日本代表やJリーグといったフットボールについて、日本通のチアゴ・ボンテンポ記者に“お世辞抜き”で論評してもらうシリーズ。今回は4大会ぶり優勝を飾ったU-23アジアカップ決勝ウズベキスタン戦、本番のパリ五輪18人枠の“いち早い予想”について語ってもらった。(全2回の第2回/第1回も配信中)

 決勝戦後の表彰式で、藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)が大会MVPに選ばれて満面の笑みを浮かべた。チアゴ・ボンテンポ記者(38)は彼の働きについて絶賛するとともに、今大会の日本代表についても掘り下げて分析した。

藤田は遠藤航の後継候補、山田は秀逸なFKキッカー

――この大会で日本で最高のプレーをみせたのは、やはり藤田でしょうか?

「もちろんだ。国際大会で選出されるMVPは『あれっ?』と思うことが多いんだけど、今回に関しては妥当だった(笑)。守備でも攻撃でも、そしてリーダーシップの点でも素晴らしかった。近い将来、日本代表にとって非常に重要な戦力になるはず。遠藤航(リバプール)の後継者候補だ。

 彼に次ぐのが、小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)。すべての試合で、ほぼ完璧なプレーをした。もし決勝で彼がPKを止めていなかったら、と考えると背筋が寒くなる(笑)。CB高井幸大(川崎フロンターレ)はチーム最年少の19歳でありながら、193cmの長身で空中戦に強く、当たり負けしない。足元の技術も高く、攻撃の起点となれる。決勝戦の得点も、彼のボール奪取と攻め上がりから生まれた。

 攻撃陣では、この大会で2得点をあげた山田楓喜(東京ヴェルディ)が光った。右サイドでチャンスを作れ、決定力が高い。久々に日本に現われた秀逸なFKキッカーでもある」

――大会を通じて、チームに最も貢献した選手の多くが守備の選手だったというわけですね。

「これは、このチームが守備に特長があり、逆に言えば攻撃陣が少し物足りなかったことを物語る。ただ、それは必ずしも攻撃陣がタレント不足だったことを意味しない。A代表の常連のMF久保建英(22、レアル・ソシエダ)を招集できなかった仕方がないとして、欧州で活躍している鈴木唯人(22、ブレンビー)、福田師王(20、ボルシアMG)といったアタッカーを招集できなかった」

藤田と小久保の好プレーと“寛容性”

――藤田と小久保は、日本以外の国にもルーツを持つ選手です。このチームでは、控えGKの野澤大志ブランドン(FC東京)も同様。今大会でインドネシアには旧宗主国オランダ生まれの選手がいましたが、韓国や中国ではダブルルーツを持つ選手は多くない。

「日本では以前からフットボールに限らず、テニスの大坂なおみ、バスケットボールの八村塁、陸上短距離のスプリンターたち、プロ野球などでも多くのダブルルーツの選手が活躍しているよね。

 日本が人種面で非常に寛容な社会、とは言い難いかもしれない。

 例えば、今年初めのアジアカップでGK鈴木彩艶(シント・トロイデン)がミスをした際、人種差別的な批判が少なからずあった。この大会で藤田と小久保が同様の批判を受けなかったのは、2人が文句の付けようがないプレーをしたからだ。

 とはいえ、日本社会は少しずつ人種的な寛容さを高めており、その点では韓国や中国より先を歩いていると思う。今回の藤田と小久保の活躍でその傾向がさらに強まるようであれば、日本のスポーツ界、さらには日本社会全体にとっても好ましいことなんじゃないかな」

大岩監督のマネジメント、協会のサポートも◎

――大岩剛監督のチームマネジメントをどう評価しますか?

「2017年から2019年まで鹿島アントラーズを指揮して、2018年のアジアチャンピオンズリーグを制覇したわけだけど、Jリーグでは上位には食い込めても優勝はできなかった。

 でも、2021年からこの世代のチームの監督を務め、時間をかけてチームを作り上げ、采配面でも能力を発揮した。今回の優勝で、指導者としてのステータスを一気に高めたと思う」

――日本サッカー協会のサポートも見逃せない。

「3年前に大岩監督を招聘し、2年前のU-23アジアカップにあえてU-21代表で参加した。昨年のアジア大会にもね。〈U-24にオーバーエイジ(OA)3人を招集可能〉というレギュレーションを度外視し、パリ五輪への準備を優先してこの世代の選手によるチームで参加するなど、長期的な視野で強化を進めてきた。2022年のU-23アジアカップにU-21代表で臨んだ日本とウズベキスタンが今大会の決勝を戦ったのは決して偶然ではないと思う」

従来のアジア列強で力を発揮したのは日本だけだった

――準々決勝でインドネシアの前に敗退した韓国では「日本の長期的な視野による準備を見習うべきだ」という議論があるようです。

「日本は、2013年にU-22アジアカップ(2016年以降、U-23の大会となった)が創設されたときからずっとこのやり方。気付くのがちょっと遅いね(笑)」

――ウズベキスタン、インドネシア、ベトナムなどの躍進で「アジアのレベルが向上した」という声がある。

「アジアからのワールドカップ(W杯)出場国は、長年、日本、韓国、オーストラリア、イラン、サウジアラビアの5カ国が独占してきた(2022年大会は、この5カ国に加えて開催国カタールが初出場した)。しかし、2026年大会の出場国が従来の32から48に増え、アジアからの出場枠が4.5から8.5へと急増した。このことが、これまでW杯出場を夢と諦めてきた中堅国に大きなモチベーションを与えたのは間違いない。多くの国が選手育成に真剣に取り組んでおり、その成果が表われつつある。

 一方、これまでアジアの頂点に君臨してきた韓国、オーストラリア、イラン、サウジアラビアは今大会で不振だった。従来の強豪国で力を発揮したのは、日本だけ。中堅国がレベルアップしたのは確かだけど、日本以外の強豪国の実力が低下したのであって、アジア全体のレベルが向上したとは言い切れないと考えている」

GKは小久保と彩艶。CBで冨安か板倉、SBで…

――この大会に出場登録されたのは23選手ですが、パリ五輪の出場登録メンバーは18人。OA3人を使うことが予想され、この大会に招集されなかった23歳以下の選手が加わる可能性もあります。〈すべてのクラブがすべての選手の供出に応じてくれた〉と仮定して、18人を選んでください。基本フォーメーションは、当面、4-3-3とします。まず、GKから。

「小久保と彩艶で決まり。どちらがレギュラーかって? この大会におけるプレーを見る限り、小久保を外すわけにはいかないだろうね(笑)」

――守備陣は? 4バックとして、控えを含めて6人ほどを選んでください。

「右SBは関根大輝(柏レイソル)。CBは、1人は高井で、もう1人はOAを呼びたい。第一候補は冨安健洋(アーセナル)だけど、クラブが出してくれない場合は板倉滉(ボルシアMG)か町田浩樹(サンジロワーズ)。控えが木村誠二(サガン鳥栖) 。左SBにも、OAの中山雄太(ハダースフィールド)を使いたい。控えが大畑歩夢(浦和レッズ)」

3トップの一角に久保、センターフォワードにOA枠で…

――中山はこれまで報道でも名前が出ておらず、少し意外かもしれません。ただ、左サイドバックに加えてシステムによってはセンターバックや中盤もこなせるポリバレント性は、18人枠の中で貴重かつ有益と言えますね。続いて中盤は? 3人であれば、控えを含めて5人ほど選んでください。

「アンカーは藤田で決まり。残り2人は、ボランチなら山本理仁(シント・トロイデン)と松木玖生(FC東京)。攻撃的MFは、レギュラーが鈴木唯人で控えが荒木遼太郎(FC東京)」

――中盤にOAで遠藤航(リバプール)か守田英正(スポルティング)を呼ぶことは考えませんか?

「もちろん、このポジションもOAを呼べたらいいんだけど、OAはDF2人とFW1人に使いたい」

――3トップは? 控えも含めて、5人選んでください。

「右ウイングは、レギュラーが久保建英で控えが山田。CFは、OAで上田綺世(フェイエノールト)。控えは、当面は細谷真大(柏レイソル)だろうけど、ベルギーで点を取っている長身の後藤啓介(18、アンデルレヒト)を呼んでもいい。左ウイングは、少々悩ましい。OAで三笘薫(ブライトン)を呼べたらいいんだけど、そうもいかないだろうから、平河悠(町田ゼルビア)か佐野航大(ナイメヘン)のどちらか。このポジションは、久保がプレーすることもできる」

――1968年メキシコ五輪以来56年ぶりのメダルを獲得するのは可能でしょうか?

「この大会でチームとしての戦い方が確固たるものとなった。経験値が高まり、選手たちは大きな自信をつけたはず。2012年ロンドン大会と2020年東京大会(実施は2021年)と過去3大会で2度、ベスト4入りしており、メダルを争う資格は十分にある」

もしパリへ行けなくても、あくまでも通過点

――今後、パリ五輪までに日本が強化すべき点は?

「今回のチームには、DFとCFに弱点があった。そこをOAとこの大会に招集できなかった23歳以下の選手で補い、さらに一人ひとりの選手がクラブで成長を続けてもらいたい」

――あなたが挙げた18人の中で、この大会に出場した選手は11人か12人。半分程度しかパリへ行けません」

「この大会で日本の優勝に貢献しながらパリへ行けない選手には酷だけど、各々の大会にはレギュレーションがあるので仕方がない。もしパリへ行けなくても、五輪はあくまでも年齢別の大会であり、選手にとってはあくまでも通過点。今回、厳しいアジアの大会を勝ち抜いたことを胸に刻み込み、引き続き努力を積み重ね、輝かしい未来を切り開いてほしい」

 この大会を通じて、長時間、チアゴ記者に話を聞いてきた。

 彼は、日本と日本文化を愛し、日本のフットボールを応援してくれる一方で、冷徹な眼でフラットに事象を眺め、我々に異なる視点とアイディアを提示してくれる。長年ブラジルに住み、ブラジルと南米のフットボールを眺めてきた筆者にとっても、参考になることが多かった。

<第1回からつづく>

文=沢田啓明

photograph by Kiichi Matsumoto