5月24日、第6戦カタルーニャGPがバルセロナのカタルーニャ・サーキットで開幕する。今年は地元の英雄マルク・マルケスがひさしぶりに優勝争いに復活し、強いマルケスを見ようと大勢のファンが駆けつけることになりそうだ。

 毎年10万人前後の大観衆が押し寄せるカタルーニャGPだが、混雑回避のため取材陣や大会関係者、ゲストのために用意される専用ルートが、混雑回避のためか開幕前日の木曜日から指定された。

 テレビをつければスポーツニュースに限らず、1日に何度もマルケスが登場する。現在マルケスはマドリードに住んでいるが、生まれ育ったのはバルセロナからクルマで1時間ほどの距離にあるセルベーラという小さな街。マルケスにとっては、年4大会が開催されるスペインラウンドの中でもっとも気合の入るホームGPとなる。

 今年はホンダからドゥカティに乗り換え、優勝までもうひと息の走りを何度も見せて、現在ランキング3位につけている。ドゥカティ移籍後の初優勝が秒読み段階ともいえ、その期待感が高まるカタルーニャGPが盛り上がらない訳がない。

 そして、マルケスのほかにも期待がかかるスペイン人ライダーは大勢いる。5戦を終えて今季2勝でランク首位につけるホルヘ・マルティン。今季、最高峰クラスで3メーカー目となるアプリリアで優勝し、現在5位のマーベリック・ビニャーレス。ルーキーながら表彰台に2回上がり、総合6位で注目されるペドロ・アコスタ。総合8位につけながら今季限りでの引退を表明したアレイシ・エスパルガロ。なんとMotoGPクラストップ10の半数をスペイン人ライダーが占めているのだ。

 さらに、マルケスの弟のアレックス・マルケス、これからが期待されるラウル・フェルナンデスとアウグスト・フェルナンデス、20年にスズキでチャンピオンになったジョアン・ミル、実力者のアレックス・リンスと、実に10人ものスペイン人レギュラーライダーがいる。もっと言えば、Moto2、Moto3クラスもスペイン人ライダー全盛なのだから、カタルーニャが満員御礼となるのは間違いない。

スペイン勢を強化したドルナの試み

 それにしても、なぜここまでスペイン人ライダーが強くなったのか。それを説明するにはグランプリを運営するドルナ・スポーツの歴史に触れなければならない。

 スペインに本拠地を置くドルナ・スポーツが2輪レースのプロモーターになったのは、1992年のことである。この年はバルセロナで夏季オリンピック、セビリアで万博が開催された。それに向けて高速道路が整備されるなど、スペイン中が近代化され、活気づいていた。ほぼ時を同じくしてオープンしたのがカタルーニャ・サーキットで、91年にはF1が初開催され、92年のオリンピックでは自転車競技の会場になり、同じ年にWGPが初開催された。

 それ以前のグランプリにおけるスペイン勢といえば、小排気量クラスでこそチャンピオンが生まれても、最高峰クラスで活躍する選手はいなかった。そのため、スペインGPのメインレースはスペイン人選手が優勝争いに加わる小排気量クラスであり、最高峰クラスのレースが始まるころには観客が帰り始めてしまうほどだった(いまもMotoGPクラスの優勝争いにスペイン人ライダーが不在なら、レース中盤で席を立つファンが珍しくない)。

 WGPのプロモーターになったドルナ・スポーツはF1に倣って放送国の拡大を図り、参戦チームにより多くの収益が分配されるシステムを築いた。その一方で、サッカー界を見本に若くて優秀なライダーを育てるカテゴリーを充実させ、それを支える企業を募った。その結果、テレビ、新聞、雑誌といったマスコミでの2輪の露出が増え、相乗効果を生むシステムの中から優秀な選手たちがたくさん出るようになった。

 並行してインフラ面の充実も進められ、カタルーニャに続き、バレンシア、アラゴンと近代的なサーキットが次々と誕生した。その結果、一年中温暖なスペインは2輪レースの中心地となり、現在は上記3カ所にヘレスを加えて4大会が開催されるようになった。

 そうした背景のもと、スペインから次々にスーパースターが生まれることになる。99年にはアレックス・クリビーレがスペイン人として初めて最高峰クラス(500cc)のチャンピオンとなり、その後セテ・ジベルナウやダニ・ペドロサ、ホルヘ・ロレンソなど多くのスペイン勢が活躍する呼び水となった。

国王も注目するMotoGP

 スペインのナンバーワン・スポーツは間違いなくサッカーだが、グランプリの人気も相当である。クリビーレがブラジル・リオGPでタイトル獲得を決めたとき、当時のファン・カルロス国王から祝福の電話がかかってきたことは有名なエピソードである。2000年代に入ると、チャンピオン争いを繰り広げるペドロサとロレンソの仲の悪さが有名になったが、スペインGPでふたりが表彰台に立ったとき、カルロス国王が「仲良くしなさい」と握手させたことも大きな話題になった。

 カタルーニャ・サーキットで開催されるグランプリは今年で33回目となる。スペイン人選手の活躍に地元ファンは熱狂することになるのだろうが、とりわけ、これまで数々の期待に応えてきたマルケスへの注目と期待は大きい。果たして、どんな走りを見せてくれるのか。記録と記憶に残るレースになることを多くのファンが望んでいる。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo