勝ってはしゃぐこともなければ、負けて落ち込むこともない。

 ドジャース山本由伸は、メジャー1年目とは思えないほど、どんな状況でも表情を変えることなく、マウンドに立ち続けてきた。

3勝目の後に語った「十分に慣れてきました」

 5月1日のダイヤモンドバックス戦で6回無失点と好投し、3勝目を挙げても、試合後の口調は、いつもと変わらないトーンだった。

「しっかり落ち着いて自分の投球をできるようになっているので、それがいい投球につながっているかなと思います。細かいところにたくさん違いがあるんですけど、十分に慣れてきましたし、それが自分の投球につながっているかなと思います」

 シンプルな言葉を、淡々とつなぐ山本の表情からだけでは、本音はうかがい知れない。ただ、常に先を見据えているからこそ、目の前の結果に一喜一憂することのない姿勢と、自らを客観視し続ける「頑固さ」は、おそらくオリックス時代から変わっていない。

450億円超えの期待値を背負った開幕

 メジャーで1球も投げていないにもかかわらず、昨オフ、投手史上最高額となる12年総額3億2500万ドル(約463億円=当時レート)の巨額契約を結んだ山本に対しては、高い期待値だけでなく、「お手並み拝見」とばかり、興味本位な視線も向けられていた。

 デビュー戦は、散々な内容だった。韓国・ソウルで臨んだ3月21日の初登板では、制球が定まらず、1回5失点とKOされた。キャンプ地アリゾナから太平洋を越える長距離移動に加え、登板前日の試合後には、大谷翔平の通訳だった水原一平氏の違法賭博事件が明るみに出て、チーム全体に激震が走った。その後、山本は当時の心境などを語ってはいない。だが、ただでさえ緊張するはずのデビュー戦のマウンドが、心身ともに万全の状態には程遠かったことは想像に難くない。

 周囲の雑音は結果でかき消す以外になかった。

メジャー7年目の先輩・大谷との共同作業

 米国本土初戦となった同30日のカージナルス戦では白星こそ逃したものの、5回無失点と上々の投球を披露した。その後、4月6日のカブス戦で初勝利を挙げると、25日のナショナルズ戦で2勝目をつかみ取り、試合後は「ここまでで一番の投球」と、確かな手応えを口にした。さらに3勝目を挙げた5月1日の時点で15イニング連続無失点と、韓国での登板を除けば、米国での6試合で防御率1.64。開幕から1カ月が経過し、「十分に慣れてきた」の言葉通り、着実に3年連続沢村賞の底力を発揮し始めた。

 戸惑いの多い1年目の山本にとって、新天地ながらメジャー7年目を迎えた大谷の存在が支えになっていることも間違いない。遠征先のシカゴで山本が初勝利を挙げた試合後、ひと足早くシャワーを浴び終えた大谷は、その日のヒーローとなった山本への日米メディアからの取材が終わるのを、椅子に座って待っていた。その後は、他の日本人スタッフと一緒に同地で人気の焼肉店へ向かい、気兼ねすることなく、初勝利を祝った。

 他の遠征先の試合前後の食事にしても、各地の日本料理店へ手分けして弁当をオーダーするなど、グラウンド外でも同じ日本人選手として支え合ってきた。ドジャース入団会見の際、山本は「大谷さんがもし他のチームを選んだとしても、僕はドジャースを選んでいたかなと思います」と言った。その一方で、大谷の移籍が「決断のひとつの理由となりました」と、素直な胸中も明かした。

山本の移籍を本当に助けてくれた

 昨オフの交渉以来、2人の関係をつぶさに見てきたドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、本領を発揮し始めた山本の活躍の一因に、大谷のサポートを挙げた。

「山本の移籍を本当に助けてくれた。見ていて楽しいね」

 山本にしても、大谷に対する直接的な言葉はなくとも、周囲への感謝を忘れてはいない。

「ドジャースはサポートをすごくたくさんしてくれているので、本当に助かっています」

大谷への“注文”

 山本が3勝目を挙げた1日、大谷は今季初めてスタメンから外れ、完全休養となった。それでも、大量の援護を受けて白星を手にした山本は、試合後、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。

「多少は大谷さんが出てないという違和感はありますけど。僕が投げる試合で打ってほしいなと思います。僕の試合はあまり打ってないので、これから」

山本と大谷の共通点

 開幕後、まだ1カ月あまり。

 オリックス時代から変わらない独自のやり投げ調整、遠投など、日々のルーティンを最重要視する山本の頑なさは、「二刀流」を全うするメニューで譲ることのない、大谷と似通っていると言っていい。目先の結果だけにとらわれない姿勢、妥協することのないプロ意識など他にも共通点は多い。

 ともに20代ながら、実績だけでなく、「頑固さ」をも互いにリスペクトし合える関係。

 この2人に関して、「両雄並び立たず」は、おそらく当てはまらない。

 山本の快投を、大谷が豪快なアーチで援護する試合が増えれば増えるほど、ドジャースの快進撃も長く続いていくに違いない。

文=四竈衛

photograph by AFP=JIJI PRESS