 今宮健太(ソフトバンク・遊撃手)
8位タイ:16票 山本由伸(オリックス・投手)
10位:13票 源田壮亮(西武・遊撃手)
11位タイ:12票 浅村栄斗(楽天・二塁手)
11位タイ:12票 藤原恭大(ロッテ・外野手)
11位タイ:12票 村上宗隆(ヤクルト・三塁手)
14位:10票 甲斐拓也(ソフトバンク・捕手)
15位タイ:9票 小林誠司(巨人・捕手)
15位タイ:9票 鳥谷敬(OB 阪神など・遊撃手)

 22年開幕前の時点では柳田より坂本や山田のほうが順位は上だった。近年の順位変動に影響を及ぼしていそうな成績や出場数は、守備の負担の大きい二遊間と外野手というポジションの違いから生まれたのかもしれない。

個室の宿舎は「寂しい」…柳田ってどんな人?

「柳田のキャラクターも見逃せません。キャンプで二軍スタートだった2020年、宿舎で1人部屋が用意されたのに、『寂しいから』と自ら希望して4人部屋に。馬主になるほど馬好きの彼は大学時代、自分の車を『ダイワメジャー』(皐月賞などGⅠを何度も制した競走馬)と呼んでいました。犬や猫ならわかりますが、車に名前を付ける人は珍しいですよね(笑)。また、昨年までキャプテンを務めていましたが、今年から肩書きが外れました。それについて聞くと、『去年までは真面目ぶっていたんですよ。外れてすごく嬉しい』と素直に話していました。他の選手なら怒られそうな発言も、柳田だと許される。ファンに愛される天然キャラなんです」(田尻記者)

 田尻記者によれば、高校時代に線の細かった柳田は夏の地方大会が終わった後、卒業まで半年間モスバーガーでアルバイト。そのお金でジム通いを始め、大学時代も継続して肉体改造に成功したという。努力で体格を向上させた話が球児に知れ渡れば、ますます人気が上がるかもしれない。

「好きなプロ野球選手」は大谷翔平と柳田悠岐がトップタイだった。次の記事では12球団の「人気No.1選手」を考察していく。まさかの0票になった選手とは――。〈つづく〉

文=岡野誠

photograph by Nanae Suzuki