2023ー24年の期間内(対象:2023年12月〜2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ドジャース部門の第2位は、こちら!(初公開日 2024年2月21日/肩書などはすべて当時)。

 ドジャースに新加入した山本由伸の朝は早い。メディアにクラブハウスが開放される8時15分の前には、既に着替えてトレーニングを始めている。トレーニングルームで独自の柔軟や体幹を鍛える動きなど、グラウンドに出る前に入念な準備をする。

 対照的なのは大谷翔平だ。メディアがクラブハウスから出される9時になる直前、寝癖をつけながらロッカーに飛び込む姿が何度かあった。キャンプでは基本的にゆっくりと施設に入るのが大谷流。睡眠時間の量を大切にする大谷にとって、ギリギリまで寝るというのは変わらないルーティン。それはドジャースに入っても同じだ。

 ロッカーに入ると、速やかに着替えを済ませてトレーニングルームの方へ向かう。そこからはもちろん、濃密な練習を一つ一つ丁寧にこなしていく。

 デーブ・ロバーツ監督は「彼には1分1秒たりとも無駄がない。全てが意図的で、目的を持ってやっている」と感心する。

早くもドジャースに溶け込んだ大谷翔平

 大谷が「まずは環境に慣れるのが最優先」と言ったように、練習メニューやクラブハウスのルールなどはエンゼルスと異なる。新天地は勝手が違う。

 野手陣も揃い、初めてユニホーム姿を披露した全体練習初日のこと。クラブハウスでは、数種類あるズボンのどれを穿くのか、迷った。ロッカーが隣のムーキー・ベッツに聞き、スタッフにも確認。ズボンは事なきを得たが、練習場で帽子の間違いに気づいた。一人だけ、「LA」のマークがついた帽子を着用し、照れながら、「D」のマークの帽子に変えた。

 全体練習3日目となった2月16日。今度は、大谷がフリー打撃の練習を行うフィールドを間違った。違うフィールドに足を運ぼうとした時、2021年のオールスターでも交流を深めた新加入のテオスカー・ヘルナンデスらが叫んだ。

「何をしているんだ、ショウヘイ!」

 背番号17が慌てて引き返す。

 フリー打撃中、今度はベテランのミゲル・ロハスから声が飛んだ。26本中半数の13発の柵越えをした大谷の打球が、フェンスを越えなかったときだった。

「打ち上げるな!」

 もちろん、ロハスの冗談。これに、大谷はにこやかな笑顔を見せた。

 この時、大谷相手に打撃投手を務めたのがディノ・エベルコーチだった。大谷がエンゼルスの新人だった2018年、1年間、コーチと選手として親しい間柄だった人物だ。ロハスの冗談を聞き、こう思ったという。

「ショウヘイはそういうのが好きなんだよ。チームの一員になりたい。そうやってみんなと溶け込みながら、どんどん心地よい感じになっていくんだ」

 ロバーツ監督も、大谷の性格をこう語る。

「卵の殻を割るような扱いにくいスターはいるものだが、ショウヘイは全く違うタイプだと思う。みんなと同じように扱われたい。そして、ただただ、彼は勝ちたい、チャンピオンになりたい。だからここに来たんだ」

旧知のコーチが証言「彼にはオーラがある。でも…」

 メディアに開放されるクラブハウスには、今のところ主力選手がほとんどいない。大谷を追うメディアの大群を敬遠しているのだろう。奥に引っ込んでいる。

 野球界で一番のスター選手の加入は、他の選手たちの環境を変えたが、「大谷翔平」は変わらない。いつ、どこにいても自然体だ。

 屈託のない笑顔。そして、気遣い。スターの加入がチームのバランスを崩すこともあり得るが、大谷に限ってはそういうことはないだろう。

 大谷の新人時代を知るエベルコーチは「彼にはオーラがある。クラブハウスにいれば、誰もがその存在感を感じる。マイク・トラウトやアルバート・プホルスのようにね。でも、彼は同時に礼儀正しいし、みんなをリスペクトしているんだ」と話す。

MVP一塁手フリーマンの長男チャーリー君と…

 2020年MVPのスター一塁手フレディ・フリーマンは、大谷が長男のチャーリー君(7歳)を常に気にかけてくれることに、「彼の人間としての偉大さを感じる」と言った。

「2年前のオールスターで初めてうちの息子のチャーリーを紹介したんだ。その後、昨年、山本の面談で会った時に、大谷から『チャーリーはどこ?』って。このキャンプで会った時もそう言ってくれるんだ」

 17日にチャーリー君はドジャースのキャンプにきて、クラブハウスで遊び回っていた。

 練習後、フリーマンは取材に応じると、嬉しそうにスマートフォンをメディアに差し出した。

「こんなに幸せそうな写真はないだろう。すごく嬉しそうだった」

 大谷とチャーリー君のツーショット写真。

 ユニホームの色が赤から青に変わっても、大谷は人の心をすぐに魅きつける。

文=阿部太郎

photograph by JIJI PRESS